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主人公達が連れ去られてしまいました。

「オーウェン! 無事か……っ!?」


 急ぎオーウェンの部屋へとやって来た僕達だったけど、視界に飛び込んできたのは荒らされた部屋の中のみ。

 残念ながら、オーウェン達の姿はなかった。


「クソ……ッ!」


 その状況に、僕は(そば)の壁に拳を打ちつける。

 オーウェンだってまがりなりにも『エンハザ』の主人公だし、ヒロインであるマリオンと『ガルハザ』攻略キャラのロイドがいるから、イベントボスの一人くらい楽勝だと思い見誤ってしまった。


「ハロルド殿下。部屋の中を確認しましたが、本来連れ去るならば何かしらの痕跡が残るはず。ですが、それらが一切見当たらず、かといって抵抗もしないということも考えられません」

「それって……」

「何か毒のようなもので無効化されたおそれがあります」

「チッ!」


 モニカの推察に、僕は盛大に舌打ちする。

 『四極』のうちシルフのタトゥーを持つ奴には、【睡眠の風】というスキルがあるのを忘れていた。おそらく三人は、それによって眠らされて無効化されたんだ。


「ハル様、まずは三人を見つけることが先決。急ぎ塔の中を調べましょう」

「うん!」


 僕達は部屋を飛び出し、二手に分かれて三人の捜索を開始した。

 『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』のシナリオは、魔塔の中で全てのイベントが完結する。なら、少なくとも三人はこの塔の中にいるのは間違いない。


 そして、最も可能性が高いのは。


「ハル様!?」


 魔塔の地下へと続く階段の途中で、僕は壁に向かって思いきり体当たりをした。

 そう……この壁の向こうに、本来であれば晩餐会の料理を口に入れることにより、主人公達が監禁されることになる地下牢が存在する。


 連中も、あの三人をそこに閉じ込めているに違いない。


 だけど、悲しいかな非力のハロルドでは、壁を破壊することは無理だったよ。

 こういう時、物理関連の能力値が最弱の『エンハザ』きっての噛ませ犬であることが悔やまれる。


「ハル様! 私にお任せください!」


 サンドラが『バルムンク』を構え、壁に一撃を加えた。

 するとどうだい。僕の体当たりじゃびくともしなかった壁が、それこそ豆腐でも斬るかのように簡単に破壊できたよ。


「さあ、行こう」


 壁の穴の向こうに現れた別の階段(・・・・)へと移り、僕達は一気に駆け降りる。

 この先に、きっと三人も……って。


「ハル様、大丈夫です。ロイドさんもオーウェンも、きっと無事ですから」

「うん……」


 どうやら焦りが顔に出ていたみたいで、隣を駆けるサンドラが、そっと励ましてくれた。

 本当に、僕の奥さん最高すぎるんじゃないかな。


 そして。


「これは……」


 待ち受けていたのは、手足を縛られ、猿ぐつわをされて地下牢に閉じ込められた三人と、番人のように立つ魔獣。


 王宮にある『称号』イベントで闘ったボス、ギガントスプリガンだった。

 しかも、それが三体も。


「……経験済みとはいえ、三体は面倒だね」


 なんて呟いてはみたものの、この魔獣の弱点は把握しているし、こちらもサンドラとモニカがいる。

 倒すのはそれほど手間じゃない。


 などと思っていたんだけど。


「どうして!? ボクの【スナッチ】が効かない!」


 早速キャスが巨大な漆黒の爪で弱点である巨大な一つ目を攻撃するも、ギガントスプリガンは平然としている。

 ひょっとして……魔塔の連中が、この魔獣を強化したか。


 でも。


「ふふ……他愛のない」

「終わりです」


 口の端を吊り上げるサンドラの『バルムンク』の一撃と、背後から首を刈り取るモニカの手により、ギガントスプリガンの二体が悲鳴を上げる暇すら与えられずに床に転がった。

 僕達があれだけ苦労したイベントボスも、二人にかかれば雑魚扱いだよ。


 残る一体のギガントスプリガンもあっさり倒し、僕達……というかサンドラが地下牢の扉を破壊した。


「みんな! 無事か!」

「す、すまねえ兄貴、師匠……下手打っちまった」

「いいから。それより……何があった?」

「おう……」


 オーウェン達は、魔塔の連中の襲撃について詳細に説明してくれた。

 僕から警戒するように指示を受けていたことで、三人は臨戦態勢のまま待ち構えていたらしい。


 だが、突然部屋の中に煙のようなものが充満し、そのまま意識を失ってしまったとのこと。

 ロイドは解毒魔法と状態異常防御スキルによってかろうじて持ちこたえたものの、こと戦闘に関しては三人の中でも最弱。あっけなく制圧されてしまった。


「……右手に風の精霊の入れ墨がある奴と、最初に出迎えた爺さんが俺達をここへ閉じこめたんだ」

「そうか……」


 よりによって、三人のところに『四極』が二人も来たのか。

 三対二と数の上では有利だけど、この三人では荷が重いか。


「とにかく、みんなが無事でよかった。早くリゼ達と合流して、すぐにここから脱出しよう」

「っ!? やられっぱなしのまま、逃げ出すってのかよ!」

「違う、これは戦略的撤退だ。わざわざ連中の土俵に乗って戦うほうが馬鹿だろ」

「同じじゃねえか! 兄貴は……ハロルドはビビってんのかよ! ……ヒッ!?」

「黙りなさい」


 不用意な言葉を放って突っかかるオーウェンの首筋に、真紅の瞳を輝かせたサンドラが『バルムンク』の切っ先を当てる。

 僕の悪口を言えば本気で命を落としかねないから、オーウェンはとりあえず黙っていような。


「ここから出たら説明するから、早く!」


 まだ納得のいかないオーウェンを無理やり連れ、僕達は元来た階段を駆け上がった。


 すると。


「おや……オーウェン殿下、どちらへ?」

「「「「「っ!?」」」」」


 階段の先で待ち構えていたのは、口の端を吊り上げる魔塔主マクラーレンだった。

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