準備は全て整いました。
「本当に、面白いことになってきましたわね」
夏休みが終わり、リゼやクリスティア達が王立学院に戻ってきた。
で、そのリゼはメッチャ悪女面しているよ。ポンコツのくせに。ポンコツのくせに。
「ですが、ここは王立学院。……いえ、そもそも王国内でこのようにクーデターについて会話をしていること自体、エイバル王に筒抜けなのでは?」
「大丈夫だよ。少なくともこの部屋の周辺で盗み聞きしているのならモニカが気づくし、貴族達に送った檄文を読まれたって別に構わない」
「それはどうしてですか?」
「だって、ほぼ全ての貴族が賛同している以上、エイバル王がこれを取り締まるなんて不可能だよ。それに、王国軍は僕が掌握している。取り締まりのための兵すら差し向けることができないんだ」
しかも、王宮内においても宰相や大臣達をはじめとした文官も、全てこちら側。もはやエイバル王に味方はおらず、既に裸の王様に成り下がっているよ。
「そういうことだから、今頃は悔しさで地団駄でも踏んでいるんじゃないかな」
「うふふ……なるほど。それはぜひ、そんな滑稽な姿を見たいものですね」
「もうすぐ見れるよ」
そう……リゼ達が自国の代表者として来てくれたから、国外に向けた正当性の証明もこれで可能。
あとは王宮に乗り込み、エイバル王に禅譲を迫るだけだ。
「……そう簡単にいくんでしょうか」
「リリアナ?」
「難しいことは分からないですけど、私だったらハルさんが貴族達にお手紙を送った時点で、王国として何かしらの手を打っていると思うんですよね」
「ああー……」
僕もあの時はそう思っていたよ。
なのでシュヴァリエ公爵に協力してもらい、最大限警戒して貴族達に檄文を届けた。
だけどさあ……エイバル王の奴、どうやらわざと見逃していたっぽいんだよね。
おそらく、未然に阻止してしまったら、『エンハザ』本編シナリオである、『ハロルドクーデター事件』が発生しなくなることを危惧してのことだと思う。
僕からすれば、シナリオを忠実に守ろうとするあまりに手が付けられない事態を招き、自分自身の首を絞める結果になったこの状況に笑うしかないね。
だけど……エイバル王はそこまでしてでも、僕にクーデターを起こしてほしいわけだ。
そうすることで、あの男にそれ以上のメリットがあるから。そうとしか考えられない。
「一体アイツには、どんなメリットがあるんだ……?」
みんなに聞こえない声で、僕はポツリ、と呟く。
このことは、ずっと考えていた。
最初は、愛人の息子であるウィルフレッドを贔屓にして、あの男を次の王にするためのものだと思っていた。
でも、ことごとくウィルフレッドが失敗し、最終的に僕に敗れた時にはあっさりと切り捨て、隠し子であるオーウェンを主人公の代わりにした。
そこに来て、ユリがエイバル王側の人間だと正体を明かしたんだ。
その時は裏切られたショックもあったけど、逆に言えばユリが正体を明かして色々と余計なことを話してくれたおかげで、エイバル王が『エンハザ』の本編シナリオどおりに進めようとしていることが分かった。
それは何のために?
理由について色々考えたけど、前世の記憶を取り戻してからエイバル王を観察し、短慮で尊大で、感情的なあの男は王の器ではないことはすぐに分かった。
そんな男が、王国のことを考えて動いていたなんて考えられない。
なら、全ては自分自身のためにしているのだと、そのように判断するのは当然のことだ。
もちろん、ゲーム転生あるあるの強制力が働いて、それでエイバル王がこんな行動をしているという可能性も否定はしないけど、それなら僕を含めたキャラも同じように強制的に動かされるはずだ。
僕が転生者だからイレギュラーだったという線もあるけど、それでも、僕以外のキャラには関係ない話だし。
となると、アイツが『エンハザ』の本編シナリオを正しく進めることで得られるもの……いや、分からん。
こればかりは、ユリにでも尋ねるしかないな。教えてくれるかどうかは別として。
「ハル、それでいつ動くのかしら?」
「早速で悪いけど、今日の深夜……午前四時」
「うむ。奇襲をかけるには、最も良い時間ですね」
腕組みをするカルラが満足げに頷く。
前世の何かのゲームで、そんなことを言っていたのを覚えていたので、そのとおりにしてみただけなんだけど、正解っぽい。
「じゃあ、それまではみんな身体を休めて、夜に備えよう。……だけど、注意してね。エイバル王が何かを仕掛けてこないとも限らないんだから」
「フフ、分かっているわ。まあ、その時は私が焼き尽くしてあげるけど」
リゼが悪女っぽくクスリ、と微笑み、自分の部屋に戻った。
クリスティアも、カルラも、リリアナも、カーディスも、ラファエルも、オーウェンも。
ロイド? 彼は今回のクーデターのメンバーには加えてないよ。
『ガルハザ』の攻略キャラとはいえ、さすがにこんなことを背負わせるのは、ちょっとだけ気が引けるからね……って。
「サンドラ?」
「ハル様、深夜四時までは時間があります。せっかくですから、久しぶりに手合わせをいたしませんか?」
そう言うと、サンドラはニコリ、と微笑んだ。
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