創られた駒 ※ユリシーズ=ハーザクヌート=ストーン視点
■ユリシーズ=ハーザクヌート=ストーン視点
「ぬうう……っ! あの役立たずが!」
ボキリ、とへし折った杖を床に叩きつけ、エイバル王が憤慨する。
いやいや、全部自分の無能さが招いたことなんだから、八つ当たりはよくないよね。
ハル君とオーウェン君を仲違いさせるために、マリオンだっけ? あの女を使ってあの手この手としたみたいだけど、全部裏目に出ているし、
怪鳥フレズヴェルグを二人の決闘の場に仕向けたのだって、あれ、一体何の意味があったの?
ひょっとしたらエイバル王は、ハル君を傷つけて物語から強制的に退場させようと考えたのかなあ。
そうすれば、主人公がウィルフレッドからオーウェン君に代わったように、噛ませ犬も別の者にすることができるから。
「だけど、どうするつもり? 王都のカジノはハル君のものになっちゃったし、今回のことでオーウェン君との絆まで深まって、とてもじゃないけど物語どおりに二人が争うこともなさそうだよ」
「分かっておる!」
「いいや、分かってないね。いつまでこんな失敗を続けるつもりなのか分からないけど、さすがに私も呆れているよ。まさか君が、ここまで無能だったなんて」
本音を言えば、このまま無能のままでいてほしいところだけどね。
そうすれば、アイツに意趣返しできるから。
だけど……あーあ、結局はアイツの『シナリオ』のとおりの結末になっちゃうんだろうな。
そんなことを考えていたからかな。
またアイツが干渉してきたよ。『早くストーリーを元に戻せ!』って。
口調からも、かなりイライラしているみたい。
とても私達ノルズの民を創り出した奴とは思えないね。
ハル君なら、アイツのことを知ったらどう言うかな……って、聞かなくても分かるか。
きっと彼なら、『無能』って言っちゃうよね。
あは♪ 『無能の悪童王子』って呼ばれているハル君に言われたら、アイツは怒り狂うだろうなあ。
なんて考えていたら、またお小言だよ。
というか……ふうん、そうきたか。
まあ、純粋なノルズの民は、私を除けば一人しかいないからね。
「とにかく、そんなお粗末なやり方じゃ私も満足できないね。君が神になることを諦めたのなら、別にどうでもいいけど」
「ま、待て! 分かった! 今度こそ上手くやる!」
「もうそれ、聞き飽きたよ」
慌てるエイバル王に、私は冷ややかな視線を送る。
まあでも、人一倍不老不死と権力を欲しているこの男からすれば、神の存在はこの上なく魅力的だよね。だからこそ私の言葉を鵜呑みにして、こんなにも必死になっているんだから。
「心配いらん! まだまだ物語どおりに進めるための機会はある!」
エイバル王は、大事に抱えていた分厚い本を掲げた。
あれこそが、ノルズの民にアイツから与えられた、物語の全てが記されたもの。
「これを読めば、まだいくらでも機会があることになる! それに、別のやり方も……!」
「あっそ」
私は興味なさそうに返事をして、踵を返す。
「ど、どこへ行く!?」
「もう話をしてもしょうがないから、帰るんだよ」
玉座から立ち上がったエイバル王を無視し、私は転移した。
◇
「お帰りなさいませ、坊ちゃま」
「ただいま」
王宮からサルソの街の屋敷に転移すると、まるで知っていたかのように目の前のカスパーがお辞儀をして出迎えてくれた。
「それで、今回はいかがでしたか?」
「ああうん。ただエイバル君が無能だってことを証明しただけのようなものだよ」
「左様ですか。やはりあの外道の一族では、所詮は無理なのでは?」
「だけど、あの男に任せる以外の手段がないからね」
そう……エイバル王もまた、この物語の一部。なら、役割から外すことはできない。
「しかも、さすがに一国の王を他の者で代用するなんて、ちょっと不可能だよ」
「……そうですな。ですがもし、この物語が成就しなかった場合は……」
「あは♪ 抹消されるだろうね」
所詮私達ノルズの民は、アイツに創られた駒でしかない。
だから、私達を生かすも殺すも、アイツの胸先三寸だ。
「心配しなくてもいいよ。ちゃんと私が上手くやるから」
そうだ。私は父上とは違う。
意味もなくいたずらにノルズ帝国を滅亡させ、この三百年の間ただ後悔と自責の念に駆られて最後は私に全てを押しつけた、あの『無能』とは。
「……本当に、この世界は『無能』ばかりだね」
「坊ちゃま?」
「あは♪ なんでもない」
不思議そうに顔を覗き込むカスパーに、私は苦笑して誤魔化した。
「それより、アイツからの伝言だよ」
エイバル王との会話中に割り込んできた、アイツからの指示。
カスパーにエイバル王を支援させ、ハル君とオーウェン君の対立構図を何としてでも生み出すようにとのことだ。
「ようやく私の出番ですか」
「あは♪ 嬉しそうだね」
「それはもちろん。坊ちゃまのお力になれるどころか、これでノルズの悲願が果たされることとなるのですからな」
そう言うと、カスパーが不敵な笑みを見せた。
だけど、残念ながら君の望みは叶わないよ。
駒に過ぎない私達のことなんて、これっぽっちも考えていないんだから。
「……気をつけなよ」
「ご心配なく。坊ちゃまも、私の実力はご存知のはず」
「あは♪ まあね」
それでも、ハル君達……いや、あのサンドラさんの足元にも及ばない。
私達の同胞ファフニールから与えられた、この世界でたった一人の【竜の寵愛】を持つ者。
「では、早速行ってまいります」
カスパーは胸に手を当てて恭しく一礼すると、一瞬にして消えた。
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