カジノで大勝ちしました。
「マ、マジかよ……」
スロットのドラムは、見事三つとも『7』で停止していた。
「どうだい、僕の動体視力もなかなかのものだろ?」
なんて言ってみたものの、そんなもので『7』を三つ揃えるなんてできるわけがないじゃないか。
実際、『エンハザ』のスロットゲームは全て運任せでしかない。なら、このスロットだって運要素でしか大当たりは出現しないに決まっている。
しかも、天文学的な低確率で。
「ほらほら、次々いくぞ」
「お、おおおおおー……」
ドラムを回しては表示される三つの『7』に、オーウェンはポカン、と口を開け、変な声を漏らして眺めるばかり。
でも、僕の連れ達はむしろ当然と言わんばかりにドヤ顔しているけどね。
「お、おい! あれを見ろ!」
「おおおおお! 私はスロットでスリーセブンが出ているのを初めてみたぞ!」
いつの間にかギャラリーが増え、僕達の後ろには大勢のカジノ客が見学していた。
その中には、カジノスタッフだけでなくオーランド男爵の姿も。
「ええと、これで何枚になるのかな?」
「今で大当たりは五十回を超えましたので、残り半分です」
「そっか」
モニカの答えを聞き、僕はまたレバーを引いてはボタンを押す。
だけど僕、一億枚程度で満足するつもりはないんだよね。
どうせなら、このカジノのコインを根こそぎ奪ってやらないと。
山のように積み上げられる、コインの入った箱。
置き場所すらなくなり、そろそろ百回目の大当たりが近づいてきたところで。
「お楽しみにのところ失礼します。ハロルド殿下……少々確認をさせていただいてもよろしいですかな?」
嘘くさい笑顔を貼りつけ、オーランド男爵が声をかけてきた。
うんうん、そろそろだと思っていたよ。
「確認? 何ですかそれは」
「大したことではありません。ただ、残念なことに、当カジノでもイカサマをするような輩もおりまして、殿下に限らず念のためお調べをさせていただいているのですよ」
「はあ……」
僕は気の抜けた返事をし、促されるままにゆっくりと席を立つ。
「ご協力いただき、ありがとうございます。それでは失礼して……おい」
「「「はっ!」」」
オーランド男爵の声がけで、ホールスタッフの三人がそれぞれスロット台と僕の身体を調べ始める。
別に構わないけど、余計なところは触らないでいただきたい。
「……私のハル様を疑うとは、いい度胸ですね」
「っ!?」
気づけばサンドラが真紅の瞳を輝かせ、オーランド男爵の首元に『バルムンク』を突きつけていた。
いや、ここに来る前に甲冑と帯剣をお願いしたけど、それを使うのはまだ早いよ。
「サンドラ落ち着いて。それで、これはまだ続くんですか?」
「オーナー、確認しましたがどこにも不審な点は見受けられませんでした」
「……これは失礼しました。引き続き、スロットをお楽しみください」
「そうさせてもらうよ」
笑顔を見せつつも、不機嫌な様子が隠し切れないオーランド男爵。
ほら、その証拠にこめかみに青筋が浮かんでいるよ。
ということで、僕は引き続きスロットを再開する。
やっぱり僕の台だけ何度やっても大当たりが出現し、止まることを知らない。
既に『聖者水瓶アクエリアス』を手に入れるために必要な、一億枚のコインを集めた後でも。
「な、なあ兄貴……もういいんじゃ……」
「何言ってるんだよ。僕はこのカジノにある十億枚のコイン、全部手に入れるつもりなんだぞ?」
「はあ!?」
当然じゃないか。僕も『エンハザ』のとおり、エイバル王とは関係なくただカジノを運営しているだけだったら、こんなことをしなかったよ。
でも、ハーディング家……アリエスから『聖者水瓶アクエリアス』を盗み、それを餌にして僕達をおびき出し、『貧民街を救え!』のシナリオに強制的に介入させようとしたんだ。
なら、その報復を受けたからって、何も文句は言えないよね。
「ほら、そんなところに突っ立ってないで、コインを箱に詰めろよ」
「お、おう……」
オーウェンは首を傾げながら、コインを箱に入れて積み上げる。
巨大な山と化したコインの入った箱は、なかなか壮観だなあ。
それからも、僕はひたすらスロットを回してはコインを出し続ける。
ここまでくると、カジノにいる全ての者が声を失っていた。
そして。
「ふう……」
僕は大きく息を吐き、額の汗を拭う仕草をする。
目の前にある、十億枚のコインの山を見つめて。
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