イベントボスの魔塔主が出迎えてくれました。
「魔塔の最上階にある人形には、決して近づいてはいけない」
サンドラ、モニカ、キャスを見回し、僕はそう告げた。
そう……『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』のシナリオにおいて登場するレイドボス、それこそが魔塔主“リー=マクラーレン”が生み出した魔導人形“ライラ”。
魔導人形ライラの身体はミスリルとオリハルコンという、ファンタジーやRPGを少しでもかじったことがある者なら誰しもが聞いたことがある希少金属で構成され、『エンゲージ・ハザード』に登場するボスキャラの中で屈指の物理防御力を誇っている。
何より危険なのは、生みの親であるマクラーレンの命令にのみ従い、全ての機能が停止されるまで執拗に攻撃を仕掛けてくる執念……いや、怨念と言うべきだろうか。
しかも、その命令の内容がマクラーレンに適用するものであれば、そのマクラーレン自身も危害を加えられるという、解釈とか忖度とかそういうの一切ないから余計にたちが悪い。
そんなバケモノじみた防御力と行動パターンに、数少ない『エンハザ』ユーザー達には、畏敬の念を込めて『DX超合金ロボヤンデレライラ』と呼ばれていたよ。
「ハル様、到着したようです」
馬車が停まり、車窓から外を見ると、丘の上に海岸にポツン、と建つ小さな祠。
対岸には、高くそびえ立つ塔があった。
あれこそが、魔塔と呼ばれるものだ。
「さあ、行こう」
「「はい」」
「うん!」
キャスを肩に乗せ、僕達は馬車を降りて祠の中へと入る。
本来、魔塔は国家機密なのでカペティエン王国の王女であるリゼや、聖王国の聖女クリスティア、聖騎士のカルラが同行することは憚れるんだけど、そんなことは言っていられない。
魔塔が僕達を亡き者にしようとするのは、間違いないからね。
だって連中は、自分達が行っている非道な人体実験を止めに来たのだと、勘違いしているから。
いや、まあ……実際に止めるんだけど。
「皆様、お待ちしておりました。案内役を務めます、“ザカライア=タイナー”と申します……」
中で出迎えたのは、紫のフードを被ったしわがれた老人。
手の甲にサラマンダーのタトゥーがあるところを見ると、コイツは『四極』の一人で間違いないだろう。
「お、おう! 俺は第四王子のオーウェンだ、よろしく頼むぜ!」
ずい、と前に出て、自己紹介をするオーウェン。
礼儀とかあったものじゃないけど、魔塔の連中にそんなものは不要なので別にいいか。
「さあさ、魔塔主様もお待ちかねです。どうぞこちらへ……」
タイナーの指示に従い、僕達は設置された魔法陣の上に乗ると。
「「「「「っ!?」」」」」
僕達は、一瞬にして別の場所へと転移した。
そこには。
「ようこそ魔塔へ」
恭しく一礼する、モノクル(片眼鏡)をかけた金髪ロングの青年。
彼こそがこの魔塔の長、リー=マクラーレンだ。
「お、おう! 俺は第四王子のオーウェンだ、よろしく頼むぜ!」
さっきと一言一句違わず自己紹介をしたオーウェン。それでいいのかって言いたくなるけど、多分コイツなりに精一杯の努力をしたんだろうな。
その証拠に、右手を見ながらだし。きっと手のひらに、色々とカンペが書いてあるに違いない。
「遠路はるばるようこそお越しくださいました。夜にはオーウェン殿下を歓迎する晩餐会をご用意しましたので、それまではお部屋でお寛ぎください」
そう言うと、マクラーレンは指をパチン、と鳴らした。
その瞬間。
「「「「「っ!?」」」」」
「この者達が、皆様をご案内いたします」
現れたのは、先程のタイナーと同じように紫のフードを被った三人の男女。
右手には、それぞれウンディーネ、ノーム、シルフのタトゥーが施されている。つまり、コイツ等も『四極』ということだ。
それにしても。
「? おや、私の顔に何か?」
「……いえ、なんでもありません」
僕の視線に気づき、尋ねるマクラーレンから目を逸らした。
一応、今回の魔塔への視察に当たり、僕の正体については伏せておくようにオーウェンに指示しているので分かっていないはずなのに、この男はモノクルの奥にある瞳で僕の顔を覗いてくる。
……まあ、今回の視察団に関して、メンバーはとっくに調べて把握しているか。
それよりも厄介なのは、祠にあった魔法陣を含め、マクラーレンの固有スキルである【転移魔法】だろうね。
このスキルは自分と味方を転移させ、相手の攻撃を躱したりHPが多い味方と入れ替えるというもの。
しかも、マクラーレンのHPが残り十パーセントになると、戦闘を離脱してしまうのだ。
それも、百パーセントの確率で。
なのでこの男を逃がさないためには、残り十パーセントになる直前でパーティー全員が最高火力のスキルを一気にぶつけ、HPを削り取るしかない。
もし逃がしてしまえば……この男は、魔塔の最上階に転移してしまう。
そして、あの魔導人形ライラを起動させるのだ。
「では、ごゆっくり」
マクラーレンは一礼して指を鳴らし、一瞬でこの場から消えた。
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