悪女と聖女、くっころ姫騎士が引き受けてくれました。
「ジャアアアアアアアッッッ!」
「ウウウウウウウウウ……ッ!」
「ヒヒヒ……」
王宮の建物全てにとぐろを巻く巨大な蛇と、玄関前に立ち唸り声を上げる漆黒の狼、それに闇に漂う全身が灰色の女の亡霊。
『世界大蛇ヨルムンガント』、『暗黒獣ヴァナルガント』、『地獄聖女ハリファ』の三体のレイドボスが現れた。
「あははー……ここ、本当に王宮で合っているのかな」
乾いた笑みを浮かべ、僕は思わず呟いた。
だってさあ、どこの世界に魔獣を飼っている王宮なんて存在するんだよ。ここにあるけど。
しかもこの三体の魔獣は、いずれも『エンハザ』内でも屈指のレイドボスなんだ。ここを突破するだけでもかなり骨が折れそう……って!?
「フフ……【業火】」
「【ブレイズブレイド】ッッッ!」
「不浄な者よ、消え去りなさい。【キリエ・エレイソン】」
僕が対応策を考えるよりも先に、リゼ、カルラ、クリスティアが一斉に動いていているんだけど。
しかもレイドボス達、メッチャダメージ受けてる。
「あら、見た目のわりに大したことないですわね。これでは物足りませんわ」
ヨルムンガントの巨大な胴体に同じく巨大な黒い炎の大蛇に巻きついて締め上げる姿を見つめ、悪女のような微笑みを浮かべるリゼ。
普段はポンコツだけど、今の彼女は前世の僕が『エンハザ』で見たあの悪女、リゼット=ジョセフィーヌ=ド=カペティエンそのものだ。
「ふ……禍々しい狼め! この剣の錆にしてくれる!」
光り輝くUR武器の『滅竜剣アスカロン』の切っ先をヴァナルガルトの眉間に突きつけ、カルラが凛とした表情で吠えた。
さすがは『エンハザ』でも屈指のイケメンヒロイン。ここに女子生徒がいたら、ますますファンが増えたに違いない。
「あらあら、苦しいですか? ですがあなたのような汚らわしい存在は、この世界には不要なんですよ」
愉快げに笑ってクリスティアは告げているけど、その瞳は一切笑っていない。というか、ハリファへの視線が汚物でも見るかのようだった。
まあ、彼女は聖女なので、こういったアンデッド系のレイドボスは嫌いに決まっているか。
「そういうことだから、ハルとみんなは先に行ってくれるかしら? 私はこの蛇を躾けないといけないから」
「そうですね。それに、私達はハル殿の、その……た、『大切なもの』ではありますが、他国の者でもあります。王国の未来を決めるその時に、私達が関与しないほうがいいでしょう」
「うふふ……ですが、これだけは忘れないでください。私達はあなた様を……『大切なもの』を、お慕いしております」
「っ!? ク、クリスティア様!?」
「わ、私は違うから! 違うからねハル!」
突如落としたクリスティアの爆弾発言に、リゼもカルラも顔がリンゴのように真っ赤になる。
僕の隣では、サンドラの瞳も真っ赤になっていたけど。どうしよう、怖い。
「さあ、早く!」
「ここは任せなさい」
「ハル殿、ご武運を!」
笑顔の三人に背中を押されるも、僕は躊躇していると。
「ハル様、三人がせっかくそう言ってくださっているのです。行きましょう」
「う、うん……」
サンドラに強引に手を引かれ、僕は後ろを何度も振り返りつつ、王宮の中へと入った。
ただ……サンドラがクリスティアにメッチャ怒っていたことだけは、繋いだ手から感じ取っていたよ。どうしよう。
◇
「……それで、ハル様はどう思われたのですか?」
王宮内を進む中、サンドラがおずおずと尋ねてきた。
えーと……これは、さっきのクリスティアの言葉のことかな。
だったら。
「もちろん、すごく嬉しいよ。仲間として」
そう言って、僕はニコリ、と微笑む。
彼女達は僕の『大切なもの』であることは間違いないし、そんな彼女達からこんなにも想われていることは嬉しいに決まっている。
だけど……僕が愛しているのはサンドラだ。
前世でも、今も。
「そうでしたね。失礼しました」
僕の言葉を聞き、サンドラは蕩けるような笑顔を見せた。
きっと彼女は、少なからず不安に思ったんだろうな。
「ねえ、サンドラ。このクーデターが成功して無事に片づいたら……」
「ハロルド殿下。このタイミングで余計なことは言わないでください。そのせいでもし不吉なことが起こったらどうするつもりですか」
すぐ傍で僕達の会話を聞いていたモニカが、慌てて言葉を遮ってきた。
いけない。確かに彼女の言うとおり、余計なフラグを立てるところだったよ。
「そ、そうだね。この続きは、全てが終わってからにするよ」
「ふふ、そうですね。その時を楽しみにしています」
頭を掻く僕を見て、サンドラがクスクスと楽しそうに笑う。
そんな彼女に、僕もつられて苦笑した。
すると。
「グ……グギギ……」
「オオオオオ……」
何とも言えない唸り声を上げる、大勢の衛兵や文官、それに使用人達。
これは……。
「くきき……四人の王子が揃いも揃って国王陛下の命に従わず、こうして牙を剥くとは……愚かな」
そんな衛兵達の後ろから姿を現したのは、子供のように小さな醜い中年男だった。
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