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いよいよ決戦前夜でした。

 サンドラとの試合を終え、僕達は部屋に戻ってきたわけ、なんだけど……。


「えーと……サンドラは自分の部屋に戻らなくていいの?」

「私も明日の決戦を控え、気持ちも高ぶっております。このまま一人部屋で過ごしても、きっと落ち着きません」

「それはそうかもしれないけど、それは僕の部屋でも同じなのでは……」

「そんなことはありません。ハル様のお(そば)にいれば、すごく安らぎますので」


 胸に手を当て、サンドラがそう告げる。

 でも、どうして彼女の瞳が紅く輝いているのか、誰か教えてくれませんかね?


「マスターはきっとあなたのことを邪魔だと思っているはず。いい加減気づいてはいかがでしょうか」

「ガラクタは黙っていなさい」


 今まで静かにしていたライラが絡み、サンドラは射殺すような視線を向けた。

 相変わらず仲が悪くて困る。


「ですがお嬢様、ライラの言うことにも一理あります。明日の決戦を控え、ハロルド殿下にゆっくりと休んでいただく必要がありますので」

「う……」

「ハロルド殿下のお世話はこのモニカが一人で(・・・)務めます。ですのでお嬢様もライラも、今日のところはお引き取りを」

「認めません! 認めませんよ!」

「そうです。マスターのお世話は私がします。もちろん、私のお世話もしていただきますが」


 ……この三人は何の言い争いをしているんだろうか。

 僕のお世話争奪戦なんて、それこそ誰も望んでないんだけど。


「ハルも大変だね」

「まったくだよ……」


 肩に乗るキャスに軽くポン、と頬に前脚を置かれ、僕はうなだれる。


「ね、ねえ……ハルはボクと一緒だと『癒される』って、よく言っているよね……?」

「? ああ、そのとおりだよ」

「だ、だったらさ! 明日に備えて、今夜はボクがハルを癒してあげるね!」


 ああもう、僕の相棒はどうしてこうつぶらな瞳を輝かせてそんなことを言うんだろうか。可愛いにも程があるだろ。


「じゃあお願いしようかな。キャスと一緒に寝ると、あったかくて気持ちよくて、本当に癒され……」

「キャスさん、何を抜け駆けしようとしているのですか?」

「「っ!?」」


 いつの間にか僕とキャスを取り囲み、強烈なプレッシャーを与えてくる三人。

 というか、子猫魔獣と争ってどうしようというのだろうか。


「へ、へへん! ボクはハルと相棒なんだから、一緒に寝るんだもん! 毎日そうしてるもん!」

「でしたら私はハル様の妻ですが。ええ、それはもう」

「私は世界でただ一人のハロルド殿下の専属侍女です」

「マスターの『道具』として扱っていただける権利があるのは、この私だけだということを忘れないでください」


 とうとう醜い争いを始めてしまい、僕は頭を抱える。

 ハア……明日は決戦なんだけどなあ……。


 ◇


「すぴー……すぴー……」


 気持ちよさそうに眠るキャスを起こさないようにして、僕はのそのそとベッドから出た。

 駄目だ、興奮してちっとも眠れないよ。


 窓の外を(のぞ)いてみると、いつもよりも赤みがかった満月が夜空に煌々(こうこう)と輝いており、不吉な予感が(ぬぐ)えない……って。


「何を弱気になってるんだよ。僕はできることは全部やったじゃないか」


 大きくかぶりを振り、自分を励ます。

 とはいえ、クーデターこそが『エンゲージ・ハザード』におけるハロルドのバッドエンドなんだ。不安になってしまうのも仕方ない。


「ハア……もう一回ベッドに入って目を(つぶ)るだけでもしよう……って」


 窓の外に見えた、小さな人影。

 あれは……サンドラ?


 僕は上着を羽織ると、部屋を出て寄宿舎の裏庭へと向かった。


「あ、あはは、やっぱりサンドラだった」

「ハル様……」


 僕の部屋の窓を見上げているサンドラに、苦笑しながら声をかける。

 彼女の瞳は深い青をしており、この夜空と相まってとても幻想的に映った。


「ひょっとして、眠れないの?」

「はい……」

「じゃあ僕と一緒だね」


 サンドラの小さな手を引き、僕達は花壇のところまで移動すると、ハンカチを敷いて彼女を座らせた。その隣に、僕も腰を下ろす。


「……ハル様はエイバル王を打倒したら、その後はどうなさるおつもりなのですか?」

「決まっているよ。さっさと王族から籍を抜いて、正式に君の婿養子になる」


 どこか不安そうに見つめるサンドラに、僕ははっきりと告げた。

 この考えは、今もずっと変わらない。


「ですが、もはや以前とは状況が異なります。多くの貴族がハル様の檄文に応じ、他国もハル様だからこそ支持してくださっているのです。エイバル王打倒後は、きっとハル様を次の王にと……っ!?」

「そんなのはお断りだよ。僕は王様になんてなりたくない」


 サンドラの可愛らしい口を人差し指で塞ぎ、僕は肩を(すく)める。

 大体、クーデターで簒奪(さんだつ)した王位なんて、その後に待っているのは反乱分子との争い。最悪、一生暗殺に怯え続けなければならなくなるかもしれない。

 何よりそんなことになってしまったら、妻であるサンドラにまで危害が及んでしまうじゃないか。


「その……サンドラ、お願いがあるんだけど……」

「お願い?」

「うん。エイバル王を打倒し、もし周囲が僕を推そうとしてきたら、その時は……一緒に逃げてくれる?」

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