代わりの主人公の置かれている境遇は可哀想でした。
「……それで、カーディス兄上やラファエル兄上、それにオーウェンは?」
サンドラとの披露宴に向けた打ち合わせを終え、部屋に戻った僕は着替えをしながらモニカから定期報告を受ける。
既に『エンハザ』本編が始まっている以上、おかしなことにならないように常に動向を把握しておかないとね。
「カーディス殿下に関しましては、特段動かれている様子はありません。いつもどおり、学業に勤しんでおられます」
「そう……なら、マーガレットがあれこれと世話を焼いていたりは……」
「そういったことも見受けられません。ハロルド殿下によって手足をもがれ、マーガレットは息をするだけの抜け殻のようなものです」
「結構酷いことを言うね!?」
「事実ですから」
メガネをクイ、と持ち上げ、モニカは平然と言い放つ。
い、いや、確かに僕は暗殺ギルド……もとい、『黄道十二宮』を壊滅させたし、専属侍女だったヒロインのアヤメ=モチヅキも始末したけれども。
だからといって、実の母をそんな目に遭わせた傷心の僕に対して、追い打ちをかけるようなことを言わなくても。
ま、まあ、実はもうそこまで気にしてはいないんだけど。モニカの人をイジるさじ加減、絶妙すぎる。
「次にラファエル殿下ですが、こちらは積極的に動いておられるようです。といっても、まずは『世界一の婚約者』になりそうな候補をピックアップしているところですね」
「なるほどね……」
といっても、婚約者候補はどうせ全員『エンハザ』のヒロインだろうから、ある程度想像がつくけど。
その中にはリゼやクリスティア、それにカルラも含まれているんだろうなあ。もしラファエルがアプローチをかけてきたら、全力で阻止することにしよう。
僕の『大切なもの』が、まるで婚約者を蔑ろにするかのような、こんなくだらないことに付き合わせてたまるか。
「最後にオーウェンについてですが、こちらは婚約者探しどころか、そもそも王族としての生活に戸惑っているようで、独りぼっちの寂しい学院生活を送っております」
「そ、そう……」
確かに、今まで平民よりもさらに下に位置する貧民街出身だったオーウェンが、いきなり王侯貴族しかいない王立学院で、周囲に馴染めるわけがないか。ちょっと可哀想。
前世でボッチだった僕には、痛いほど理解できるよ。
「……まさかとは思いますが、ハロルド殿下はオーウェンの面倒を見るなどというお節介をかけるおつもりではありませんよね?」
「それこそまさかだよ。エイバル王の隠し子として、いきなり第四王子としての役割を求められたオーウェンに同情するところがないわけじゃないけど、それでも、それを選んだのはオーウェン自身だ。なら、こうなることも含めて受け入れてもらわないと」
なんて言ってみたものの、実際には強制的に第四王子に仕立て上げられたわけだから、あの男に選択肢なんて最初からなかっただろうけどね。
だからといって、噛ませ犬である僕の敵になる男なんだ。わざわざ塩を送るような真似はしないよ。
「それでしたら安心しました。引き続き、各王子の動向を注視しておきます」
「うん、よろしくね」
ということで、僕はオーウェンとは極力関わらないと決め込んだはず、なんだけど……。
「オイ、オマエ。『無能の悪童王子』と呼ばれているんだってな」
……オーウェンの奴が教室に乗り込み、いきなり絡んできたんだけど。
「サンドラ、食堂に行きましょう」
「はい」
既にサンドラの瞳は血塗られた赤に変化しており、このままだと間違いなくオーウェンはその人生を終えることになりそうなので、僕はこの男を無視して教室を出る。
オーウェンの心配をしているのかって? まさか。サンドラがこんな奴のせいで、迷惑を被ってほしくないからだよ。
「テメエ! 逃げるのか!」
「チッ……うるさいなあ」
わざわざ僕達の前に回り込んで突っかかってくるオーウェンを見て、僕は顔をしかめて舌打ちをした。
なんで絡んでくるのかその理由は分からないけど、面倒くさいことに変わりはない。
「ハロルド殿下、身の程を分からせますか?」
「いや。こんな世間知らずのバカでも、一応は第四王子だ。放っておこう」
「かしこまりました」
耳打ちするモニカが物騒なことを言ったので、とにかくオーウェンについてはシカトを決め込むことを告げた。
だというのに。
「オーウェン殿下! いい加減にしてください! ハルさんが困ってるじゃないですか!」
「「「っ!?」」」
オーウェンを頭ごなしに叱責するリリアナを見て、僕達は思わず目を見開く。
いやいや、いきなり何をしてるの!?
「っ! ま、またお前か! だけど、コイツのせいで酷い目に遭ってる奴がいるって……」
「誰がそんなことを言ったんですか! 私がぶん殴ってあげますから、教えてください!」
「そ、それは、その……」
……なんだか様子が変なことになっているような気がしないでもないこともないような気がする。
「ク、クソッ!」
「あ! ちょっと!」
オーウェンは踵を返し、足早に立ち去ってしまった。
い、一体何なんだよこれ……。
「あのー……リリアナ?」
腰に手を当てて立ち去るオーウェンを睨むリリアナに、僕はおずおずと声をかける。
「ハルさん、あの人って本当にハルさんの弟なんですか? さすがにちょっと失礼すぎると思います!」
「うわっ!?」
眉根を寄せるリリアナに詰め寄られ、僕は思わず仰け反ってしまった。
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