私は、待ち続ける ※ユリシーズ=ハーザクヌート=ストーン視点
■ユリシーズ=ハーザクヌート=ストーン視点
「本当にもう。しょうがないなあ……」
膝の上で気持ちよさそうに眠るハル君を見て、私は悪態を吐く。
私は君の敵なんだよ? こんな無防備な姿を晒してるけど、そのことをちゃんと理解しているのかなあ……。
おかげでさあ。
「あは……どうしても、顔が綻んじゃうよお……」
だって、君がそれだけ、私に心を許してくれているってことだもん。嬉しいに決まってるよ。
一年前のあの日、君はサルソの街にいきなりやって来て、出逢ってからいつだってそう。
簡単に私の心の中に入り込んで、ずっと居座り続けて、こうやって惑わせるんだ。
そして、それを嬉しく思う私がいて……って!?
「……分かっているよ。うるさいなあ」
頭の中に語りかけるアイツに向け、私はぶっきらぼうに答えた。
こうやってハル君との二人っきりの時間を勝手に割り込んで邪魔をしてくるんだから、本当に嫌な奴だよ。
しかも、『間違えればノルドの民の運命は潰える』って、私への脅しのつもりかな。
「だけどさあ……あなたの言ってた、その、『シナリオ』だっけ? 全部ハル君に台無しにされてるんだけど」
あは♪ 言ってやった。
アイツが固執している『シナリオ』という名の運命。
でも、こんな簡単に覆されて、本来は死ぬはずだったサンドラさんもハル君に救われて、今回はあのライラって人形まで彼は救っちゃったんだ。
これで運命なんて呼べるのかな? 呼べないよね。
「え? 何? 聞こえないよ」
本当は聞こえているのに、私はわざと聞こえないふりをする。
こんなことくらいしか、アイツに仕返しできないから。
「……へえ、そんなことを言うんだ。いいよ、私も疲れちゃった。でも、私がいなくなったら、誰がこの物語をあなたの望む結末に導くのかな?」
知ってるよ。私がいなければ、この最低な物語を『シナリオ』どおりに進めることができないことくらい。
そのために、私達は作られたのだから。
「とにかく、物語を進めるためには私がいなきゃ駄目なんだから、いちいちやり方に口出ししないでよ。それじゃ」
一方的に話を打ち切り、私は馬車の天井を見上げる。
本当に、アイツはいつだってそうだ。
ただ脅して、無理やり言うことを聞かせて、絶望に追い込んで。
そもそもノルズの民が不幸な目に遭っているのだって、全部アイツの『シナリオ』のせいじゃないか。
なのに父上は、三百年前に国を奪われたのも全部自分のせいだって馬鹿みたいに落ち込んで、やったことといえば細々とノルドの民を生き永らえさせて、挙げ句の果てに私に全部押し付けて、勝手に死んで楽になって。
そう……父上は、全部私に放り投げたんだ。
役割も、責任も、罪も、罰も。
そのせいで私はずっとアイツに縛られて、やりたくないことをやらされて、黒幕らしく振る舞って。
この大好きな人と、敵同士にならなきゃいけなくなって。
「ねえ、ハル君……私、どうしたらいいかなあ……っ」
気持ちよさそうに寝息を立てているハル君に、私は問いかける。
聞こえていないのは、分かっているのに。
答えなんてないのは、分かっているのに。
私には、アイツに与えられた役割を全うするしか、方法がないのに。
「私……もう、嫌だよお……っ!」
ぽた、ぽた、と涙が零れ、ハル君の顔に落ちてしまった。
いけない、これじゃせっかく眠っている彼を起こしてしまうよ。
「あ、あは……ごめんね」
彼の顔に落ちてしまった涙を拭き取り、私は無理やり笑顔を作る。
私にハル君みたいな強さがあれば、こんな最低の運命と戦うことができるのかな……?
その時。
「……任せてよ」
「え……?」
「そんな運命、この僕がぶち壊してやる」
「あ……」
こちらを見つめ、ハル君が確かに告げた。
私の運命を、ぶち壊してくれる……って……っ!
「うん……うん……そう、だね……!」
分かってる。これが、ただの寝言だってことくらい。
でも、君ははっきりと言ってくれたんだ。
それだけで私は、まだ我慢できる。
たとえ、救われることがなくても。
たとえ、この運命を変えることができなくても。
「ハル君。私、待ってるね。君が、私の運命をぶち壊してくれる日を」
「むにゃ……」
私は彼の耳元に顔を近づけ、叶うことのない願いをそっとささやいた。
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