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ヒロインには神官になってもらうことにしました。

「ハ、ハロルド殿下! どうか『聖者水瓶アクエリアス』を当家に……私に、取り返してはいただけないでしょうか!」


 席から飛び降り、アイリスは綺麗な土下座を敢行した。

 前世の記憶を取り戻してから何度も目にしたその姿勢に、もはや様式美すら感じているよ。


「おやめください。それより……今の『取り返してはいただけないでしょうか』とは?」

「そ、その……いえ、包み隠さずお話しいたします」


 観念した様子のアイリスが、訥々(とつとつ)と語り出す。


 生まれつき病弱だった彼女は、幼い頃からずっと寝たきりの生活を強いられており、健康な身体に憧れていたこと。

 見かねた父親のハーディング伯爵が、ある日突然『聖者水瓶アクエリアス』を持ち帰ってきたこと。


 そのおかげで、走り回ったりすることはできないものの、日常生活には支障がないレベルまで回復することができたこと。


「……あの『聖者水瓶アクエリアス』がなければ、私の身体は三日ともちません。またあの寝たきりの生活に戻るしかないんです」


 アイリスは瞳に涙を(たた)え、ギュ、と拳を握りしめた。

 そうだよねー……彼女だって自分の命がかかっているようなものだし、やっと手に入れた健康を手放したくない気持ちも理解できる。


 実際に『貧民街を救え!』では、主人公がイベントボスのサンクロフト大主教を倒してバルティアン教会から『聖者水瓶アクエリアス』を奪い返し、アイリスに渡すんだ。


 ただし、定期的に貧民街の子供達に治療を施すことを条件として。


「どうかお願いです! 『聖者水瓶アクエリアス』を取り戻してください! そして、この私にお戻しいただけないでしょうか! 私にできることならなんでもします……なんでもしますから……っ」


 涙を(こぼ)し、悲痛な表情で訴えるアイリス。

 僕は彼女の震える肩に手を添えると。


「分かりました。ただし、ちゃんと僕の望みを受け入れてくれるのであれば、ですが」


 そう言うと、僕は『エンハザ』の噛ませ犬よろしく、ニタア、と口の端を吊り上げた。


 ◇


「それで、ハル様はどうなさるおつもりなのですか?」


 ハーディング家の屋敷からの帰り道、サンドラが僕の顔を(のぞ)き込んで尋ねた。


「もちろん、あの『聖者水瓶アクエリアス』をオーランド男爵からいただいて、彼女に返してあげるよ。僕の条件を守ってもらうことを前提にしてね」

「……その条件とは?」


 サンドラのサファイアの瞳が、血塗られた赤に変わる。

 答えを間違えたら、その瞬間に僕やアイリスはとんでもない目に遭いそうだなあ。


 絶対にそんなことにはならないけど。


「もちろん、『聖者水瓶アクエリアス』を使って、貧民街で定期的に治療を行ってもらうんだよ。ただし、バルティアン(・・・・・・)教会の(・・・)神官として(・・・・・)


 そう……僕が考えたのは、『貧民街を救え!』のシナリオを少し改編した、誰も損をしないやり方。

 元々バルティアン教会がゲームの中で『聖者水瓶アクエリアス』を強奪したのは、教会の威信を守るためだ。


 なら、アイリスを教会の神官にしてしまえば、彼女の治療行為は全てバルティアン教会が行ったものになる。

 貧民街での定期治療についても、教会の名声を上げることに繋がるし。


 まあ、サンクロフト大主教は教会が入手できなくなるわけだから、あまり()に落ちてはいない様子だったけど、最後は折れてくれたので『エンハザ』のようにイベントボスになったりはしないだろう。


 オーウェンは『聖者水瓶アクエリアス』さえ入手して貧民街の住民に与えれば解決するなんて考えているみたいだけど、そんなことをしたら教会に奪われ、結局は誰も救われない。

 ……いや、そもそも貧民街の住民達があっさり裏切って、『聖者水瓶アクエリアス』を得体も知れない奴に売り払ったりしそう。


「ということで、後は僕がオーランド男爵から『聖者水瓶アクエリアス』を譲ってもらえば、この件は全て解決だ」

「さすがはハル様です! まさに慧眼(けいがん)というほかありません!」


 サンドラが僕の手を握りしめ、嬉しそうに手放しで褒めてくれる。可愛い。

 だけど、相変わらず瞳は紅いままだし、どこか興奮しているように見えるのは気のせいじゃないよね? 今すぐ襲われてしまいそうな勢いだよ。


「ですがハロルド殿下、その『聖者水瓶アクエリアス』をどうやって譲り受けるのですか? さすがにオーランド男爵もそう簡単に手放すとは思えませんが……」

「もちろん理解しているよ。だから僕は、正式な方法で手に入れる」

「「正式な方法?」」

「そうだよ。カジノなんだから、キッチリと稼いで景品と交換してもらうさ」


 僕は二人に向け、含みのある笑みを浮かべた。

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