ニワトリ魔獣の討伐を開始しました。
「来るよ!」
「ああ!」
突然、訓練場が巨大な影に覆われる。
僕達は、上を見上げると。
――炎のように赤いニワトリの魔獣が、大空から見下ろしていた。
「な、なんだよありゃあ!?」
地面に寝転がっていたオーウェンが。勢いよく起き上がって叫ぶ。
「……“怪鳥フレズヴェルグ”」
魔獣を見上げ、僕は静かに呟いた。
『エンハザ』リリース記念の期間限定イベントに登場した、最大級の大きさを誇るレイドボス。それが、この怪鳥フレズヴェルグだ。
リリース直後のため、まだヒロインや武器カードの入手に乏しく、戦力が整っていない中でのとんでもない強さを秘めたレイドボスの登場に、スマホを放り投げたユーザーも後を絶たなかっただろう。
僕は、この魔獣の存在もユーザーが定着しなかった原因の一つだと思っている。というか運営、ちゃんとゲームバランスを考えろと言いたい。
だけど、困ったぞ。
当たり前だけど僕は基本的に防御しかできないし、肝心の攻撃面に関して戦力はオーウェンとマリオンの二人だけ。しかも、オーウェンは知らないけどマリオンは対空スキルを持ち合わせていない。
このままだと、ジリ貧になるのは目に見えている……って。
「ク……ッ!?」
一気に急降下し、くちばしを向けて突撃してくるフレズヴェルグを、僕は盾でかろうじて防ぐ。
巨体を活かしたそのパワーに加え、圧倒的な降下スピードのため僕も受け止めるのが精一杯だった。
吹き飛ばされなかっただけましだよ。
「マリオン!」
「……申し訳ありませんが、私ではなす術がありません」
僕はマリオンを見て叫ぶが、あの女は唇を噛んでかぶりを振る。
いや、そうじゃなくて。
「そんなことを言っているんじゃない! いいからオーウェンと一緒に応援を呼びに行け!」
「っ! 兄貴、俺も闘うぜ!」
「何を言ってるんだ! お前じゃアイツに攻撃できないだろ!」
「うぐ……」
対空スキルがない以上、ここにいられても足手まといにしかならない。
だったら、僕が一人で相手をしている隙に、対空スキルを持つ他の者を連れてきてもらったほうが効率的だ。
「オーウェン殿下、まいりましょう」
「チクショウオオオオオオオオッッッ!」
オーウェンは悔しそうに叫び訓練場を後にするが、そんな気にするな。
お前ならいずれ、対空スキルを身に着けることができるよ。
「さあこい!」
「クエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!」
攻撃目標が僕一人となり、フレズヴェルグはこちらに狙いを定めて執拗に攻撃を仕掛けてくる。
これだけの巨体のくせに動きが素早いなんて、本当に厄介だな……。
「ハル、攻撃する?」
「いや……【スナッチ】じゃ、多分傷一つつけることもできない」
そもそも『漆黒盾キャスパリーグ』は防御のために存在する武器。【スナッチ】は即死効果もあって優秀ではあるものの、攻撃力自体はそれほど高くない。
難易度設定は分からないものの、このフレズヴェルグには通用しないと見るべきだろう。
「むう……ボクの【スナッチ】、弱くないもん」
「分かってるよ。アイツとは、たまたま相性が悪いだけだ」
拗ねた声を出すキャスに、僕は言葉をかける。
でも、これは決して慰めなんかじゃなくて、単純にフレズヴェルグが【即死無効】のパッシブスキルを持っているからであって。
そうじゃなければ暴食獣ヘンウェンの時のように、その命を奪ってやったんだけどな。
「それより、僕はキャスのことを誰よりも信頼しているんだ。アイツの攻撃、しっかり防いでよ?」
「当然だよ! ボクはハルの相棒なんだから!」
「あはは! そうだね!」
元気を取り戻したキャス……『漆黒盾キャスパリーグ』にコツン、とおでこをくっつけると、僕はフレズヴェルグの次の攻撃に備える……んだけど。
「チッ! 頭を使ってくるじゃないか!」
先程のような急降下攻撃ではなく、ホバリングから両足の爪で僕をつかみにかかってきた。
確かにこれなら、防がれたとしてもそのままつかみ上げ、上空から落としてしまえば簡単に殺せるからね。
僕はフレズヴェルグの爪を躱し、捕まらないように身をかがめる。
その時。
「ッ!? クエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!?」
「……私のハル様を足蹴にするとは、ただで済むとは思わないことですね」
「っ! サンドラ!」
巨大な爪の一つを一刀両断し、真紅の瞳のサンドラが『バルムンク』の切っ先をフレズヴェルグに向けた。
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