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早速王都に帰ることにしました。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」


 次の日の早朝、着替えているところにやって来たモニカと、朝の挨拶を交わす。

 というか、相変わらず僕の着替え中を狙って部屋に来るのはやめてくれるかな。咄嗟(とっさ)に隠したから事なきを得たけど、一歩間違ったら僕はパンツ一枚のあられもない姿を目撃されるところだったよ。慣れたけど。


「そうだ。君やサンドラには悪いけど、すぐにここを発つから支度をお願いできるかな」

「『すぐに発つ』、ですか……」

「うん。たった一晩だけだったけど、もう王都が恋しくなっちゃった」


 あくまでも僕の我儘(わがまま)なんだと、少し必死な様子で言い聞かせた。

 フフフ、どうだい僕の名演技は。キャスも見惚れているに違いない……うん、ごめん。そんな目で見ないで。


「そういうことだから、サンドラにもこのことを……っ!?」

「本当に……あなた様は、こんな私のために……っ」


 突然背中に頬を寄せ、モニカが絞り出すような声でささやいた。

 あー……やっぱり気づかれたか。


 ただ。


「その言い方は気に入らないね。『こんな私のために』? 君以上の専属侍女なんて、この世界にはいないのにさ」

「あ……」

「いいかい。僕は絶対に、君を卑下する言葉なんか認めない。たとえ、君自身の言葉であっても」


 僕は振り返り、モニカのヘーゼルの瞳を見つめて告げる。

 普段はあんなに揶揄(からか)ったり、必要以上にドヤッたりするくせにさ。どうして今の君は、そんなにも自信なさげなんだよ……って。


「そうですよ。あなたは私にずっと仕えてきた、たった一人の侍女です。ハル様のおっしゃるとおり、あなたを否定することは許さない」

「そうだよ! モニカはボクにもたくさん美味しいごはんをくれるし、すっごく優しいんだからね!」


 いつの間にか部屋を訪れていたサンドラも、ベッドの上で飛び跳ねるキャスも、みんなモニカの言葉を否定した。

 だって、君は僕の……いや、僕達の『大切なもの』だから。


「ほら、分かったら早く支度をしよう! モニカには悪いけど、僕は急いで帰りたいんだよ!」

「ふふ……ハル様の我儘(わがまま)、叶えないわけにはいきませんね」

「そのとおり! ……あ、でも、せっかくだから途中で美味しいものを食べてから帰ろうね」

「わあい! またお刺身が食べたい!」


 僕やサンドラ、キャスは、そんなことを言いながら笑い合う。

 少しでも、モニカが罪悪感や責任といった、そんなものを抱いてしまわないように。


 こうやってすぐに僕に合わせて乗ってくれる奥さんと相棒、最高だよね。


「し、仕方ありませんね。皆様のお世話をするのは私しかおりませんので、これは王都に戻り次第、給金をアップしていただきませんと」


 モニカは眼鏡を持ち上げ、胸を張っておどける。

 そのヘーゼルの瞳に、うっすらと涙を浮かべて。


 ◇


「も、もうお帰りになられるのですか!?」

「ああ。もうここに用はない」


 馬車に荷物を積み込む僕達を見て、マーゴ夫人が顔を真っ青にして飛び出してきた。

 そりゃそうだろ。本当だったら一か月は滞在予定だったのに、たったの一晩で帰ると言い出したのだから。


 それに、マーゴ夫人も分かっているよね。

 自分達の不手際で、自分達の主を不愉快にさせたことを。


「じゃあ、世話になった」

「あ……」


 手を伸ばして引き留めるような仕草を見せたマーゴ夫人を無視し、馬車は王都へ……向かう前に、近くの街で腹ごしらえをしないと。

 朝食も摂らずに出てきたからね。


「まあ、この海の景色は名残惜しいけど、それでも、馬車での移動ばかりとはいえ、こうやってみんなと一緒に過ごせたんだから、楽しかったよ」

「ふふ……私もハル様と一緒なら、いつでも幸せです」


 そう言うと、サンドラが僕の肩に頬を寄せる。

 うん、僕の奥さんはメッチャ可愛い。


 すると。


「……ハロルド殿下、お嬢様、キャスさん。私のつまらない昔話を、お聞きいただいてもよろしいでしょうか」


 いつになく真剣な表情のモニカが、僕達を見つめてそう告げた。


「もちろん。モニカのこと、教えてよ」

「あなたのことは私に仕えてからのことしか知らないから、聞けて嬉しいわ」

「うんうん!」


 モニカを見つめ返し、僕達は頷く。


「ではお聞きください。このモニカ=アシュトンの、愚かな道化(・・・・・)だった過去を」


 その大きな胸に手を当て、モニカは澄ました表情で大仰(おおぎょう)にお辞儀をした。

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