表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

227/333

帰りの膝枕は最高でした。

「あー……やっと王都に帰れるよ……」


 魔塔を出て王都へと帰路につく馬車の中、僕は何とも言えない気の抜けた声でそう呟く。

 とりあえず、これで『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』のシナリオはクリアした。もう絶対に『エンハザ』の本編シナリオに関わったりはしないぞ。


「ハル様、お疲れ様でした。どうか私の(ひざ)で、ゆっくりお休みください」

「ありがとう、サンドラ」


 ということで、僕はサンドラに膝枕をしてもらって全力で脱力しているよ。

 確かに胸は小さいかもしれないけど、太ももはむちむちなのですごく気持ちいい。


「それにしても、あのガラクタ(・・・・)はちゃんと仕事をしているでしょうか」

「あ、あははー……」


 サンドラの言う『ガラクタ』というのは、もちろんライラのことだ。

 彼女には帰りの道中、拘束して荷台に乗せているマクラーレンの監視をしてもらっている。


 聞いたところによると、魔導人形のライラは食事も睡眠も不要らしく、週に一回程度マナを供給するだけで事足りるらしい。

 とはいえ、一回のチャージには数値にして一〇〇のマナが必要になるらしく、それだけの量を確保するためにはかなりの人間からマナを吸い取らないといけないとのこと。


 ……僕のマナもといSPは、九九九あるんだけど。

 しかも最近気づいたけど、キャスを『漆黒盾キャスパリーグ』に変身させるのにSPを消費してるはずなのに、減っている感じがしないんだよね……。


 サンドラ達の話によると、多少なりともマナが減少すれば、それなりに疲労を感じるらしいんだけど……残念ながら、僕は一度も感じたことがないや。


 とにかく、僕はライラのマスターになるべくしてなったという感じだ。


「話は変わりますが、ハロルド殿下はあのゴミの処遇をどうなさるおつもりですか?」

「決まっている。あの男のアレ(・・)をもう一つ作らせた後、しかるべき()を受けさせる」


 アレ(・・)というのは、魔塔の最上階で見つけたあの魔道具のことだ。

 マクラーレンを問い詰めたところ、僕にとって(・・・・・)とんでもない代物だということが分かったよ。


 ただ、あの魔道具は他の人達にとっては逆に意味を為さないどころか、むしろ不利益を(こうむ)るものなので、マクラーレンは失敗作として放っておいたのだとか。


 『エンハザ』にはそんなアイテムが登場していないところからも、ひょっとしたら開発者のボツ案なのかもしれない。


 あ、マクラーレンの()については、もちろん死刑の一択ではあるけれど、それに至るまでのプロセスは通常とは異なるだろうね。

 何せ、地獄ですら生温いと思うほどの苦痛を受けさせるつもりだから。


「後は、今回の事件についてオーウェンの手柄にしておけば、僕達がやることはこれ以上ないよ…………………………げ」

「ええー……『げ』って酷いなあ……」


 いつの間にかサンドラ達はいなくなり、僕はユリの膝を借りていた。いや、たとえ感触がよくても、男の膝枕なんかお断りだから。


「それにしても、また君は今回も勝手に運命を()じ曲げたね……」

「あー……」


 ユリの言っていることは、おそらくライラを救ったことだろうな。

 『エンハザ』では、彼女は絶対に死ぬ運命だったから。


「だけど、これでますますお前の言う()って奴が、当てにならない存在だって理解しただろ。これからも僕は、運命(・・)をぶち壊してみせるさ」

「あは♪ 頼もしいね」


 そんなことを言いながらも、ユリは複雑な表情を浮かべている。

 彼の本心がどこにあるのか気になるところではあるけど、聞いたところで教えてくれないだろうなあ。ひょっとしたら、()って奴が僕達の会話を聞いてるかもだし。


「だけど、いいのかな? 君のしたことは、オーウェン君の手助けだよ? それって君のためにはならないし、結局のところ、オーウェン君の手柄に……」

「分かってるよ。最初からそのつもりだったし」

「え……?」


 オーウェンと一緒に『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』のシナリオを攻略することにした時点で、別にアイツと争うつもりなんてさらさらなかった。僕は『エンハザ』のハロルドとは違うんだ。


「で、でも、きっと今回の事件については、このままだとエイバル君によって『第三王子のハロルドが第四王子のオーウェンに挑み、あっけなく敗北した』って、大々的に喧伝されちゃうよ?」

「だろうね」

「『だろうね』って……」


 ユリはどこか納得していないみたいだけど、何度も言っているように、僕は王位継承争いに参加するつもりはないんだ。

 だから、どんな評価を受けようと関係ない。サンドラや『大切なもの』から見限られなければ、それでいい。


 だから。


「じゃあ聞くけど、ユリはエイバル王がそんなデマを流したとして、僕のことを見限ったりするのか?」

「っ! まさか! そんなことをするわけが……って」


 声を荒げた後、ユリはバツの悪そうな表情で顔を逸らした。

 なんだ。君もそう思ってくれているんじゃないか。


「なら、僕はそれでいいよ」

「……ハル君は卑怯だよ」

「そうかな? ……って、あれ? 急に眠くなってきた……」


 多分、色々なことがあったから疲れたのかな。

 本当は男の膝の上で眠るなんて罰ゲームもいいとこだけど、今回ばかりは仕方ないから、このまま君の膝を借りることにする……よ……。


 苦笑するユリの顔を最後に、僕は微睡(まどろ)みに落ちるようにゆっくりと目を閉じた。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼8/19に書籍第1巻が発売します! よろしくお願いします!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ