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黒幕をいいように使いました。

「サンドラ!」


 床に転がるライラが戦闘不能になったことを確認すると、僕はサンドラへと駆け寄ると。


「ハル様!」

「あはは! さすがはサンドラだよ!」

「はい! あなた様からお願いされたとおりに!」


 彼女の小さな身体を抱きかかえ、くるくると回った。


 そう……ライラとの戦闘前、僕は彼女にお願いした。

 『戦闘には参加せず、しかるべきタイミングで合図をしたら、魔導人形ライラの手足を斬り落として戦闘不能にしてほしい』、と。


 どうしてそんなお願いをしたのかって? もちろん、ライラを救うためだよ。

 『エンハザ』では主人公に破壊されて命を落とす以外の結末しかなくても、やり方次第でその運命を変えることは既に証明済みだ。


 サンドラの運命を、変えてみせたように。


 それに、『エンハザ』の演出として最後の最後でライラに自我が戻るようにしたんだろうけど、そんなの受け入れられるか。

 僕がこの世界にハロルドとしている以上、ハッピーエンド以外は絶対に認めない。


 とはいえ、健在な状態のライラが相手だったら、サンドラも手加減(・・・)はできなかったかもしれない。

 なので僕達でライラの戦闘力を削り、彼女が自我を取り戻すのを、僕はずっと見計らっていたんだ。


「さて……ライラ、僕の声が聞こえるかい?」

「…………………………」


 言葉は発しないものの、ライラは僕を見て軽く頷いた。

 うん、ちゃんと自我を取り戻したままだ。


「悲しいけど、君はもう魔導人形としてでなければ生きていくことはできない。……いや、人間に戻ることはできない」

「「「「「っ!?」」」」」

「…………………………」


 僕の言葉に、サンドラとモニカ、クリスティアを除く全員が目を見開く。

 やはりみんなは、実は彼女が()人間であったと思ってもみなかったみたいだ。


「それに、たとえ魔導人形として生き続けることができたとしても、僕達も危険な君を野放しにはできないんだよ。だから」


 サンドラに目配せし、彼女は『バルムンク』の切っ先をライラの細い首筋に当てた。


「選んでほしい。魔導人形ライラとして、ここでその生涯を終えるか。あるいは……この僕の、道具(・・)として生きるか」


 ちょっと酷い言い方だけど、既に人間ではなくなった彼女は、『エンハザ』でもアイテム扱い。同じ人間として扱っても、それはまた違うと思ったんだ。

 なら、僕は彼女を道具(・・)……アイテムとして、大切に扱うつもりだよ。


 ただし、ライラがそんな生き方を望むのであれば。

 そうでないのなら、危険な彼女を野放しにはできないので、ここで朽ちてもらうしかない。


「どうだい?」

「…………………………」


 先程までの戦闘による騒音が嘘のように、魔塔の最上階のこのフロアが静寂に包まれる。


 そして。


「……よろしくお願いします。マスター」

「! ああ、よろしく!」


 彼女は……ライラは、僕の道具(・・)になる道を選択した。


 ◇


「ハル様、それでこの者をどうするつもりなのですか?」

「むぐ……っ」


 手足を拘束され、猿ぐつわをされたマクラーレンを引きずりながら、クリスティアが尋ねる。

 彼女には、ライラの攻撃を受けて瀕死の状態だったコイツを、回復魔法で治療するようにお願いした。


 もちろん、ライラを修復して命令プログラムを解除させるために。


「こう申し上げては何ですが、このようなゴミ以下の存在、この世界には不要です。神もきっとお認めくださるでしょう」

「聖女様のおっしゃるとおりです! 終わらせるのであれば、その役目はこの私に!」

「そうだぜ! こんな奴、人間の敵だ!」


 いつになく辛辣(しんらつ)な言葉を投げるクリスティアと、(いきどお)るカルラとロイド。

 バルティアン聖王国では『人は人たりえること』を教義としているから、非人道的な行為を含めてなおさらだよね。

 コイツのしたことは、人体改造なんだから。


「さて……マクラーレン。オマエがすべきことはたった一つ。ライラに施している『魔塔の敵を全て排除すること』という命令を今すぐ解除し、僕達との戦闘によって傷ついた身体を修復することだ」

「っ!? ふご……ふごご……っ!?」

「口を塞いでいるんだから、何を言っているか分からないよ。いいか? 僕は命令(・・)をしているんだ。オマエがライラにしたように」


 自分でも驚くほど低い声で、僕はマクラーレンに告げる。

 そのためだけに生かしておいたんだ。できないなら、その時は『死なせてほしい』と懇願するまで、死なない程度に地獄を見せてやる。


「早く答えろ。今すぐ死ぬか、ライラを修復するか」

「っ!? ふご! ふご!」


 僕の言葉が脅しでも何でもないことに気づいたんだろう。

 マクラーレンは命乞いでもするかのように、何度も必死に首を縦に振った。


「じゃあ早くしろ。言っておくが、拘束を解いたからといって転移して逃げられると思うなよ。オマエの身体には、常にサンドラが触れていることを忘れるな」

「うう……うう……っ」


 真紅の瞳を輝かせ、サンドラは『バルムンク』の切っ先をマクラーレンの心臓に狙いを定めて微笑む。

 もちろん、マクラーレンの衣服を握りしめているため、たとえ転移してもサンドラを一緒に連れて行ってしまうだけ。


 その瞬間、サンドラの一撃でこの男の息の根が止まる。


「さあ」

「うううううううう……っ」


 マクラーレンは嗚咽(おえつ)を漏らしながら、必死にライラの修復を行った。


 ただ、助かりたい一心で。

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