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教会の大教主と交渉しました。

「まさか聖女様とハロルド殿下にお越しいただけるとは、夢にも思いませんでした」


 にこやかな表情で胸に手を当ててお辞儀をするのは、王都にあるバルティアン教会デハウバルズ支部のトップであり、大主教の“レジナルド=サンクロフト“。

 つまり、ロイドの父親だ。


「こちらこそ、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」


 僕は右手を差し出し、サンクロフト大主教と握手を交わす。

 へえ……聖職者だからもっと華奢で綺麗な手をしているのかと思ったら、意外と手の皮が厚くごつごつとしているな。


 それだけで、彼がただの大主教ではないということが分かるよ。


「では、どうぞこちらへ」


 僕達はサンクロフト大主教の後に続き、教会内を歩いた。

 なお、今日のお供にサンドラやモニカではなくクリスティアにしたのは、これから大主教にお願いすることが彼女にも関係のあることだからだ。


「それで……本日はどのような御用で?」


 応接室に案内され、ソファーに腰かけるなりサンクロフト大主教が尋ねる。

 物腰は柔らかいけど、いきなり直球だね。ごつごつした手は伊達じゃない。


「はい。実は……」


 僕はカジノへ行った日からこの一週間、ずっと考えていたことを提案する。


「……住民への無料での治療、ですか」

「ええ」


 この世界では、怪我や病の治療をバルティアン教会が担っている。

 このため、聖職者になるための条件の一つに『回復魔法が使用できるかどうか』があり、実は聖騎士のカルラも、ああ見えて回復スキル持ちだったりするのだ。


「住民の治療は基本的に慈善事業として行ってはおりますが、一方で治療費は教会の大きな収入源の一つとなっています。簡単にやめることはできません」

「ですよねー」


 いや、分かってはいたんだよ?

 サンクロフト大主教が言ったように収入源ってこともあるけど、バルティアン教会が世界中に信徒がいて絶大な影響力を持っている理由の一つでもあるから。


「残念ですがハロルド様、これは私にもどうすることもできません。それに無料にしてしまった場合、それこそ治療を必要としないような軽い怪我や病でも住民達は教会に殺到し、真に治療が必要となる人々に手が回らなくなるおそれがあります」

「ですよねー」


 いやいや、クリスティアの言うことにも完全同意だよ。

 彼女が言った懸念もあるように、ただ単に無料にすればいいってものじゃないんだ。


 そのあたりのさじ加減も考え、聖王国や教会は上手くやっていると思うよ。


 だけど。


「それでも、本当なら治療すれば助かるような病気や怪我の人々が、教会で治療が受けられずに亡くなっていることも事実です」

「それはそうですが……」


 本音を言えば、こんなことだってクリスティアやサンクロフト大主教に言いたくない。

 そういった人々を救うべきなのは、聖王国や教会ではなく王国がすべきことなのだから。


 だってそうだろ? 王国が治療費を払えない人々だけ治療が受けられるように費用の補助をしてやるとか、あるいは無料の診療所を限定的に週一回程度でいいから開設してあげるとか、やりようはいくらでもあるはずなんだ。


 なのに、デハウバルズ王国は……いや、ほとんどの国はそんなことはせず、治療は聖王国や教会に任せっきりなのだから。


「なので、例えばですが……」


 僕は二人に顔を寄せ、そっと耳打ちする。


「……それなら、少なくともこの教会では可能かと」

「当たり前ですが僕もこれをここ以外で行うなんて不可能だと思っていますし、根本的な問題は我々王国が……いえ、今の国王では無理ですね。次の王に期待しましょう」

「うふふ、はっきりとおっしゃいますね」

「取り(つくろ)ってもしょうがありませんので」


 愉快そうに笑うクリスティアに、僕は肩を(すく)めておどけてみせた。

 本当に、次の王(ただし僕以外)には頑張ってもらわないとね。


「じゃあ、話はまとまりましたので、すぐに用意しますね」

「ええ。その時は」


 僕は席を立ち、サンクロフト大主教と二度目の握手を交わした。


 ◇


「上手くいってよかったですね」


 教会を出て、クリスティアが微笑む。


「うん。それもこれも、全て君がいてくれたからだよ」

「うふふ、そんなことはないですよ」


 なんて彼女は謙遜しているけど、僕だけで交渉していたら絶対に彼は提案を受け入れなかったはずだ。

 だって……『聖者水瓶アクエリアス』の存在を知ったサンクロフト大主教は、きっと自分達の手で入手しようとするだろうから。


 『エンゲージ・ハザード』本編シナリオの一つである『貧民街を救え!』で、サンクロフト大主教はイベントボスの一人として『聖者水瓶アクエリアス』を入手しようと色々と画策する。

 こんなものがあれば、バルティアン教会の威厳が損なわれることにつながりかねないから。


 なので、『聖者水瓶アクエリアス』の本来の所有者(・・・・・・)である者から、彼は神官や信徒を使って強奪を企てるのだ。


「クリスティアさん、きっとこの埋め合わせはするからね」

「うふふ、期待して待っています」


 そう言うと、クリスティアは楽しそうに聖女の微笑みを見せてくれた。

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