魔道人形が起動しました。
「ガ……ググ……ッ」
首を落としたのは、マクラーレンではなく『四極』の一人、サラマンダーのタトゥーを持つザカライア=タイナーだった。
「チッ! 部下を身代わりにして転移したか!」
「ハル様、どうしますか?」
「もちろんマクラーレンを追うさ!」
「はい!」
僕達はザカライアの遺体を捨て、そのまま魔塔の階段を駆け上がる。
その途中。
「食らいなさい! 【獄炎】!」
「っ!? どうして俺の風属性魔法で消せない!?」
シルフのタトゥーを持つ『四極』の一人である男と戦闘を繰り広げる、リゼ達の姿があった。
「リゼ! みんな!」
「あら、ハル……遅かったじゃない。こっちはもうすぐ終わるところよ」
悪女のような尊大な微笑みを浮かべ、リゼは男へと向き直ると。
「焼き尽くしなさい。【業火】」
「ぐああああああああッッッ!? 熱い!? 熱いいいいいいいいいいいッッッ!?」
リゼがパチン、と指を鳴らした瞬間、黒い炎が男の身体に蛇のようにまとわりつき、そのまま大きな火柱となって天井まで渦を巻いて昇る。
男は苦しみから絶叫するが、それも身体とともにものの数秒で掻き消えた。
残ったのは、天井と床の焼け焦げた跡のみ。
「うわあ……リゼ、ますます強くなってない?」
「オーッホッホッホ! 当然よ!」
ドリルヘアーを払い、口元に手を当てて高らかに笑うリゼ。
うんうん、いつもの彼女だね……って。
「こんなことをしている場合じゃない! 早くマクラーレンを見つけないと!」
「ど、どうしたの、ハル!?」
「それは走りながら話すよ!」
リゼ達と合流した僕達は、また魔塔内を駆けてマクラーレンの行方を追う。
先程のマクラーレンとのやり取りや陰謀の全容について説明すると、四人は驚きの声を上げた。
「それは王国にとって……いえ、世界にとってもまずいことになるのでは!?」
「うん。だから、ここで絶対に阻止しないと」
ここまでシナリオに関わってしまった以上、僕達が止めない限りそれこそバッドエンドになってしまう。
『エンハザ』であれば、一方通行のイベントを順にこなしていくだけでクリアだけど、そうはいかないんだよね……ちょっと大変。
といっても。
「本当は最上階にたどり着く前にマクラーレンを捕まえたいところだけど……多分無理だよなあ……」
そう……マクラーレンは、間違いなく最上階にいる。
『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』の、シナリオのとおりに。
ただ。
「ハル様! 最上階です!」
「うん!」
僕達は階段の行き止まり……魔塔の最上階に到達し、鉄の扉をけ破る。
そこには。
「あ……あ、あ……」
「…………………………」
全身をぐちゃぐちゃにされた血だるまのマクラーレンを無造作につかんで佇む、オニキスのような黒い瞳と漆黒の眼球に赤い瞳のオッドアイをした一人の少女。
あれこそが、『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』のシナリオのレイドボスであり、『エンゲージ・ハザード』屈指の能力を誇るキャラ……いや、アイテム。
――魔導人形ライラ。
「ハア……やっぱりこうなったか」
「ハロルド殿下、いかがなさいますか?」
「決まっているよ。あの人形は起動してしまうと、壊さない限り止まらない」
一度起動させてしまったら、攻撃対象を破壊し尽すまで止まることができない、ブレーキの壊れた悲しき人形。
しかも、その身体は誰よりも頑丈ときてるんだから、厄介極まりないよね。
まあ、だけど。
「みんな! アイツの攻撃は全部僕が引き受ける! その間に、アイツを……ライラを破壊するんだッッッ!」
僕達は、君を綺麗に壊すよ。
たとえそれが、君の望みじゃなくても。
「それと……サンドラ」
「はい」
彼女の傍に寄り、そっと耳打ちする。
「かしこまりました。本当に、あなた様は……」
「ごめんね。後で、この埋め合わせはするから」
「約束ですよ?」
口を尖らせるサンドラに、僕は苦笑して謝罪する。
彼女にはいつもつらい思いをさせてしまうから、王都に帰ったら何でも言うことを聞いてあげよう。
……お手柔らかにお願いしたいけど。
「……敵目標を確認。これより排除します」
ライラはゆっくりと首をこちらへと向け、機械のような声でそう告げた。
その瞬間。
「っ!? ……あはは。ちゃんと僕を選んでくれて、助かるよ」
地面を蹴り、一気に肉薄したライラの攻撃を、僕は『漆黒盾キャスパリーグ』で受け止める。
それにしても……一撃の重みがリリアナと遜色ないんだけど。物理防御力特化じゃなかったのかな? 話が違う。
とはいえ、防御力特化なのは君だけじゃない。
今では僕こそが、『エンハザ』の防御力トップキャラだよ。残念ながら、この程度の攻撃力では僕を倒すことはできない。
「……敵戦力を分析。無効化まで、三十二分五十七秒を要します」
「言ってくれるね!」
いいよ、君が導き出した僕を倒すまでの時間……その間、付き合ってやろうじゃないか。
ただし。
「遅い」
「…………………………ッ!?」
それまでに、僕の『大切なもの』によって君が倒されなければね。
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