新たなイベントの始まりの鐘が鳴りました。
「カーディス兄上、少しは遠慮というものを覚えたらどうですか?」
「それはこちらの台詞だ」
こんにちは、ハロルドです。
僕主催のパーティーから一週間が経ち、昼休みの教室内では一学年上のカーディスとラファエルが今日も喧嘩をしているよ。
理由? リリアナをランチに誘いたいんだって。二人っきりで。
なお、そんなことをしている間に、リリアナはさっさと食堂に行ってしまったよ。王子二人よりもお肉優先らしい。
僕? 僕も二人を放っておいて、早く食堂に行きたい……んだけど。
「師匠! この一週間で俺……強くなりました!」
「…………………………」
無言のサンドラの前で土下座して精一杯の感謝を告げるオーウェン。
そのせいで、僕達はまだ食堂に行けないんだよ。邪魔だよ。どうしてくれるんだよ。
「ハア……一週間程度ではたかが知れています。恥をかいてリリアナさんに二度と相手にしてもらえなくなる前に、せめて三か月は強くなる努力をしてください」
「う……」
サンドラに呆れた表情で指摘され、オーウェンが声を詰まらせる。
確かに一週間で強くなれれば苦労はしない。
……まあ、オーウェンもまがりなりにも主人公だから、強くなれるはずだけど。
実際、モニカにオーウェンの実力について調べてもらったけど、思ったとおり様々な属性の武器を使いこなしている様子。つまり、ウィルフレッドと同じく無属性ってことだ。
こんなキャラ、主人公であるウィルフレッドとリリアナの二人くらいだと思ってたけど、三人目が登場しちゃったよ。レア感が薄れるからやめてほしい。
「サンドラ、行こう」
「はい」
「お、俺もお供します!」
「いや、なんでだよ」
とまあ、どういうわけかサンドラは『エンハザ』の主人公に懐かれ、僕はいつも渋い顔をしているよ。これならウィルフレッドがいた時のほうが、ちゃんと敵味方がはっきりしていてよかったんじゃないだろうか。
そして。
「もう! 二人とも、遅いですわよ!」
このように、待ちくたびれたリゼに叱られるまでがワンセットだ。
クリスティアも笑顔を浮かべてはいるものの、その瞳は一切笑っていないから、きっとリゼと同じ気持ちなんだろうなあ。
「ごめん……今日も色々あってね……」
「ふうん。ハルさん達も大変ですねー」
「いや、なんでリリアナは呑気にお肉を頬張っているんだよ。今も君をランチに誘おうと教室で喧嘩をしている第一王子と第二王子に謝れ」
もう駄目だ。ツッコミを入れずにはいられない。
リリアナを前にして、緊張で直立不動になるオーウェンもセットで。
「ああもう疲れた……」
「本当です。ハロルド殿下を揶揄うのは、このモニカの役目だというのに……」
よよよ、とハンカチで目元を押さえる仕草をするモニカを、僕はただジト目で見ているよ。
残念王子や主人公ズがいなくなった途端に、いつも僕達を揶揄ってくるくせに。
今までよりも騒がしく、より面倒なことになった周囲の状況を思い、僕は頭を抱えた。
◇
「そうなんす。王国の東の島にあるんすけどね」
遅れてきたくせに誰よりも早く昼食を終えたオーウェンが、僕達に説明する。
何でもエイバル王からの命令で、王国の東にある島……“マニン島”にある魔塔に視察団の使者として行くことになったらしい。
うんうん、これって『エンハザ』の本編シナリオの一つ、『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』だよね。
魔塔主が実はこのブリント島を巨大実験場に仕立て上げ、違法である人身売買によって多くの優秀な子供達を集め、実験の失敗によって世界規模の災害を起こしそうになるっていうアレ。
あ、もちろん主人公とヒロイン達の活躍によって災害は未然に防ぐことになるので、オーウェンがちゃんとシナリオどおりに活躍してくれれば、何の心配もいらない……はず。
噛ませ犬役である僕にとってはよろしくないことだけど、そもそもサンドラのバッドエンドを回避したので、あとは全部主人公に任せておけばいいんじゃないかな。
「一応、俺にもマリオンっていう侍女が正式に配属されることになったんで、ソイツと魔塔主って奴に会いに行くことに……」
「マリオン!?」
久々に聞いたその名前に、僕は思わず勢いよく立ち上がった。
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