サンドラと手合わせをしました。
「ふふ……王立学院に入学してからというもの、ハル様も強くなられましたし、色々なことがありましたので手合わせできませんでしたが……すごく楽しみです」
「あ、あははー……」
訓練場へと向かう中、嬉しそうな表情を浮かべるサンドラに、僕は苦笑するしかない。
確かに強くなったと自覚してはいるものの、それ以上にサンドラの強さをまざまざと見せつけられ、とてもじゃないけど勝てる気がしない。
「だ、だけど、【竜の寵愛】は禁止だからね?」
「もちろんです」
一応釘は刺しておいたけど、ほ、本当かなあ……。
最近のサンドラ、ちょっと僕絡みで興奮すると、すぐに瞳が紅く変化するからね。
「審判はこのモニカが務めます」
「あ! ボクも!」
モニカが手を挙げ、キャスは彼女の肩に飛び移って同じく右の前脚を上げる。何あれ、可愛い。
「さあ、まいりましょう……よろしいですか?」
「う、うん」
木剣を右手に、脱力した姿勢を取るサンドラに、僕は頷いた。
というか、前世で見た剣豪と呼ばれる人の肖像画で、こんな構えだったような……。
「では、はじめ!」
「はじめー!」
モニカとキャスの合図で、いよいよ試合開始だ……って!?
「ふっ!」
「うわわわわ!?」
息も吐かせぬ連撃に、僕は防戦一方になる。
さすがはサンドラ。たった一息で、これだけの攻撃が繰り出せるんだから。
「さすがです! 私の攻撃を、こうも易々と受け流すなんて!」
「あ、あははー……」
サンドラがサファイアの瞳を輝かせ手放しで褒めてくれるけど、かなりいっぱいいっぱいなんですが。
だけど……うん。僕は、間違いなく成長している。
これが王立学院に入学する前だったら、僕は絶対に最低でも二、三発は食らっていたよ。
「では、これならいかがですか?」
「ぐ……っ!」
先程の攻撃とは異なり、サンドラは木剣を大きく振りかぶって力任せの一撃を放った。
彼女の攻撃の威力は知っているので、僕はまともに受けないように盾を斜めにして威力を逸らす……んだけど。
「すごいです! 渾身の切り返しすらも簡単にいなしてしまうんですね!」
いやいや、いきなりのことで本気でビビったよ。
まさかあの軌道からかち上げてくるなんて……まるで前世の剣豪が使う『燕返し』って技みたいだ。
「ふふ! 楽しい! 楽しいです!」
うわー……サンドラったら最初に言ったこともすっかり忘れて、瞳の色が大分赤くなっているんだけど。
次に本気の一撃がきたら、僕は死んでしまうかも。
「今度こそ、ハル様に当ててみせます!」
そう言うと、サンドラは低く構え、剣の切っ先を向ける。
あ、これ、彼女がよく使う神速の突きだ。無理。絶対に防ぐの無理。
「行きますッッッ!」
サンドラが地面を蹴り、引き絞られたバリスタから射出された槍のように、一気に突撃してきた。
こ、こうなったら一か八かだ!
「っ!? そんな!?」
僕はこれでもかというほど身を屈め、盾で緩やかな坂を作ることによってサンドラを空中へ飛ばした。
……いや、サンドラ自身が勢い余って飛んだって言ったほうが正しいか。
いやあ、上手くいってよかったよ。
こればかりは日々鍛えた土下座スタイルのおかげだね。
「まさかそのような防御方法があるなんて、思いもよりませんでした」
ふわり、と地面に着地したサンドラが、振り返って告げる。
いや、僕も思いもよらなかったよ。
すると。
「ハル様……この勝負、私の負けです」
「へ……?」
まさかのサンドラの敗北宣言に、僕は呆けた声を漏らした。
い、いやいや、まだ始まって十分も経っていないし、何より僕がサンドラに勝っているなんて思ってもいないし。
「最後の攻撃は、私の全てを込めたものです。それでも、ハル様には通用しなかった」
「つ、通用しないというか、そもそも受け流しただけで……」
「それがすごいのです。私の動きを全て見切り、あなた様は最善の方法で防がれた……こんなことは、私も生まれて初めての経験です」
そ、そんな大袈裟な。
「お嬢様のおっしゃるとおりです。今のお嬢様の動きを捉えることができる者が、この世界に何人おりましょう。……いえ、おそらくはハロルド殿下だけかと」
「ボ、ボク、サンドラが全然見えなかったし……」
そ、そうなの?
メッチャ速いとは思ったけど、それでも対処できないほどじゃないよね?
「やはりあなた様は……私の旦那様は、素晴らしい御方です。その心も、身体も、何もかも全て」
「や、やけにベタ褒めじゃない?」
「そんなことはありません。これは事実です」
「そ、そう……」
真紅の瞳で見つめられ、僕は思わず照れる。
ただ、あからさまに興奮していることが分かるので、【竜の寵愛】が暴走しているんじゃないかと気が気じゃないよ。
「さあ、身体が冷えてしまっては、エイバル王との決戦に差し障ります。早く部屋に戻りましょう」
「う、うん……」
僕の腕を抱きしめ、強引に引っ張るサンドラ。
一抹の不安を感じつつ、僕達は部屋へと戻った。
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