第二王子にメッチャお願いされました。
「な、なら! ハロルドの友人の、そ、その……リリアナ嬢との交流の場を設けてはくれないか!」
はい。ラファエルは、まさかのリリアナ狙いでした。
そう思ったけど……いや、よくよく考えれば、リリアナは『ガルハザ』の主人公であり、ラファエルは攻略キャラの一人だったよ。
なら、ラファエルがリリアナのことを好きになること自体はおかしくない……のか。
だけどリリアナは、いつの間にラファエルの好感度を上げていたんだよ。
「そ、そのー……どうしてリリアナなのか、教えてもらってもいいですか……?」
「あ、ああ……」
ラファエルはどこかモジモジしながら、リリアナへの想いについて熱く語ってくれた。
◇
彼女のことを意識するようになったのは、ちょうど一年前。
きっかけは、リリアナ嬢が落としたハンカチを拾ったことが始まりだった。
「君、ハンカチを落としたよ」
「あ! ありがとうございます!」
その時の彼女は、どこかそそっかしくて、僕が第二王子だということも分かっていない様子だった。
今までずっと、カーディスとの王位継承争い、母上を蔑ろにしてきたマーガレットへの復讐……ずっと、どろどろとした王宮の裏側にいた僕にとって、天真爛漫な彼女は新鮮だったよ。
その後、リリアナ嬢がハロルドと仲良くなって一緒に行動する姿を見て、少し嫉妬を覚えたりはしたものの、それでも、彼女が一人でいる機会があれば、積極的に話しかけたりもした。
もうこの時には、彼女のことが好きになっていたんだろうな。
だが、リリアナ嬢を意識するようになった最大のきっかけは、雨の中で僕に傘を貸してくれた時だ。
あれは、ウィルフレッドが国王陛下の寵愛を受けて台頭してきた頃で、僕の派閥からもそれなりの貴族がウィルフレッドの派閥へと流れたんだ。
有力貴族との結束は固いため、そこまで痛手ではないものの、それでも僕は焦ってしまっていた。
次期国王の座はともかく、このままではマーガレットへの復讐は果たせない、と。
そんな苛立ちを見透かすかのようにリリアナ嬢は現れ、雨に濡れていた僕に傘を貸してくれたんだ。
「ラファエル殿下、このままだと風邪ひきますよ」
「……うるさいな」
「何を拗ねているんですか。ほら、いつもみたいに笑ってください」
珍しく邪険に扱った僕に対して、彼女は普段と変わらず接してくれて、笑顔を見せてくれて。
気づけば、悩みや焦りなんて吹き飛んでいたよ。
「それじゃ、私は失礼しますね」
「え……? リリアナ嬢、傘は……」
「さすがにラファエル殿下に、送っていただくわけにはいきませんから!」
リリアナ嬢は満面の笑みで、傘から飛び出して寄宿舎まで走り去ってしまった。
僕に傘を貸して、自分はずぶ濡れになることをいとわないで。
そんな彼女の背中を、僕の瞳はずっと追いかけていたよ。
「……そ、そういうことだから、僕は何としてでも彼女を婚約者にしたい。いや、彼女こそが『世界一の婚約者』だと、自信を持って言えるよ」
「………………………」
一体僕は、何を聞かされているんだろうか。
多分、ラファエルが語ってくれたエピソードの一つ一つが、『ガルハザ』の攻略対象の好感度アップイベントだということは容易に想像できるけど、それでも、腹違いの兄の恋愛話を聞かされて、正直胸やけしそうだよ。
しかも、あのリリアナだよ?
ひたすら肉を愛してやまない彼女が誰かとイチャコラをする姿なんて、全く想像ができないんですが。
「ハロルド! お願いだ! もしリリアナ嬢が婚約者になってくれるのなら、王の座なんていらない! い、いや、彼女が僕に王になることを望むなら、それはそれで別だが……とにかく、僕にその機会をくれ!」
「は、はあ……」
正直、肉を山ほどプレゼントすれば、すぐに懐いてくれると思いますよ?
もちろん、婚約指輪も肉にして。
「サ、サンドラ……」
「…………………………」
「っ!?」
なんと、僕が呼びかけたにもかかわらず、あのサンドラに目を逸らされたんだけど!?
それだけ、ラファエルの望みは高難易度だってことなのかな!?
「頼む! お前だけが頼りなんだ!」
「う、うぐう……」
僕の両肩を握る手に、さらに力が込められる。痛い、メッチャ痛い。
「か、考えておきますね……」
「た、頼んだよ! 絶対だからな!」
僕は痛みと気迫に負け、顔を逸らしながらそう答えると、ラファエルは目を血走らせて何度も懇願した。
ハア……こんなことなら、真面目に『ガルハザ』もプレイしておくんだったよ……。
あとモニカ、他人事だからってそんなに笑わなくてもいいじゃないか。覚えてろよ。
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