魔塔主が待ち伏せしていました。
「おや……オーウェン殿下、どちらへ?」
「「「「「っ!?」」」」」
階段の先で待ち構えていたのは、口の端を吊り上げる魔塔主マクラーレンだった。
ふうん……僕達の動きは、最初から読まれていたってことなのかな? そうじゃなきゃ、この男がわざわざこんな場所で待ち構えているはずがないからね。
「ウルセエッ! 俺達を攫ってあんなところに閉じ込めやがってよお! ぜってー許さねえ!」
「そうでしたか、これは部下の者が失礼しました。私は丁重にお迎えするようにと言っておいたのですが……」
「テメエッッッ!」
やれやれといった表情で肩を竦めてかぶりを振るマクラーレン。
こんな猿芝居をする意味が理解できないけど、オーウェンを煽るには充分だったようで。
「っ!? し、師匠!?」
「大人しくハル様の指示に従いなさい」
拳を振り上げてマクラーレンにつかみかかろうとしたオーウェンを、サンドラが『バルムンク』で制止した。
止め方がかなり強引だとは思うけど、それもサンドラらしくて僕は好きだよ。
さて……奥さんが期待に満ちた瞳で僕を見てくれていることだし、ちょっと頑張ってみようか。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕はハロルド=ウェル=デハウバルズ。この国の第三王子です」
「おや……まさか、視察団の中にハロルド殿下までいらっしゃるとは、これは予想外でした」
恭しく一礼する僕を見て、マクラーレンは両手を広げて目を細める。
白々しいなあ。最初から僕のこと、分かっていたくせに。
「今の話だとマクラーレン殿は、オーウェンを別の場所に招こうとしたとのことですが……ならどうして、僕達はあなたの部下に襲われたのでしょうか?」
「襲われた……ですか?」
「ええ。右手の甲にノームのタトゥーを持つ男と、ウンディーネのタトゥーの女がね」
「これは失礼いたしました。どうやらその者達は、私の考えを誤って先読みしてしまったようです」
「マクラーレン殿の考え? よければ今、その『考え』とやらを教えてくださいよ」
そんなものは、特にないだろうけどね。
仮にあったとしても、王国を実験台にして非人道的な真似をするつもりだということは、最初から分かっているんだよ。
「申し訳ありませんが、ハロルド殿下にお話ししても理解できないかと」
「そうでしょうか? 内緒で王国の各所に媒介を設置し、ブリント島全体を魔法陣に見立て、国民のマナを奪ってこの魔塔に集める。その計画を邪魔しに来た僕達を始末……いや、違いますね。自分達に都合のいいように、洗脳しようとしたんじゃないですか?」
「っ!?」
あはは、本当のことを言ってやったら、さっきまでの余裕が嘘のように目を丸くしているよ。
まさか計画の全容が僕に知られているとは、思ってもみないだろうからね。
「……どうしてそれを」
「あれ? 当てずっぽうで言ったのに、まさか本当だったなんて驚きですよ。……これは、すぐに王国に報告しないと」
散々おどけてみせた後、僕は低い声で告げる。
いくらシナリオ上とはいえ、僕の『大切なもの』に危害を加えようとしたんだ。ただで済ませるわけがないだろう。
「ふふ……ハル様。わざわざ王国に報告などしなくても、私達の手で全てを終わらせて差し上げればよいのでは?」
「サンドラ、それはいい考えだね」
奥さんからの素晴らしい提案に、僕は笑顔で頷いた。
ここに来た以上、最初からそのつもりなので予定どおりではあるけれど。
「ということなので、大人しく拘束されるか、それとも僕達の手で今すぐこの世を去るか……好きなほうを選べ」
「ク……ククク……ッ」
僕の言葉に、マクラーレンは必死に笑いを堪える。
ああ、そうだった。この男は、『エンハザ』でもこんな姿を見せていたよ。
といっても別に余裕ぶっているわけではなく、窮地に立たされてテンパっているだけなんだけど。
まあ、所詮はしがないイベントボスの小物だってことだ。
「早く答えろよ。今すぐ死ぬか、後で死ぬか」
「ククク……き、決まっている。今すぐ貴様等が死ねッッッ!」
そう叫んだ瞬間、マクラーレンの姿が一瞬で消える。
でも。
「っ!? な、なんだと!?」
「甘いよ」
【転移魔法】によって背後に回ったマクラーレンの攻撃を、僕は盾であっさりと防いだ。
『エンハザ』における戦闘で、マクラーレンが【転移魔法】を使った場合の行動パターンは三つある。
一つは、仲間を身代わりにして自分の身を守るというもの。
次に、仲間同士を入れ替えるというもの。
最後は……主人公やヒロインの背後に現れ、攻撃を仕掛けるというもの。
この攻撃というのが面倒で、命中率が百パーセントな上に、三十パーセントの確率でクリティカル判定がつくんだよ。
僕の中でマクラーレンは、嫌いな敵ワースト十には入っていたね。
でも僕は、ここではプレイヤーではなくて一人の人物として生きている。
『エンハザ』では正面攻撃しか防ぐことができなくても、パターンが分かっているなら背後からの攻撃を防ぐなんて簡単だよ。
それに、このためにアイツを煽って僕にヘイトを集めたんだから。
「みんな! 今だ!」
「お任せください。敵の背後を取るのは、何もこの男だけではありませんから」
「な……っ!?」
いつの間にかマクラーレンの後ろにいたモニカが、ダガーナイフで首を刈り取る。
だが。
「ガ……ググ……ッ」
首を落としたのは、マクラーレンではなく『四極』の一人、サラマンダーのタトゥーを持つザカライア=タイナーだった。
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