帰りの膝枕は最高でした。
「あー……やっと王都に帰れるよ……」
魔塔を出て王都へと帰路につく馬車の中、僕は何とも言えない気の抜けた声でそう呟く。
とりあえず、これで『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』のシナリオはクリアした。もう絶対に『エンハザ』の本編シナリオに関わったりはしないぞ。
「ハル様、お疲れ様でした。どうか私の膝で、ゆっくりお休みください」
「ありがとう、サンドラ」
ということで、僕はサンドラに膝枕をしてもらって全力で脱力しているよ。
確かに胸は小さいかもしれないけど、太ももはむちむちなのですごく気持ちいい。
「それにしても、あのガラクタはちゃんと仕事をしているでしょうか」
「あ、あははー……」
サンドラの言う『ガラクタ』というのは、もちろんライラのことだ。
彼女には帰りの道中、拘束して荷台に乗せているマクラーレンの監視をしてもらっている。
聞いたところによると、魔導人形のライラは食事も睡眠も不要らしく、週に一回程度マナを供給するだけで事足りるらしい。
とはいえ、一回のチャージには数値にして一〇〇のマナが必要になるらしく、それだけの量を確保するためにはかなりの人間からマナを吸い取らないといけないとのこと。
……僕のマナもといSPは、九九九あるんだけど。
しかも最近気づいたけど、キャスを『漆黒盾キャスパリーグ』に変身させるのにSPを消費してるはずなのに、減っている感じがしないんだよね……。
サンドラ達の話によると、多少なりともマナが減少すれば、それなりに疲労を感じるらしいんだけど……残念ながら、僕は一度も感じたことがないや。
とにかく、僕はライラのマスターになるべくしてなったという感じだ。
「話は変わりますが、ハロルド殿下はあのゴミの処遇をどうなさるおつもりですか?」
「決まっている。あの男のアレをもう一つ作らせた後、しかるべき罰を受けさせる」
アレというのは、魔塔の最上階で見つけたあの魔道具のことだ。
マクラーレンを問い詰めたところ、僕にとってとんでもない代物だということが分かったよ。
ただ、あの魔道具は他の人達にとっては逆に意味を為さないどころか、むしろ不利益を被るものなので、マクラーレンは失敗作として放っておいたのだとか。
『エンハザ』にはそんなアイテムが登場していないところからも、ひょっとしたら開発者のボツ案なのかもしれない。
あ、マクラーレンの罰については、もちろん死刑の一択ではあるけれど、それに至るまでのプロセスは通常とは異なるだろうね。
何せ、地獄ですら生温いと思うほどの苦痛を受けさせるつもりだから。
「後は、今回の事件についてオーウェンの手柄にしておけば、僕達がやることはこれ以上ないよ…………………………げ」
「ええー……『げ』って酷いなあ……」
いつの間にかサンドラ達はいなくなり、僕はユリの膝を借りていた。いや、たとえ感触がよくても、男の膝枕なんかお断りだから。
「それにしても、また君は今回も勝手に運命を捻じ曲げたね……」
「あー……」
ユリの言っていることは、おそらくライラを救ったことだろうな。
『エンハザ』では、彼女は絶対に死ぬ運命だったから。
「だけど、これでますますお前の言う神って奴が、当てにならない存在だって理解しただろ。これからも僕は、運命をぶち壊してみせるさ」
「あは♪ 頼もしいね」
そんなことを言いながらも、ユリは複雑な表情を浮かべている。
彼の本心がどこにあるのか気になるところではあるけど、聞いたところで教えてくれないだろうなあ。ひょっとしたら、神って奴が僕達の会話を聞いてるかもだし。
「だけど、いいのかな? 君のしたことは、オーウェン君の手助けだよ? それって君のためにはならないし、結局のところ、オーウェン君の手柄に……」
「分かってるよ。最初からそのつもりだったし」
「え……?」
オーウェンと一緒に『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』のシナリオを攻略することにした時点で、別にアイツと争うつもりなんてさらさらなかった。僕は『エンハザ』のハロルドとは違うんだ。
「で、でも、きっと今回の事件については、このままだとエイバル君によって『第三王子のハロルドが第四王子のオーウェンに挑み、あっけなく敗北した』って、大々的に喧伝されちゃうよ?」
「だろうね」
「『だろうね』って……」
ユリはどこか納得していないみたいだけど、何度も言っているように、僕は王位継承争いに参加するつもりはないんだ。
だから、どんな評価を受けようと関係ない。サンドラや『大切なもの』から見限られなければ、それでいい。
だから。
「じゃあ聞くけど、ユリはエイバル王がそんなデマを流したとして、僕のことを見限ったりするのか?」
「っ! まさか! そんなことをするわけが……って」
声を荒げた後、ユリはバツの悪そうな表情で顔を逸らした。
なんだ。君もそう思ってくれているんじゃないか。
「なら、僕はそれでいいよ」
「……ハル君は卑怯だよ」
「そうかな? ……って、あれ? 急に眠くなってきた……」
多分、色々なことがあったから疲れたのかな。
本当は男の膝の上で眠るなんて罰ゲームもいいとこだけど、今回ばかりは仕方ないから、このまま君の膝を借りることにする……よ……。
苦笑するユリの顔を最後に、僕は微睡みに落ちるようにゆっくりと目を閉じた。
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