修羅場ルートに突入しました。
「ハル様。あれ……カーディスですよね?」
「あ、君も気づいた? そうみたいなんだよね……」
怪訝な表情で柱の陰にいるカーディスを見つめて尋ねるサンドラに、僕は溜息混じりに答えた。
いや、確かにカーディスだって『ガルハザ』の攻略キャラの一人ではあるので、リリアナのことを好きになる可能性は否定しないけれど。否定しないけれども。
「リリアナはこれだけの人数の攻略キャラの好感度を、一体いつの間に上げていたんだ……?」
リリアナを見つめ、僕はサンドラに聞こえない声の大きさで思わず呟く。
『エンゲージ・ハザード~girls side~』は乙女ゲームであるため、同系列の『エンハザ』よりもさらに恋愛部分に特化しており、戦闘パートよりも攻略キャラ達とのチャット部分が最も重要になってくる。
このため、攻略キャラ達の攻略には、ひたすらチャットで好感度を上げていくしかない。
そのことを、チュートリアルを全てプレイした僕は知っていた。
だとしたら。
「僕達の与り知らないところで、リリアナは攻略キャラ達との交流を深めていたということか」
いや、僕はリリアナがお肉にしか興味を示さないから、これはひょっとしたら別のゲームなんじゃないかと疑っていたほどだったんだ。
ようやく『ガルハザ』らしい展開になって、ちょっと感激しているよ。
とはいえ、それが事実なのかどうか確認しないと、普段が普段なだけに到底信用できない。
僕はそれとなくリリアナに近づくと。
「ね、ねえリリアナ。あの男子生徒達って、君の知り合い?」
「はむはむ……へ? あの人達、ですか……?」
周囲を見回した後、リリアナはコテン、と小首を傾げる。
思ってた反応と違うぞ。
「まさかあ。私はハルさん達しかお友達がいませんから、王子のラファエル殿下や普段からつきまとってくるオーウェン殿下はともかく、それ以外の人は全員知りませんよ」
「そ、そう……」
あれ? じゃあ、どうして他の攻略キャラ達は、リリアナにあんなにも熱視線を送っているんだろう。あと、僕への射殺すような視線も。
「ハロルド殿下。あの男子生徒達を気にされていたようなので、それとなく話を伺ってみました。彼等に共通していることとして、リリアナ様に色々と救っていただいたことがあるようです」
「え?」
この驚きは、決してモニカの話の内容に対してのものじゃない。
いつの間に攻略キャラ達に聞き込みをしていたのかという、そっちに驚いてしまったんだよ。うちの専属侍女、優秀すぎるだろ。
だけど、そうかー……リリアナ、無意識に『ガルハザ』のイベントを粛々とこなしていたんだな。
その中に、ラファエルやオーウェンに対するものもあったっていうことか。
あれ? そうすると、リリアナはカーディスとも接点があったのか?
それはそれで、ちょっと意外。あの二人は絶対に性格が合わないと思っていたから。
すると。
「あー……結局全敗かよ……」
ガックリと肩を落とし、泣きそうな表情で現れたのはロイドだった。
ま、まあ、落ち込むな……って。
「悪いリリアナ、俺にも肉分けてくれ」
「聖職者がお肉なんて食べていいんですか?」
「いいんだよ。肉でも食わなきゃやってられるか」
何事もないようにリリアナに絡み、肉を受け取るロイド。
それを見た他の攻略キャラ達は、僕に向けるもの以上の憎悪をロイドにぶつけていた。
「お、ハルじゃねーか! もう聞いてくれよおおおおおお!」
「うわ!?」
僕の姿を見つけた途端、ロイドが泣きながらしがみついてくる。鬱陶しいなあ。
「ハイハイ。声をかけた女子全員に相手にされなかったんだろ? 見たら分かるよ」
「ち、違うんだよ! きっとあの中には、俺に気がある女の子だっていたはずなんだって!」
自分を肯定化するべく、必死に言い訳を始めるロイド。ますます憐れに思えてくる。
「まあまあ、ロイドだから仕方ないんじゃないですか? むしろ、どうして女子からモテるって勘違いしてるのか、以前から疑問だったんですよねー」
「よーし言ったな。戦争だ」
「受けて立ちますよ。その代わり、今のうちに胃の中のもの出しておいてくださいね」
ヤバイ。リリアナの奴、本気の腹パンをロイドにお見舞いするつもりだ。
しかも周囲の攻略キャラ達も、今にも飛びかかりそうなほど険悪な表情になっているし。色々とヤバイ。
「ふ、二人とも、それくらいに……」
「オマエ! リリアナ嬢に対してさっきから失礼だぞ!」
ええー……僕が二人を止めようとした矢先に、オーウェンと数人の攻略キャラがロイドに絡んできたんだけど。メッチャ迷惑。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




