元親友から悪魔のお誘いを受けました。
「ふう……ようやく謁見の間か」
バースの相手をカーディス達に任せ、僕達は謁見の間へと繋がる通路にたどり着いた。
カーディス達と別れて以降、幸いなことにここまで邪魔をする者はいなかったけど、最後にどんな相手が待ち構えているか分かったものじゃない。気を引き締めないと。
「ハル様、いよいよこれで最後です。エイバル王を打倒すれば、私達は誰にも邪魔をされることなく一緒になれます」
「そのとおりです。お二人の邪魔をするのは、このモニカだけの役目ですので」
「モニカ!?」
「あはは!」
最後の最後まで同じ調子の二人に、僕は思わず声を上げて笑ってしまった。
緊張感の欠片もないけど、むしろ僕達らしいよね。
「ハルさん。終わったらちゃんとお肉をご馳走してくださいね?」
「その後は、俺のナンパに付き合ってもらうからな!」
リリアナとロイドまで、軽い調子でそんなことを言ってきたよ。
国王を前にして変に気負ってしまうよりは全然いいけど、『ガルハザ』のキャラもなかなか図太い。
「……マスター、謁見の間の生体反応は一つ。おそらく、エイバル王のものと思われます」
「そっか。キャス」
「うん!」
ライラの進言を受けて、僕は『漆黒盾キャスパリーグ』を構えて謁見の間の扉に手をかけ、一気に開け放った。
「『無能の悪童王子』の分際で余に楯突く不届きものめ」
待ち構えていたのは、玉座に座るエイバル王ただ一人。
ただし、その前には数多くの武器が床に突き刺さっている。
なるほど……ウィルフレッドも大量のUR武器を持っていたのだから、エイバル王も同じであって当然か。
ウィルフレッドは武器を使いこなせなくて大したことはなかったけど、この男もそうだとは限らない。気を引き締めないと。
「父上……いえ、エイバル=ウェル=デハウバルズ。既に民意はあなたにありません。素直にその事実を受け入れ、王の座から退いていただきたい」
「余の座を簒奪しようとする輩が何を抜かす! 貴様のような者は、死をもって……いや、それも生ぬるい。貴様に関わった全ての者の命で償うのだ!」
そう叫ぶと、エイバル王が立ち上がる。
手にしたのは、『英雄大剣カレトヴルッフ』だった。
「この武器は元々余の愛剣よ。ウィルフレッドの阿呆は使いこなせなかったが、余であれば貴様等を斬ることなど造作も……」
口の端を持ち上げ、エイバル王が獰猛な笑みを浮かべた瞬間。
「やあ」
「……ユリ、さすがにこれは空気を読まなさすぎじゃないかな」
謁見の間にいた全ての者が消え、ここには僕とユリだけしかいない。
これから最終決戦だっていうのに、ちょっとどうなんだろう……って!?
「え? え? みんな消えちゃった!?」
「キャス!?」
驚いたことに、ユリの作り上げた空間にキャスだけはいた。
ひょっとして、『漆黒盾キャスパリーグ』に変身していたから……?
「あは♪ 今回はキャス君にも来てもらったんだ。これから始まるエイバル君とサンドラさん達との戦いを、一緒に観てもらうために」
「え……?」
サンドラ達とエイバル王の戦い?
「ほら」
「「っ!?」」
突然僕達の前に映像が映し出され、サンドラ達とエイバル王が対峙していた。
次の瞬間。
「ハル様をどこへやった!」
「ククク……さあな。だが、余を倒せばひょっとしたら戻ってくるやもしれんぞ?」
「なら、今すぐ始末いたしましょう」
「貴様等には無理だ」
「っ!?」
モニカが背後を取ってダガーナイフを突き立てようとするけど、エイバル王が服の下に纏っていた甲冑によって防がれてしまった。
あれは……UR武器の『黄金鎧カヴァーチャ』か?
「だけどあの鎧は、一度装着したら外すことができない呪いにかかっているはず。なのに……」
「ハル君よく知ってるね。だけど、その呪いを承知でエイバル君は身に纏っている。つまりそういうことだよ」
なるほど、そこまでしてでも僕達に勝ちたいか。
……いや、そこまでしないと僕達に勝てないと踏んだわけだね。
「甘いよ。『黄金鎧カヴァーチャ』は確かに物理防御力も魔法防御力も高いけど、盾シリーズと比べて回避性能もないから、そこまで使い勝手はよくない」
「あれを見ても、そう言い切れる?」
「な……っ!?」
サンドラの『バルムンク』を、エイバル王は易々と受け止める。
同じくUR武器の、『要塞大盾アイアス』によって。
「分かったかい? ウィルフレッド君と違い、エイバル君はどんな武器でも自在に扱うことができるんだ。彼の能力である【ウェポンマスター】によって」
「【ウェポンマスター】!?」
まさかエイバル王が、そんなスキルを持ち合わせているなんて思いもよらなかった。
さすがに『エンハザ』において一切戦闘に絡むこともないエイバル王に関する能力の詳細まで、公式の攻略サイトには掲載されていないからなあ……。
「知らない君に教えてあげるけど、エイバル君の能力はこの世界にいる人間達の中でも最強に近い。いくらサンドラさんでも、彼を倒すのは無理だと思うよ。だから、ね?」
僕の傍に来たユリが、ポン、と僕の肩を叩くと。
「もう全部諦めて、サンドラさんも見捨てて、私とこの世界で一緒になろうよ」
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




