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ギャンブラーはギャンブルが苦手だったようでした。

「ははははははははははははは! ならば、この私から奪ってみてはいかがですかな?」


 オーランド男爵は高らかに笑い、僕目がけて襲いかかった。


「キャス!」

「任せて!」


 ずっと僕のポケットの中で大人しくしていたキャスが『漆黒盾キャスパリーグ』に変身し、僕達はオーランド男爵を待ち構える。

 こうなることは最初から分かっていたので、驚きも何もない。


 だけど……ふむ、動きはそこそこ速いけど、大したことはない。これなら難なく対応可能だ。


「っ!? ……ほう、私の攻撃を防ぎますか」

「まあ、そりゃあね」


 盾に一撃を加えた後、オーランド伍長が飛び退いて興味深そうに僕を見た。

 攻撃の威力もほぼ感じなかったし、攻撃力も大したことなさそう。


 なら、あとはこの男がどんなスキルを持っているかだけを警戒すればいい。


「サンドラ! モニカ!」

「はい!」

「お任せください」

「っ!?」


 僕の掛け声で、二人がオーランド男爵に肉薄する。

 スピードは圧倒的に二人が上なので、さすがに逃げられるはずがない。


 できれば、このままアイツがスキルを使用する前に決着を……って!?


「ふう……さすがにこれは、冷や汗が出ましたね」


 馬鹿な……サンドラは確かに、本気で『バルムンク』を振り抜いた。

 仮に(かわ)せたとしても、待ち構えていたモニカの手ですぐに始末されたはず。


 だというのに、この男はあれ(・・)を凌いでみせたっていうのか……?


「事前に聞かされてはいたものの、これほどの実力者だとは思いもよりませんでした。『無能の悪童王子』のハロルド殿下を含めて」

「……今の言葉、取り消しなさい」

「お嬢様、その必要はないかと。あの口ごと斬り刻めば済みます」


 真紅の瞳で強烈なプレッシャーを与えるサンドラと、氷のような冷たさを(たた)えた瞳で見つめるモニカ。

 というか、僕ならこの二人に敵意を向けられた瞬間に、すぐに土下座してしまうね。


 だけど。


「これはこれは、見事な強さです。しかも美しい」


 ええー……コイツ、なんでこんなに余裕なの?

 ひょっとして変態かな。変態かもしれない。


「では、そんな素敵な淑女二人との闘いを、存分に楽しませていただくとしましょうか。ギャンブラー(・・・・・・)として」

「「っ!?」」


 オーランド男爵は、ニタア、と口の端を吊り上げると、無謀にも二人へと迫った。

 何かあるのかと警戒するものの、そんな様子は見受けられない。


「今度こそ、食らいなさい」


 サンドラは『バルムンク』を振りかざし、狙いすましてオーランド男爵のみぞおちへと神速の突きを放つ。


「なぜ!?」

「簡単です。この私に勝利の女神(・・・・・)が舞い降りたからですよ」

「な……っ!?」

「では、このモニカめが敗北を味わわせて差し上げましょう」


 サンドラの攻撃を(かわ)して反撃をしようとしたオーランド男爵だったが、それすらも予測していたかのように、モニカがダガーナイフを繰り出した。

 体勢も崩れているし、これはさすがに(かわ)せないだろう。


 そう思ったんだけど。


「っ!? 馬鹿な!?」

「いやはや……危ないところではありましたが、この賭け(・・)も私の勝ちみたいですね」


 驚愕の表情を浮かべるモニカとは対照的に、オーランド男爵は冷や汗をかきつつも勝ち誇った笑みを浮かべた。

 だけどこの男……今、『賭け』って言ったよな?


 つまりこの闘いも、アイツにとっては賭け事だとでも言いたいのか?

 でも、そういうことならオーランド男爵のスキルの正体について、ある程度予測ができる。


 ゲームではたまにある設定だけど、確率によってスキルが発動した場合、百パーセントの成功率で攻撃がヒットしたりダメージを受けなかったりするアレ(・・)だ。


 加えて、奇跡的に(かわ)しはしたものの、モニカの攻撃に僅かながらの動揺が見られた。


 なら……ちょっと試してみるか。


「フン、サンドラとモニカの攻撃を(かわ)したくらいでいい気になるなんて、大したことないな」

「おや? 負け惜しみですか?」

「まさか。どうやったか知らないが、できるのは攻撃を(かわ)すだけなんだろ? それだけじゃ、僕達を倒すことなんてできない」

「……試してみますか?」


 表情こそにこやかだけど、僕に向ける視線は明らかに怒りに満ちていた。(あお)り耐性ゼロなのかな。チョロイ。


「いいよ。防御に関しては、僕はこの王国で一番だと思っている。オマエごときの攻撃、簡単にあしらってやるよ」


 サンドラとモニカをチラリ、と見やった後、僕は噛ませ犬らしく、尊大な態度で(あお)るように口の端を持ち上げた。

 オーランド男爵は武器であるステッキを構え、まるでステージの上を歩くモデルのように優雅にこちらへと向かってくる。


 その瞬間。


「シッ!」


 一気に間合いに入り、オーランド男爵が強烈な突きの連撃を繰り出した。

 僕はそれを、『漆黒盾キャスパリーグ』で受け止め……何っ!?


「この賭け(・・)も、私の勝ちのようです」

「そうだね。僕との賭け(・・・・・)に関しては(・・・・・)

「っ!?」

「終わりです」

「く……っ!? 【運命のダイス】!」

「私のこともお忘れなく」

「なっ!? ギャハッッッ!?」


 背後にいたサンドラに対してスキルを発動しようとしたオーランド男爵だったが、それと同時に頭上から突き降ろされたダガーナイフが、その脳天に突き刺さった。


「ギャンブルが得意なのかもしれないけど、あまり間を置かずに賭け事をしたことはないみたいだな……って、もう聞こえないか」


 血を噴き出し、目を見開いて大の字で地面に倒れたオーランドに向け、僕は冷たく言い放った。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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