真の黒幕の名前が判明しました。
「もう全部諦めて、サンドラさんも見捨てて、私とこの世界で一緒になろうよ」
「っ!?」
ユリがそう告げた瞬間、僕は弾かれるようにその場から飛び退いた。
どうしてかって? 決まっている。
僕は、初めて彼を怖いと思ったんだ。
全てを諦め、深い闇を湛えたその瞳が。
それでもなお、僕という人間を求めた、彼の果てしない執着が。
「ねえ知ってる? この世界が、神によって創られた世界だってことを」
ユリはクスクスと嗤い出し、語り始めた。
◇
この世界が神によって創り出されてから、実はたった四百年しか経っていないんだ。
君達が知っているデハウバルズ王国の前にあった国……ノルズ帝国だって、その歴史は百年だけなんだよね。
しかも、世界が創られたと同時にノルズ帝国はそこにあって、人間もまるで昔からそこに存在していたかのように、世界の始まりの時点で老若男女が揃っていたんだ。
もちろん幼い頃の記憶だって持ち合わせているんだよ?
そんな過去は、世界に存在しないっていうのに。
つまり何が言いたいかっていうと、神はそんなことだって可能にしてしまうほど強大で、ただの物語の登場人物にしか過ぎないハル君には、太刀打ちできないってことだよ。
まあ、確かにサンドラさんとモニカさんの存在は想定外だったことは認めるよ。神もあの二人の強さには、頭を悩ませているし。
だってさあ……サンドラさんなんて本来ならハル君に婚約破棄されて、失意のままに処刑されるだけの運命だったんだよ? モニカさんに至っては、そもそも物語にすら登場していないんだ。
だから二人がこんな能力を秘めているなんて神も思いもよらなくて、なおさらこの物語から排除しようと必死になっているんだよね。
そのためにこの世界のあらゆる最強武器をエイバル君に与えて、君という存在をあの場所から連れ出したわけだし。
あは♪ そんなに怒った顔をしないでよ。
だけどサンドラさんの能力【竜の寵愛】は、君という存在がいて初めてその力を発揮する。
君という存在があの場所にない今、いずれその力を失ってエイバル君に倒される未来しか残されていないんだよ。
モニカさんに関しては……うん、君も知ってのとおり、元々がノルズの民の血を引いているからね。
所詮は神によって創られた存在だから、生殺与奪は神が持っている。こればかりはどうすることもできないんだよ。
だから、ね?
「ハル君、ここで私と一緒に暮らそうよ。神も、ハル君がこのままあの世界から退場してくれるなら、私と一緒になることを認めてくれたんだから」
「…………………………」
嬉々として話すユリの表情は、瞳は、壊れていた。
その神とやらに何を吹き込まれたのかは分からないけど、こんな選択をしなければならないほど彼は追い込まれているんだって、よく理解したよ。
だけど、神、か……。
前世で『エンゲージ・ハザード』という世界が、一つの企業によって制作され、生み出された事実を僕は知っている。
そう考えれば、神というのは制作スタッフということになるんだけど、それでも、わざわざこの世界にここまで干渉するようなことをするか? 答えは否だ。
これまでの元凶がもし制作スタッフの仕業だというのなら、そのスタッフもまた僕と同じようにこの世界に転生してきたってことになるのかもしれないけど、狙って神に転生するなんてこともあり得ないと思う。
なら……神と勝手に名乗っている存在が、別にいるっていうことだ。
「……なあ、ユリ」
「あは♪ なんだい?」
「その神とやらに、名前はあるのか?」
「名前? あるよ」
僕の質問が可笑しかったからか、ユリがくつくつと笑う。
でも、名前があるとなると、制作スタッフの誰かがこの世界に転生してきた可能性が出てきたぞ。そうなるとかなり厄介だな。
だって、前世でヘビーユーザーだった僕よりも……いや、前世を含めた世界中の誰よりも、『エンハザ』を熟知しているってことだから。
しかも全てのUR武器を与えたり、ユリをはじめとしたこの世界の人間を生み出すことができる能力まで持ち合わせている。チートなんて言葉じゃ済まない。
ハア……溜息が出てくるけど、だからといって僕に諦めるって選択肢はないんだ。
だから、何としてでも打開策を見つけないと。
「それで……その、神の名前は……?」
「あは♪ “ナカノヒト”って言うんだ」
そう言うと、ユリは口の端を吊り上げた。
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