ファーストダンスのお相手をしました。
「モグモグ……ごくん。私、ハルさんとだったら踊っていいですよ」
「「っ!?」」
どうして君は、ここで僕をさらに窮地に立たせるかなあ……。
ほら、君のその不用意な発言のせいで、僕はカーディスとラファエルなどの攻略キャラだけでなく、妻のサンドラまで敵に回してしまいそうな勢いなんですけど。
「だってよく考えてみてください。たとえ王子殿下からダンスを申し込まれても、これまで一度もダンスをしたことがない私がお相手するなんで無理です」
「いや、僕も一応は第三王子……」
「そうなると、ハルさんかロイドの二択ですけど、カーディス殿下とラファエル殿下のお誘いをお断りする以上、同格のハルさんだけしかお相手がいないわけです。どうですか、完璧な理屈でしょう?」
その理屈、ツッコミどころしかない。
僕の立場とか完全に無視するの、本気でやめてくれますかね。
「……リリアナさん。あなた、自分が何を言っているのか、理解していますか?」
「ヒイイイイ!?」
後ろから仄暗い笑みを浮かべる紅い瞳のサンドラに肩を叩かれ、リリアナが講堂内に響きわたるほどの声で悲鳴を上げた。
というか、こういうことになることくらい、最初から分かっていただろうに。
「そそそ、その、申し訳ありませんでしたああああ! 自分可愛さに、ついハルさんに助けを求めてしまった次第です! 決してお二人の邪魔をしようとか、そんなつもりは一切ございませんです! はい!」
ズザーッと、それはもう綺麗なフォームで床の上で土下座をするリリアナ。
このパーティーで、僕は二回も土下座を見ることになったよ。
「……ふう、仕方ありません。いいですかリリアナさん、今回だけですからね?」
「っ!?」
「ただし、次はありません」
「はい! ありがとうございます! ありがとうございます!」
どういう風の吹き回しだろう。
あのサンドラが、リリアナとのファーストダンスを許すなんて……。
「これが正妻の余裕、というものではないでしょうか」
「わっ!?」
いきなり背後に現れ、モニカが耳打ちした。
「で、でも、【竜の寵愛】も発動している中で、大丈夫なの!?」
「確かに発動中ではございますが、最近はこの状態でいらっしゃることが多いので、お嬢様も多少なりとも理性をコントロールできるようになってきたのだと思われます」
「そ、そう……」
今後のことを考えれば、【竜の寵愛】を制御できるということは喜ばしい限りではあるものの、そのせいで暴走することになったりしたら、目も当てられないんだけど。
「そ、そういうことですのでハルさん! サンドラさんの許可もいただきました! 私と踊ってください!」
「え、ええー……」
チラリ、とサンドラを見ると、彼女はわなわなと肩を震わせつつも頷いた。本当にそれでもいいらしい。
既にこの場には僕の意思というものは存在せず、ただ流されるまま、リリアナとダンスをすることになってしまったよ。
ということで。
「わっ!? ご、ごめんなさい!」
「い、いや、いいよ……」
リリアナを講堂の中央に誘い、僕達はファーストダンスを踊っているんだけど……もう五回も彼女に踏まれ、そろそろ足の感覚がおかしくなってきた。
しかも彼女、少しでも上手く踊るためなのか、おそらくだけど自分自身にバフをかけているよね? おかげで一撃一撃の威力が半端ない。これは確かに、僕がパートナーを務めて正解だったかも。
「ほ、本当は、他の方々のダンスを受けてもよかったんですけど、踊ったことがないのでこんなことをしても許してくれるハルさんしかいないんです……」
「あ、あははー……」
顔を真っ赤にしてうつむくリリアナに、僕は苦笑するしかない。
つまり、僕なら恥をかくどころか、ダメージを負わせても問題ないと判断したってことだよね? 悔しいけど正解だよ。
「でも」
「リリアナ?」
「生まれて初めてのダンスの相手がハルさんで、嬉しいです……」
……そんな表情でその台詞、反則じゃないかな。
僕は『ガルハザ』には一切登場しない、モブにすらなれなかった悲しき王子なんだよ? その顔は僕以外の攻略キャラに見せるべきだと思う。
何より、僕にはもう妻がいるわけだし。
その後も、リリアナに足を踏まれては必死で痛みに耐え、ようやく曲が終了した。
頑張ったぞ、僕の足。
「ハルさん、ありがとうございました!」
「い、いやいや、こちらこそありがとう」
カーテシーをするリリアナに、僕もお辞儀をして返す。
終わってみれば、彼女も楽しんでくれたようで何よりだよ。
僕はリリアナの手を取り、みんなのところに戻ってくると。
「「「「「…………………………」」」」」
青ざめた表情のカーディスとラファエル。いや、よく見れば攻略キャラの子息達が全員同じような顔をしているよ。
多分、僕の足が彼女のヒールでメッタ刺しになったところを目の当たりにしたからだろうね。図らずも、リリアナがこれ以上ダンスを誘われずに済みそうだ……って。
「わっ!? サ、サンドラ!?」
「……次こそは私の番です」
紅い瞳のサンドラに思いきり抱きしめられ、僕は強引に中央へと連れて行かれてしまった。
もちろん、その後は痛む足を必死に我慢して、サンドラとのダンスを楽しみましたとも。
ちなみに、彼女の瞳の色は紅いままでした。
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