カジノに主人公がいました。
「うわあああ……!」
早速僕達はカジノにやって来ると、肩の上に乗るキャスが瞳をキラキラと輝かせた。
普通、中世ヨーロッパ風のカジノといえば、もっと大人し目のイメージがあったけど、残念ながらこの世界のカジノは前世のラスベガスにあるようなカジノみたいにネオンが明々と灯っているよ。
というか、電気の存在しないこの世界で、どんな技術を用いてネオンを灯しているのか気になるところ。
「ハル! 早く入ろ!」
「あはは、そうだね」
キャスに急かされ、僕達は入り口のボディーガードのチェックを受けた後、中へと入る。
ふむふむ、この屋敷の外見とは違い、仲は意外と落ち着いた雰囲気だな。客も貴族しかいないようなので、すこぶる上品だし。
「じゃあ、どのゲームをしてみる?」
僕は振り返り、みんなに尋ねる。
なお、『エンハザ』におけるカジノゲームは三つ。ブラックジャック、ルーレット、それにスロットだ。
ブラックジャックは手堅く勝負ができて比較的安全ではあるものの、レートも大きくなくあまり儲からない。
逆にスロットは大当たりが出れば一攫千金も夢ではないものの、その倍率はお察し。まさにオールオアナッシングだ。しかも、九九.九九九九九パーセントはナッシングというね。
で、ルーレットはその中間という感じで、前世の僕ももっぱらルーレットをしていたなあ。毎回負けてコインを奪われたけど。
「私は分かりませんので、ハル様にお任せします」
「ハロルド殿下がお選びいただいたものであれば、いかなるイカサマもこのモニカめが看破いたしましょう」
「スロットであれば、マスターの勝利は間違いありません」
サンドラとモニカは僕の選択に委ねるみたいだけど、ライラはイカサマする気満々だろ。
「キャスはどう?」
「ボク? ボクはねえ……」
カジノ内を見回し、小さく首を傾げると。
「うん! あのクルクル回るやつ!」
「分かった。ルーレットだね」
ということで、ルーレットで遊ぶことが決定した僕達は、早速台の椅子に腰かけた。
参加者は、僕達の他にも女性を両脇に侍らせた恰幅のいい中年貴族と、どこか陰気な感じの青年貴族、そして。
「いやー、まさか兄貴達がカジノに来るなんて、思ってもみなかったぜ!」
……どうしてオーウェンの奴が、こんなところにいるんだっけ?
「貧民街にいた頃は、もっとジメジメした地下カジノには顔を出してたけどよ、まさか自分がお貴族様御用達のカジノに来ることになるなんてなあ」
「いや、なんで来たんだよ」
「あん? マリオンから『王子としての社会勉強だから』って言われて、それで来たんだけどよ」
「ハア……」
僕はこめかみを押さえ、かぶりを振る。
あれほどマリオンには警戒しろって言っていたのに、まんまと乗せられてここに来てたら世話がないだろ。
だけど、わざわざ僕のところに招待状を送ってきたことといい、ひょっとしたらここで僕とオーウェンを争わせ、主人公と噛ませ犬の構図を作ろうと画策しているってことかな。
だけど……『エンハザ』ではカジノはあくまでもミニゲームのために用意されているだけであって、本編なんかとは一切関わりがない。
つまり、僕とオーウェンがヒロインを巡って争うようなイベントはないんだけどなあ……。
「とにかく、せっかくだから俺と勝負しねえか?」
「勝負?」
「おう! 俺達の中で一番多くコインを稼げた奴が、一つだけ言うことを聞かせることができるってのはどうだ?」
なるほど……それ、僕にメリットがない。
しかも、ライラに頼んでスロットでイカサマしてもらえば、僕の勝利は確定するんだけど。いいのかな?
「……で? お前は勝ったら何を僕達にさせるつもりなんだ?」
「そ、それは……(ゴニョゴニョ)」
ああうん。顔を真っ赤にして口ごもった時点で理解した。
つまり、リリアナとの仲を取り持ってほしいとか、そんな類だろう。
「しょうがない、分かったよ。ただし、僕が勝利した時は覚悟しとけよ」
「へっ! 負けねえぜ!」
オーウェンは親指で鼻を撫で、不敵な笑みを浮かべる。
まるで少年漫画の主人公みたいな台詞と仕草に、ちょっとゲームを間違えてるんじゃないかと思ってしまった。というか主人公、『エンハザ』でこんなキャラじゃないだろ。今更だけど。
ということで、僕達は公平性も兼ねてルーレットで勝負した……んだけど。
「チ、チクショウ……ッ」
「こんなことって……」
「わあい! やったやった!」
結論から言うと、僕達の中で一番勝利したのはモニカと一緒にベットしたキャスだった。
まさか、こんな子猫の魔獣が僕達の中で最強だったなんて……。
「キャスさんは一位ですので、ハロルド殿下や私達にどんなお願いでもできますよ? 例えばハロルド殿下の裸踊りとか」
「ハル様と私が一緒にお風呂に入るとか」
「一晩中このライラに『充電行為』を行うとか」
いやいや、ここぞとばかりに自分の願望をキャスに言わせないでくれるかなあ。
というかサンドラ、僕と一緒にお風呂が入りたいのかあ……想像したら僕のハロルドがちょっと恥ずかしいことになってる。
「んー……どうしよっかなー……」
キャスは器用に後ろ脚二本で立ち、前脚を顎に当てて思案する。
頼むからこの三人の言葉は参考にしないでほしい。
その時。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます」
ナイスミドルな髭を生やした一人の貴族が、僕達に声をかけてきた。
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