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無事にシナリオをクリアしました。

「ええと……お、これだな」


 僕はオーランド男爵の身体をまさぐり、隠し持っていた『聖者水瓶アクエリアス』を拝借する。

 まるで死体漁りをしているみたいだけど、ちゃんと一億枚のコインを稼いだんだから、正当な取引だよ。


「それにしても、サンドラもモニカも、よくあれだけで分かってくれたね」

「ふふ……当然です。私はハル様の妻ですから」

「そうでなければハロルド殿下の専属侍女は務まりません」


 サンドラがクスリ、と微笑み、モニカはクイ、と眼鏡を持ち上げる。

 照れてどちらも耳が赤いことは指摘しないでおこう。


「それじゃ、カジノに戻ろうか。ライラが何かをしでかすんじゃないかと、気が気でならないよ」

「おっしゃるとおりです。あのポンコツ、やはり廃棄処分にすべきかと」

「いやいや。スロットで勝てたのも、全てライラのおかげなんだからそういうことは言わないの」

「むう……」


 僕がライラを庇ったものだから、サンドラは口を尖らせて()ねてしまった。何これ、メッチャ可愛い。


 ということで。


「あ! 兄貴!」

「マスター、お帰りなさいませ」


 僕達が現れた瞬間、満面の笑みを浮かべて駆け寄るオーウェンと、無表情で優雅にカーテシーをするライラ。

 コインはオーランド男爵を追いかける前と特に変わった様子はなく、カジノのスタッフやその他の客達もみんな呆けたままだった。


「それで、どうだったんだよ」

「もちろん、きっちり取り返してきたよ」

「おお……!」


 僕が『聖者水瓶アクエリアス』を見せてやると、オーウェンは安堵の表情を浮かべる。

 これで貧民街が救えると考えているオーウェンにとって、これがないことには始まらないからね。いや、コイツの思いどおりの結果にはならないんだけど。


「あ、あのう……オーナーはどちらに……」

「ああ。これだけのコインを換金できないからって、君達を置いて逃げてしまったよ。とりあえず、このカジノは借金のカタに僕が差し押さえるから」

「は、はあ……」


 おずおずと尋ねるスタッフに答えてあげたら、どうしたものかと困惑した様子で生返事した。

 まあ、差し押さえはしたけど、所詮はイカサマで手に入れたものなので、誰かに安値で売り払うことにしよう。王都の老舗カジノだし、すぐに買い手がつきそう。


「そういうことで、新オーナーとなった僕の最初の指示だ。このコインを再び元の場所に戻して、引き続きお客様を楽しませてね」

「「「「は、はい!」」」」


 まだ困惑している者達は多いだろうけど、こういう時は普段どおりの仕事をさせるのが一番落ち着きを取り戻しやすい。余計なことを考えずに済むし。

 それに、こうやって変わらず仕事をさせたことで、自分達の職は守られたって思うだろう。悪いのはオーランド男爵であって、彼等は関係ないだろうし。


「さあ、後は任せて僕達は帰ろう」

「はい!」


 僕達は『聖者水瓶アクエリアス』という戦利品を手に入れ、寄宿舎へと戻った。


 ◇


「んだよー……そういうことは早く言ってくれよー……」


 オーランド男爵を倒し、『聖者水瓶アクエリアス』とカジノをいただいた翌日の昼休み、オーウェンがヤンキー座りの体勢で悪態を吐く。


「絶対にもっと酷い結果になっていたから、言わなくて正解だったよ」

「ヒデエ!?」


 まだコイツには言えないけど、今回の『貧民街を救え!』シナリオも僕とオーウェンを争わせる前提で仕組まれていたんだ。

 もし結託している姿をオーランド男爵が見ていたら、きっと余計な真似をしてくる可能性は大いにあったからね。


「とにかく、お前の望みどおりバルティアン教会から治療のできる神官が定期的に派遣されることになったんだから、これ以上文句言うなよ」

「そ、そうだけどよお……」


 まだ納得ができないのか、オーウェンが口を尖らせる。

 正直言って、男の()ねる姿なんて需要はないんだよ。


「うふふ、ですがさすがはハル様ですね。オーウェン殿下のこと、アイリス嬢のこと、そして……私のこと(・・・・)。全て救われるようにしてくださったのですから」

「……最後は聞き捨てなりませんね。ハル様がお救いになったのは、クリスティア様ではなくて教会ですが」

「同じことです。私こそが、バルティアン教会の象徴なのですから」


 あれ? クリスティアって、あれだけサンドラに恐れおののいていたはずなのに、どうしてこんなに強気な態度が取れるんだろう……って、よく見たら(ひざ)が笑っていたよ。無理しなければいいのに。


「むう……あなたがハル様の『大切なもの』でなければ、『バルムンク』の(さび)にして差し上げたのに」

「サンドラ、お願いだからやめてね?」


 僕の奥さんはすぐに暴力に訴えるところがあるから、気をつけないと。


 だから。


「だったら僕は、絶対に君の(そば)から離れられないね」

「そのとおりです。当たり前です。あなた様は、いつも私の(そば)にいてくださいませ」


 小さな手を取ってニコリ、と微笑むと、サンドラは(とろ)けるような笑顔を見せてくれた。

 ……ここで終われば、よかったんだけどねえ。


「えへへ、やあ」


 僕の手を取っていたはずのサンドラも、モニカも、クリスティアも、オーウェンもいなくなり、目の前に笑顔のユリが現れた。

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