いつの間にかバッドエンドへの道が用意されていました。
「ハ、ハロルド殿下!?」
「なんだ、僕の顔に何かついているのか?」
王宮に着くなり、衛兵達が僕を見て目を丸くした。
失礼な。一応僕、まだ第三王子なんだけど。
「い、いえ、申し訳ございません……」
「じゃあ、通させてもらおうよ」
複雑な表情の衛兵達を無視し、僕達は王宮の中へと入る。
すると。
「ハ、ハロルド殿下がお越しになられたというのは誠か!」
「あれ? オルソン大臣?」
必死の形相で王宮の廊下を駆けているのは、僕を支持してくれる奇特な大臣、オルソン侯爵だった。
そういえば、王立学院に入学してからは、謁見の間以外で出会うのは久しぶりかも。
「オルソン閣下、こんにちは」
「! おお! ハロルド殿下! 話は後です! まずはこちらへ!」
「ちょっ!?」
強引に腕を引っ張られ、僕は王宮内にある一室へと連れて行かれた。
ど、どうしたんだろうか……。
「ハア……ハア……ハアアアア……」
「だ、大丈夫ですか……?」
よほど慌てていたらしく、息の上がっていたオルソン大臣はようやく落ち着きを見せ始めた。
それでも、かなりの汗をかいているけど。
「ふう……いやはや、このタイミングでお会いできてよかった。単刀直入に申し上げます……実は陛下に、また新たな隠し子が見つかりまして……」
「ああー……」
どうせそんなところだろうと思ったよ。
一体隠し子を何人持ち出してくるつもりだよ。
「ただ……」
「何かあるんですか?」
「ええ。間違いがあってはいけませんので素性を調べたのですが、どう考えても陛下の御子ではありません。つまり……」
「全くの赤の他人に、王位継承権を与えようとしている……?」
僕の言葉に、オルソン大臣が頷く。
オーウェンに関しては、宰相やオルソン大臣も存在を受け入れているため、隠し子であることに間違いはなかったんだろう。
だけど、今度の隠し子は違う。二人が否定するのであれば、ただ僕の代わりとして用意しただけの存在だ。
エイバル王め、いよいよ切羽詰まってなりふり構わなくなってきたな。
「それで、オルソン閣下はどうお考えなのですか?」
「もちろん絶対に認めるつもりはありません。これは宰相を含めた全大臣……いえ、全貴族の総意です」
さて……もしエイバル王が強硬にその赤の他人を自分の子供だと認めてしまうのなら、その時は王国が真っ二つに分かれることになる。
下手をすれば、クーデターを起こされて今の王朝は倒れてしまうだろうなあ……って。
「これ……」
そこまで考えて、僕は戦慄した。
「ハロルド殿下……ご存知のとおり、私は殿下こそがこの国の王に相応しいと考えております。ブラッドリー卿も味方につけ、近衛師団をはじめとした軍部も掌握しておられる殿下なら……」
「オルソン閣下、そこまでです」
僕は慌てて、オルソン大臣の言葉を遮る。
知り合ってからこれまで、僕はこのオルソン大臣は王国のために尽くす忠臣だと思っている。それは、宰相やブラッドリー卿も同じ。
そんな彼が、まさか僕にクーデターを勧めるほどに、思いつめる状況なのか……。
「……余計なことを申し上げてしまいました。どうか今の言葉はお忘れください」
「いえ……とにかく、どうして国王陛下がそのどこの馬の骨とも分からない者を自分の子であると主張するのか、まずはそこから探りを入れましょう」
「分かりました。このことは宰相閣下にも共有しておきます」
「ええ」
オルソン大臣は肩を落とし、部屋を出て行った。
「ハル様……」
「うん……」
僕の手にその小さな手を添え、心配そうな表情で僕の顔色を窺うサンドラ。
気づけば、モニカも僕の背中に手を添えてくれていたし、キャスもちろ、と頬を舐めてくれた。
……みんなが傍にいなかったら、僕は気が動転してとても冷静ではいられなかったかもしれない。
だってそうだろ? つまりこれは、僕がクーデターを起こすための布石みたいなものだったんだから。
――僕が、『エンハザ』と同じバッドエンドを迎えるための。
「……本音を申し上げれば、私もオルソン閣下と同じく、ハル様こそがこの国の王に相応しいと思います。ですが、ハル様はそんなものは望んでおられません」
「…………………………」
「ね……ハル様。いっそのこと、このまま逃げてしまいますか……?」
「っ!?」
僕の首に腕を回し、サンドラがそっとささやいた。
逃げる……? 僕が、この王国から……?
いや、この『エンゲージ・ハザード』の世界から……?
「私にとってハル様は、この世界よりも大切な御方。あなた様さえお傍にいてくだされば、私は何も望みません。それだけで、私はこの上なく幸せなのですから」
そう言うと、サンドラはニコリ、と微笑む。
「私も、お仕えするのはハロルド殿下とお嬢様のお二人だけです。このモニカ=アシュトン、永遠にあなた様のお傍に」
「ボクも! ボクの相棒は……ハルだけだもん……っ!」
「モニカ……キャス……」
モニカが僕の背中に頬を寄せ、肩に乗るキャスも黄金の瞳で訴える。
そう、だね……わざわざこんな世界に、最初から付き合ってやる必要はなかったんだ。
元々僕は、第三王子という身分も何もかも捨てて、最推しの婚約者……いや、最愛の女性と、『大切なもの』と静かに過ごすことができれば、それだけでよかった。
だけど。
「……認めない」
「ハロルド殿下……?」
「こんなものが僕の運命なんて、認めてたまるかッッッ!」
サンドラを、モニカを、キャスを力いっぱい抱きしめ、僕は大声で叫ぶ。
ふざけるな! 僕はこれまで、『エンハザ』のような結末を迎えないように……最推しの婚約者を救うために、全力でシナリオを変えてきたんだ!
だというのに、アイツ等は何としてでも僕を噛ませ犬にしようっていうのか!
僕を……僕達を、貶めたいっていうのかよ……!
だったら。
「そんな運命、僕が変えてやる! 今度こそ……今度こそ、そんな結末を台無しにしてやるんだッッッ!」
僕は思いの丈を込めて叫び、エイバル王がいるであろう謁見の間の方角を睨みつけた。
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