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専属侍女の家族との仲はいまいちでした。

「どうぞ、ハロルド殿下のお口に合いましたら幸いです」

「はい、すごく美味しいです」


 夕食の時間になり、僕達は所狭しと並べられた料理に舌鼓を打つ。

 さすが海が近いだけあって、魚介類がシャレにならないくらい美味しい。


 何より。


「ハル! この、えーと……」

「お刺身かい?」

「そう! すっごく美味しいよね!」


 僕の肩に乗り、マーゴに聞こえないようにして嬉しさアピールするキャス。


 そうなのだ。

 なぜかヨーロッパ風の国であるはずなのに、魚のお刺身が用意されていたのだ。


 前世ではお刺身を食べるのが一般的だったので、メッチャ懐かしくていくつも食べてしまうよ。

 ただし、さすがに醤油はないので塩でだけど。


「モニカは幼い頃から、こんなに美味しいものを食べて育ったんだね」

「……そうですね」


 モニカは表情を変えず、軽く頷いて料理を口に含む。

 ここに来るまではあれだけ見せてくれた彼女の感情が、今は全然分からないよ。


 その時。


「遅くなり、申し訳ございません」


 緑のドレスを身に(まと)い、カーテシーをして現れた一人の女性。

 灰色の髪にエメラルドのような瞳のこの女性は一体……。


「申し遅れました。アシュトン家の次女、“サラ”と申します」

「あ……ハロルドです。この度はお邪魔しております」


 僕は慌てて席を立ち、自己紹介をした。

 次女ということは、モニカの妹さんかー。彼女は母親似ということもあって、モニカと全然似てない。


「サラ、早く着席なさい。ハロルド殿下をお待たせしてしまうわ」

「ふふ、そうですね」


 マーゴ夫人に促され、サラは苦笑して僕の正面に座る。

 本来なら長女であるモニカが僕の前に座るんだろうけど、彼女も今回は客人扱いなので、僕の二つ右隣に座っているよ。


「それにしても、まさか殿下がアシュトン領でのお過ごしを希望されるとは思いもよりませんでした」

「ええ。実はモニカの実家であるアシュトン領には海があると聞きまして。それで、こうして押しかけた次第です」


 ちょっととげのある物言いが気になったけど、僕はあえて聞き流した。

 モニカのお母さんだし、迷惑をかけているのはこちらだからね。


 だけど。


「マーゴ。私の(・・)ハル様に何か不満でも?」

「っ!? い、いえ、大変失礼いたしました……」


 サンドラが冷ややかな視線とともにそう告げると、マーゴ夫人が冷や汗をかいて謝罪する。

 あ、やっぱりさっきの言葉は、僕に対する嫌味だったんだ。


 ハア……モニカが少しでも家族に会えればと思って気を回した結果がこれかあ……。

 部屋に戻ったら、モニカに謝ろう。


 それから僕達は、少し重苦しい空気の中、夕食を終えた。


 ◇


「モニカ、本当にごめんね……」


 部屋に戻ってくるなり、僕は深々と頭を下げてモニカに謝罪した。

 最初はモニカも照れているのかなとか、久しぶりの実家だから気後れしているのかなとか、そんなことを考えていたけど、本当にここに来るのが嫌だったってことが分かった。


 それに、実の娘が帰ってきたというのにマーゴ夫人は目も合わせようとはしないし、むしろ僕達が来たことを迷惑に思っているかのような態度。完全に失敗した。


「ハ、ハロルド殿下、おやめください。私のほうこそ、殿下に嫌な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」


 モニカも負けじと頭を下げる。


「いや、モニカは何も悪くない。僕が勝手に決めてしまったことがいけないんだ」

「いえ、私が悪いのです。このようなことがないよう、あらかじめ……」

「いや、僕が!」

「いいえ、私が」


 なぜか押し問答に発展してしまい、僕もモニカも引き下がれなくなってしまった……って。


「あ、あははー……滞在初日に、僕達は何をしているんだろうね」

「まったくです。これは責任を取って、私が殿下にスペシャルな夜を提供するしかありませんね。もしくは殿下に提供していただくか」


 苦笑する僕に、モニカは眼鏡をクイ、と持ち上げてそんなことを言い出したよ。

 でも……うん。僕の好きな、いつものモニカだ。


「むうううう……この私を放ったらかしですか」

「ホントだよね。ハルもモニカも酷いよ」


 思いきり頬を膨らませるサンドラと、器用に前脚で腕組みをしてジト目で睨むキャス。二人とも可愛い。


「ごめんごめん。そんなつもりは……」

「ふふ、分かっております」

「えへへ、ちょっと揶揄(からか)っちゃった」


 ちろ、と可愛く舌を出すサンドラとキャスのあまりの可愛さに、僕は思わず抱きしめてしまいそうになるよ。スマホがあれば、絶対に撮影して待ち受けにしていたね。


 すると。


「ハロルド殿下、お嬢様、キャスさん……ありがとうございます」

「こちらこそ。僕はいつも、君に助けられているんだからね」


 少し頬を赤らめてお辞儀をするモニカに、僕は笑顔で答えた。


 そして、その日の深夜。


「ハロルド殿下……」


 ……どうして僕は、シースルーのナイトウェア姿のサラに迫られているんだろうか。

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