カジノオーナーが持ち逃げしました。
「さて……もうコインがなくなったみたいだし、換金してもらっていい? あ、そのうち一億枚は景品の『聖者水瓶アクエリアス』に交換してね」
傍で呆けて立っているスタッフの一人に声をかけるが、全然反応しない。
放心状態になるのは構わないけど、せめて自分の仕事くらい全うしてほしいなあ。
「聞こえませんでしたか? ハロルド殿下は、換金と景品の交換をご所望です」
「ヒイッ!? しょしょ、少々お待ちくださいませ!」
背後に回ったモニカにダガーナイフを突きつけられ、正気に戻ったスタッフが慌ててどこかへ走っていった。
おそらく、いつの間にかこの場からいなくなったオーランド男爵に、お伺いを立てるつもりなんだろう。
「あ、兄貴、やり過ぎじゃ……」
「なんでだよ。僕は純粋にスロットを楽しんだだけだ。なら、このカジノは僕に支払う義務がある」
呆れるオーウェンをジト目で睨み、僕はオーランド男爵が来るのを待つ。
まあ、絶対に来ないだろうけどね。
「さて、行くか。オーウェンとライラは悪いけど、コインを見張っていてくれるかな」
「お任せください。指一本でも触れた者は、全て排除いたします」
「そ、それはいいけどよ……」
表情一つ変えず、淡々と答えるライラと、事態が呑み込めずに戸惑うオーウェン。
でも、二人共張り切って周囲の者達を威嚇して遠ざけているので、やる気満々のようだ。
「さあ、行こう」
「はい!」
「かしこまりました」
僕達は先程のスタッフが向かった先へ向かい、オーランド男爵を探す。
すると。
「どうやら先程のスタッフのようですね」
「みたいだね……」
床に転がり、血を流すスタッフ。
ひょっとしたら、逃げようとしたオーランドに殺されたか?
「急ごう」
僕達は通路のさらに奥へと駆け出す。
「ハロルド殿下、私が先行して見てまいります。」
「頼んだよ。……だけど、気をつけて」
「はい」
モニカが軽くお辞儀をすると、とんでもないスピードであっという間に僕達を置き去りにした。
ただのイベントボスならモニカが倒されるなんてことは絶対にないと言えるんだけど、何せ相手はカジノオーナーのオーランド男爵。言ってしまえば『エンハザ』でもモブでしかない。
なら、あの男の実力は未知数……いや、きっと『エンハザ』のヒロイン達よりも強いはず。
同じモブのサンドラやモニカ達が、そうであるように。
「サンドラ! 僕達も急ごう!」
「はい!」
カジノの通路を駆け抜け、スタッフ用の通用口の扉を蹴破る。
待ち伏せの可能性を、一切考慮せずに。
だって。
「あはは、馬鹿な連中だな」
「ふふ、本当に」
地面に転がる連中を一瞥し、僕達は嘲笑を浮かべる。
オマエ達みたいな雑魚が、僕のモニカの相手になるはずがないのに。
「だけど、倒れている連中を目印に追いかけていけばいいから楽だね」
「本当ですね。あまりにもお粗末としか言いようがありません」
きっとオーランド男爵は、こうなることも予測して脱出ルートを確保しておいたつもりなんだろうけど、僕達の……というか、モニカの実力を侮ったことがそもそも失敗なんだよ。
その時。
――キインッッッ!
「サンドラ! 今の音!」
「向こうですね!」
おそらく、モニカが何者かと戦闘を行っているのだろう。
夜空に響いた金属音に、僕の心が逸る。
モニカの強さは理解しているけど、それでも万が一ということがあるから。
だから、どうか無事でいてほしい。
「……なかなかやりますね」
「私も驚きました。まさか殿下の侍女であるあなたが、これほどまでの実力をお持ちだとは」
僕達がたどり着くと、そこには武器を構えて対峙する、モニカとオーランド男爵の姿があった。
それにしても……ふむ、あの男の武器はステッキか。そんなものは『エンハザ』には登場しないけど、きっとUR武器と遜色ないに違いない。
「困るなあ、オーランド卿。『聖者水瓶アクエリアス』を持ち逃げなんてされたら、せっかく稼いだ僕のコインと交換できなくなっちゃうじゃないか」
「よく言いますね。イカサマでコインを稼いでおきながら」
「僕がイカサマをしたっていう証拠はあるのか? 証拠がないのなら、それはイカサマじゃないよ」」
はい、本当はイカサマしました。
それを可能にしたのは、機械系の敵を操ることができるライラの固有スキル、【ハッキング】だ。
ライラに聞いたところ、操るのは機械であれば何でもいいらしく、当然スロットも可能とのこと。
なので彼女には大いに【ハッキング】してもらい、全て大当たりにしてもらったというわけだ。
「よくもぬけぬけと……」
「何を言っているのか分からないなあ。いずれにせよ、カジノのオーナーが吐く台詞ではないね」
ギャンブルの世界では、騙された奴が悪いんだ。
それを誰よりも知っているはずのカジノオーナーがそんなことを言うんだから、結局は器じゃなかったってことかな。
まあ、『エンハザ』のカジノゲームにイカサマなんて存在しないから、しょうがないのかもしれないけど。
「もういいだろ。早くその『聖者水瓶アクエリアス』をこちらに渡せ」
「は……ははは……」
「?」
突然笑い出したオーランド男爵を見て、僕は首を傾げるそぶりを見せた。
正直、このパターンはもう飽き飽きしているんだよ。
「ははははははははははははは! ならば、この私から奪ってみてはいかがですかな?」
オーランド男爵は高らかに笑い、僕目がけて襲いかかった。
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