表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

254/333

専属侍女の継母と妹まで敵のスパイでした。

「ううー……もう食べられないよお……」


 テーブルの上で仰向けになるキャスが、満足そうに呟く。

 子猫のくせに、中年の大人くらいお腹が出ているよ。


「だけどこのお店は当たりだったね。出てくる料理は全部美味しかった」

「はい」


 お腹が空いていたってこともあるけど、それを差し引いても海の幸が新鮮で本当に美味しかったよ。

 おかげでキャスほどではないにせよ、僕もお腹が出ているし。


「それにしても……確かにモニカの母君が敵のスパイだったかもしれないけど、それでも、夫婦として連れ添っていたというのに、既に部下と関係を持っていたなんて……最低だね」

「ハル様のおっしゃるとおりです」


 僕の言葉に同調し、サンドラが瞳を真紅に変化させて(いきどお)る。

 ヤンデレのサンドラからすれば、絶対に受け入れられないだろうなあ。僕は絶対にそんなことしないぞ。


「もうマーゴもサラも、どうでもいいではないですか」


 珍しくモニカが眉根を寄せ、吐き捨てるように言った。

 確かにこんな話、モニカからすれば聞きたくもないか。


「ハル様、そろそろ行きましょう」

「そうだね」


 席を立ち、僕達は食堂を出た。

 できれば野宿は避けたいので、次の街に着くためには少し急がないと……って。


「……ハロルド殿下、右奥の建物の屋根から何者かがこちらを見ております」


 僕を引き寄せ、モニカが耳打ちする。

 こんなところで僕達を狙ってくる……? ということは、エイバル王かユリの差し金ってことかな。


「いかがいたしますか?」

「向こうから手を出してくれば相手をしてもいいけど、それまでは放っておこう」


 そもそも僕は『エンハザ』の噛ませ犬役なんだ。物語どおり進めようと思ったら、僕に手出しをするわけにはいかない。

 もしそうするなら、それは主人公……オーウェンがいる時だ。


 そう思っていたんだけど。


「っ!? 来ます!」

「何考えてるの!?」


 街の出口に差し掛かったところで、背後から複数のナイフが僕達に向かってくる。

 僕は『漆黒盾キャスパリーグ』を展開し、ナイフを全て弾いた。


「ハロルド殿下、敵の数は全部で六人のようです」

「へえ……舐められてるね」


 こちらの人数は敵の半分以下かもしれないけど、一騎当千のサンドラとモニカがいるんだ。

 それに僕だって、防御に関しては誰にも負けない。高々六人程度じゃ、僕達にかすり傷を負わせることもできないよ。


「じゃあ、さっさと終わらせてしまおう」

「「はい」」


 その一言で、サンドラとモニカが飛び出す。

 白装束を身に(まと)い覆面をした連中が姿を現し、二人を迎え撃つ。


 だけど。


「ふふ、他愛もない」

「まったくです。これでは話になりません」

「「っ!?」」


 瞬く間に四人の敵を倒し、サンドラとモニカが余裕の表情を浮かべる。

 一方で、あまりの実力差に(おのの)く敵二人。よく考えれば白装束なんて、自殺行為アピールだろうか。ちょっとシュール。


「それで……これはどういうことか教えていただきましょうか。マーゴ、サラ」

「な……っ!?」


 モニカの言葉に、敵の二人はおろか僕まで驚いてしまった。

 つまりモニカの実の母と同様、あの二人も敵のスパイだった……ってこと? いやいや、ちゃんと素性は念入りに調べたって話じゃなかったの? チェック体制がザルすぎる。


「うるさいわね。少し腕が立つからって、調子に……っ!?」

「調子に乗っているのはサラ、あなたでしょう? いいから答えなさい」


 いつの間にかサラの背後に回っていたモニカが、首筋にダガーナイフを突きつける。

 母親が違うとはいえ、血の繋がった二人だ。できれば姉妹で殺し合いなんて……って、僕が言える立場にはないか。


 僕はあのウィルフレッドと、そんなやり取りをしてきたんだから。


「こ、こんな真似をして済むと思っているの! 私達には、エイ……ッ!?」

「っ!?」


 サラが何かを言おうとした瞬間、その眉間にどこからともなく飛んできたナイフが突き刺さった。


「ハア……暗殺者でありながら依頼主の素性を明かそうとするとは……なんて愚かな」


 盛大に溜息を吐き、黒のタキシードを着た一人の初老の男が現れた。

 僕は、この男を知っている。


「……ストーン辺境伯家の執事、だったかな?」

「お見知りおきいただき、ありがとうございます。改めまして、私はストーン辺境伯家に仕えておりますカスパーと申します」


 胸に手を当て、深々とお辞儀をするカスパー。

 なるほど……ユリの実家であるストーン家の執事なら、僕達を襲撃しても不思議じゃない。


 だけど。


「どうして僕達……いや、僕を狙った。万が一のことがあったら、物語(・・)を続けることができなくなってしまう。それは主を裏切ることになるんじゃないか?」

「ご心配には及びません。既に代わり(・・・)をご用意しておりますので」


 カスパーは顔を上げ、口の端を吊り上げた。

 なるほど。僕もウィルフレッドと同じようにするというわけだね。そんなことだろうと思ったよ。


「残念だけど、そう易々と殺されるわけにはいかないね。それに……僕の『大切なもの』にまで手を出そうとしたんだ。オマエは絶対に許さない」

「それは失礼しました。ですが、ハロルド殿下だけではなく、そのお二人も邪魔(・・)ですので」


 カスパーが両手を広げた瞬間、二本のナイフがサンドラとモニカに襲いかかる。

 二人は冷静にそのナイフを(かわ)し……っ!?


「サンドラ! モニカ!」

「「っ!?」」


 正面から向かっていたはずのナイフが、なぜか一瞬で背後から迫っていた。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼8/19に書籍第1巻が発売します! よろしくお願いします!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ