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呼んでもいない人が現れました。

「あーもう、結局約束の時間になっちゃったね」


 あれから僕達は部屋に戻ることもなく、寄宿舎の裏庭で一緒に過ごした。

 だってさあ……サンドラとキスしちゃったんだよ? こんなの、興奮するわムラムラするわで、全然落ち着けるわけないじゃないか。


 それに。


「ハル様、ハル様」

「お嬢様、くっつきすぎです。ハロルド殿下のお世話はこのモニカが……」

「ダメだよ! ハルはボクのなんだからね!」

「マスター、そろそろ『充電行為』が必要なのですが」


 ……どうしてこの四人は、ずっと僕にしがみついてくるかなあ。

 ただでさえ興奮してムラムラなのに、こっちの気持ちはお構いなしなんだね。どうしよう。


 そんな感じでじゃれ合っていると。


「……ハル。あなた、こんな大事な時に何をしているの?」

「あ……」


 現れたのは、呆れた表情のリゼだった。

 そうだよね。僕もそう思うよ。


「ほら! サンドラもモニカも、キャスもライラも離れるの!」

「むう……」


 リゼに強引に引き剝がされ、むくれるサンドラ。可愛いかよ。


「そ、それで、どうせハルのことだから、クーデターに成功したらここからいなくなるつもりなんでしょ?」

「っ!?」


 なぜか頬を赤く染めたリゼに核心を突かれ、僕は思わず息を呑んでしまう。

 どうしよう……ここでカペティエン王国からの支援を得られないとなると、結構厳しいなあ……。


「だ、だったら! うちの国なんてどうかしら? あなたがよければ、住まわせてあげなくもないけど?」


 あ、違った。むしろ願ってもないお話だったよ。

 だけど、相変わらずリゼはツンデレだなあ。悪女設定の欠片も残っていないや。


 その時。


「うふふ……それは聞き捨てなりませんね。ハル様がお住まいになる国は、バルティアン聖王国をおいて他にはありませんのに」


 口元に手を当て、微笑みを浮かべて登場したのはクリスティアとカルラ。

 そんな表情や仕草とは裏腹に、クリスティアの瞳が笑っていないように思えるのは気のせいかな?


「ハル様。聖王国に来てくだされば、幸せな毎日をご提供させていただきます。もちろん聖女であるこの私が、ずっとつきっきりで」

「わわ、私も護衛として、ハル殿のお(そば)におりますとも!」


 いやいや、聖女の仕事はどうするんだよ。

 それにカルラも、護衛対象は僕じゃなくてクリスティアじゃないのかな。いいのかそれで。


「あら……聖王国みたいな宗教くさい国、ハルには相応しくないわ。それにハルも、カペティエン王国に来た時に、すごく気に入ってくれたのよ?」

「そうでしょうか。ハル様にはまだ聖王国にお越しいただいたことがないので、おそらく一目見ていただければ気に入っていただけることは間違いないですね」


 対峙してクスクスと(わら)う両者。

 その後ろでは、カルラが拳を握りしめてクリスティアを必死に応援しているよ。


 というか、これからエイバル王との決戦だっていうのに何この空気。


 まあでも。


「はいはい。終わった後の話は、全部終わってからにしようね」

「……仕方ないわね」

「うふふ。私達の言葉、どうかお忘れなきよう」


 こうやって緊張感のない空気も、僕達らしくていいよね。

 そういう意味では、リゼやクリスティア、カルラにも感謝しないと。


 何より、本来は『エンハザ』のヒロインである三人が、噛ませ犬の僕のために力を貸してくれているんだから。

 こういうところも、『運命を変えたんだ』って胸を張って言えると思う。


「ほう……もっと緊張しているかと思ったが」

「ハロルドって、やっぱり肝が()わっているよね」

「へへ……兄貴! 来たぜ!」


 やって来たのは、カーディスとラファエル、そしてオーウェンだった。

 だけど、犬猿の仲だったこの二人に加え、ウィルフレッドの代わりであるオーウェンまで一緒にいるっていうのも、不思議な感じがするなあ。


「分かっていると思うが、私達はあくまでも父上……エイバル王の悪政を糺すために手を組んだに過ぎない。今回のクーデターが無事に終えて次の王を決める時には、容赦はしない」

「アハハ、言うね。悪いけど、兄上だけは次の王にさせるつもりはないけど」

「なんかよく分かんねえけど、俺はどっちでもいいや……リリアナ嬢さえモノにできれば」

「「っ! そうはいくか!」」


 こんなところに来てまでリリアナの奪い合いって、何を考えているんだろうと言いたいところだけど、ついさっきまで似たような状況だったから、僕には何も言えない。


「……私達はこれから王宮へ乗り込むのです。お立場を含め、もう少し場を弁えていただきたいのですが」

「う、うむ……」

「そ、そうだね……」

「師匠! すみませんでしたあああああ!」


 サンドラにギロリ、と睨まれ、視線を逸らすカーディスとラファエル、そして即座に土下座をするオーウェン。

 良い機会なので、サンドラには自分の胸に手を当てて聞いてほしい。それは完全にブーメランであるということを。


「と、とにかく、あとはリリアナが来れば全員揃いますね」

「そういえばそろそろ時間じゃない。あの子ったら何をしているのかしら」

「さあ……特に遅れるという話は聞いておりませんが……」


 既に目的の時刻である三十分前。これ以上遅れては、四時に王宮に乗り込むという予定がずれ込んでしまい、クーデターに支障が出る。

 ……これは、リリアナは置いていくことも選択肢に……って。


「すいませえええええええん!」


 手をブンブンと振ってこちらに走ってくるのは、そのリリアナだった。


 だけど。


「どうして……?」


 リリアナの後ろに、同じく息を切らして走っている、ロイドの姿があった。

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