黒幕にドヤッてみました。
「えへへ、やあ」
僕の手を取っていたはずのサンドラも、モニカも、クリスティアも、オーウェンもいなくなり、目の前に笑顔のユリが現れた。
『貧民街を救え!』のシナリオも終わったから、絶対に登場すると思ってたよ。
「やあ、ユリ。君も知ってのとおり、今回も運命を変えてやったよ」
「そうかな? 今回はそうとは言い切れないんじゃない?」
「? どうして?」
「だって、元々『貧民街が救われる』ことになっていたんだから」
「ああー……」
なるほど、そういう意味ではシナリオどおりと言えなくもないね。
だけど。
「いやいや、僕と君の友人であるロイドの父親が死なずに済んだんだ。ちゃんと運命は変わっているよ」
そう……本来ならサンクロフト大主教は、主人公に倒されて命を落とすことになっていた。
でも、聖女であるクリスティアの助言や、『聖者水瓶アクエリアス』が形式上とはいえバルティアン教会の所有物となり、その使い手であるアイリスも神官として貧民街の救済を行うなど、結果として最高の結果をもたらしている。
「つまり、主人公の活躍なんてかすんでしまうほど、最高の結果になったと思わないか?」
「ハア……そうなんだよねえ……」
ユリは大きく溜息を吐き、肩を竦めた。
「おかげでさあ、私も色々と大変なんだよ。ハル君は好き勝手するだけだからいいけど、こっちはこっちで尻拭いしないといけないんだから」
「放っとけば?」
「できるわけないじゃないか。物語を元どおりにするの、大変なんだからね?」
ユリはジト目で睨むけど、僕はあえてそれを無視しで明後日の方向に目を向ける。
だけど、今回も上手くいったようで何よりだ。
このまま、『エンハザ』の全てのシナリオをぶち壊してやれば……。
「それで? 君の後ろにいるアイツ……エイバル王は、なんて言ってるんだ? きっとこの上なく悔しいだろうからね」
「ああ、アイツね。君の言うとおり、彼は私の目の前で杖をボキッと折っていたよ。そのうち怒りで血管が切れるんじゃないかな」
「ぜひそうなってほしいなあ」
「言えてる」
「「あはははははははははははははははは!」」
僕とユリは、思わず吹き出して大声で笑った。
「さて、そろそろあの馬鹿……おっと、こんなこと言っちゃいけないね。エイバル君が次の『シナリオ』のために色々と算段をしているようだから、僕も戻って手伝わないと」
「ええー、別にいいだろ。アイツに勝手にやらしとけばいいのに」
「そういうわけにはいかないんだよ。彼、馬鹿だから」
そう言って、ユリは苦笑する。
なるほど、彼も苦労してるんだなあ……。
「まあいいや。次に何を仕掛けてくるのか知らないけど、また今回と同じように運命を変えてやるだけだからね」
「あは♪ 言ったね。そう簡単にいくかなあ?」
「もちろんだ。僕には、『大切なもの』があるから」
「そっか……」
ユリは顔を伏せ、寂しく笑った。
コイツは僕の『大切なもの』の中に、自分がいないって思ってるんだろうな。
本当に、馬鹿な奴。
「とはいえ、お手柔らかに頼むよ。僕だって、何もないに越したことはないんだから」
「ぷ……あはは! 正直だね!」
「当たり前だろ。嫌なものは嫌なんだよ」
お腹を抱えて笑うユリに、僕は大真面目に言ってやった。
できることなら、平穏無事に毎日を過ごしたいんだよ。そんなこと、絶対に無理だけど。
「あは♪ 善処しとく」
「うわー、絶対に聞いてくれないやつ」
「善処した結果そうなってしまうのは、しょうがないよね」
呆れた声を出す僕と、してやったりといった顔のユリ。
もしここが『エンゲージ・ハザード』の世界じゃなかったら、ユリとこんなくだらないやり取りをしながら、毎日を過ごせたのかな……って、それはそれで困るか。
この世界が『エンハザ』だからこそ、僕はサンドラに、モニカに、キャスに……『大切なもの』達に出逢えたんだから。
「そろそろ僕を向こうに戻してくれるかな。ユリだって、忙しいだろうし」
「そうそう、私は忙しいんだ。だから……またね」
「ああ、またな」
微笑むユリと、最後の言葉を交わすと。
「むうううう! モニカ、離れなさい!」
「そういうわけにはいきません。ハロルド殿下の制服の糸くずをお取りして差し上げませんと」
「それくらい、私がします!」
「いいえ、殿下のお世話はこのモニカの役目です」
……戻ってくるなり、サンドラとモニカが喧嘩……いや、違うか。モニカに揶揄われてサンドラが怒っているよ。
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