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カジノで勝負することになりました。

「ハロルド殿下、オーウェン殿下、ようこそお越しくださいました」


 サンクロフト大主教やアイリスと面会した日の夜、僕はオーウェンを連れてカジノへとやって来た。

 オーウェンの奴は不貞(ふて)(くさ)れていたけど、そんなことはお構いなしに強引に引きずってきましたとも。サンドラが。


「お出迎えいただき、ありがとうございます。例の宝についてどのようにするか思案しましたが、やはりカジノの景品にするのが一番かと」

「なるほど……オーウェン殿下も、それでよろしいのですか?」


 オーランド男爵の問いかけに、オーウェンは無言で頷く。

 サンドラに頭をアイアンクローの状態でつかまれ、力任せに頷かされたというのが正解だけど。


「かしこまりました。それであれば、早速景品にしましょう。必要となるコインの枚数は、そうですね……やはり、一億枚にいたしましょう」

「「「っ!?」」」


 その言葉を聞いた瞬間、サンドラ、モニカ、オーウェンが目を見開いた。

 いやいや、一億枚って言ったら『エンハザ』だと何回ガチャできると思っているんだよ。夢の三万連ガチャだよ。


「国宝級の逸品なのですから、それくらいの値がついて当然でしょう」

「で、ですが、それは小国の国家予算規模に匹敵します。これでは景品として譲り渡す気がないとしか……」

「仕方ありません。それに、『景品にせよ』とハロルド殿下とオーウェン殿下のご判断ですので」

「っ! 兄貴!」


 (たま)らずオーウェンが声を荒げる。

 奇跡でも起きない限り『聖者水瓶アクエリアス』が入手不可能となってしまったことで、僕が許せなくて仕方ないんだろうね。しかも、僕が勝手に決めたことだし。


 だけど。


「まあそうですよね。それだけの価値があることは、僕も理解していますよ」

「さすがはハロルド殿下、ご理解いただけて何よりです」


 胸に手を当て、大仰(おおぎょう)にお辞儀をするオーランド男爵。

 でも、僕は彼が眉を僅かに動かしたのを見逃さなかった。


 この反応だけで、オーランド男爵がエイバル王に加担していることがはっきりと分かったよ。

 だって、『聖者水瓶アクエリアス』を主人公であるオーウェンが入手しなければ、シナリオが崩壊してしまうのだから、それは望むところじゃないよね。


 だから眉を動かしたんだろう?


「その上で聞きたい。果たしてこのカジノ、一億枚ものコインを用意できるのかな?」

「もちろんにございます。当カジノのコインの総数は十億枚。現在ホールに出回っている分はそのうち数千万枚程度ですから、何一つ問題はありません」

「そっか」


 さて、どうしようかな。

 せっかくだから『聖者水瓶アクエリアス』を手に入れるだけでは面白くない。


 だったら、ちょっと泣かせてみることにしよう。


「分かった。じゃあ僕は、その一億枚を稼がせてもらうとするよ」

「なるほど、それは面白いですね。……って、おや? 聞き間違いですか? ハロルド殿下が『一億枚を稼ぐ』と……」

「聞き間違いなんかじゃないよ。僕はそれだけのコインを獲得し、『聖者水瓶アクエリアス』をいただいて帰ることにする。それも、今夜のうちに」


 僕は自信満々でそう告げると。


「ぷ……くく……はははははははははははは! 面白い! 実に面白いですね!」


 そんなことは不可能だと(たか)(くく)っているのだろう。オーランド男爵は腹を抱え、ソファーの上で笑い転げる。


「いいでしょう! ぜひとも殿下には、チャレンジいただきませんと!」

「分かってくれてなによりだよ。それじゃ、時間も惜しいから遊ばせて(・・・・)もらうよ(・・・・)

「はははははは……はい、どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」


 (うやうや)しく一礼するオーランド男爵に見送られ、僕達は会場であるフロアへと出た。


「あ、兄貴! どうするつもりなんだよ! 偉そうなこと言ってたけど、さすがに一億枚なんざ無理に決まってるじゃねーか!」


 僕の胸倉をつかみ、オーウェンが険しい表情で詰め寄る。

 その表情や言葉遣い、どれをとっても前世のヤンキーのそれだなあ。


「オイオイ、落ち着け。よく考えてみなよ。このカジノのスロットで『7』を三つ揃えたら、どうなると思う?」

「は? そりゃあ、確か百万枚だったっけ?」

「だろ? なら、百回『7』を三つ揃えれば、それだけで一億枚になるんだよ」

「そ、そうか……って、んなわけあるか! 大体、そんなに当たるわけねえだろ!」


 おおー、オーウェンがノリツッコミを覚えたよ。


「それはやってみないと分からないよ。まあ見てなって」


 スロット台があるスペースへと移動し、僕は椅子に腰かけると。


「さあ、やりますか」


 コインを一枚投入し、レバーを引く。

 ランプが点灯し、ドラムが勢いよく回り出したのを見て、僕は停止ボタンに親指をかけた。


「ほい、ほい、ほいっと」


 小気味よくボタンを押し、ドラムが停止する。


 そして。


「マ、マジかよ……」


 スロットのドラムは、見事三つとも『7』で停止していた。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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