僕は次期国王の候補者のままでした。
「ふあ……」
午後の授業が始まり、僕は思わず欠伸をした。
というか、こうやってのんびり授業を受けたの、久しぶりのような気がする。
「ふふ……ハル様、ちゃんと授業に集中しないといけませんよ?」
「あ、あははー……」
サンドラに苦笑され、僕はバツが悪くなって頭を掻く。
確かに、僕の最推しの婚約者……いや、今は最愛の妻か。彼女の最低最悪の未来を回避することができて、気が抜けちゃったのも事実なんだよね。
とりあえず、『エンハザ』はチュートリアルのシナリオが終わり、これからいよいよ主人公とヒロイン達による物語が本格的にスタートする。
あとは主人公がヒロイン達とのイベントを粛々とこなしていくことになるので、僕が主人公にライバル意識を燃やして下手に絡まない限り、平和なものだよ。
ということで。
「そうだ。今日は授業が終わったら、街にでも出かけませんか? せっかく天気もいいですから」
「いけません。私達の披露宴の準備があるんですよ?」
「うぐう……」
そうだった。僕とサンドラの婚約破棄イベントをぶち壊すために結婚したところまではよかったものの、当たり前だけど彼女の家族をはじめ、リゼ達からメッチャ怒られたんだよね……。
それに、シュヴァリエ家としても第三王子を婿として迎え入れる……ことは叶わなかったものの、大事な一人娘の晴れ舞台。シュヴァリエ家に付き従う貴族や騎士達へのお披露目をしなければいけないということで、夏休みに披露宴を開くことになったんだ。
え? 婿になれなかったとは、どういうことかって?
それが聞いてよ……エイバル王の奴、次期国王争いにおいて『世界一の婚約者を連れてくる』ということに関しては、既に結婚した僕についてもまだ有効とか言い出したんだよ。
要は、次の王になれば側室を持つことだって許されるわけなので、側室候補と婚約すればいいってことらしい。滅茶苦茶だよ。
なので、まだ僕には王位継承権を争う資格があり、引き続き候補者の一人のままってわけだ。
しかもこのことに関しては、宰相やオルソン大臣もエイバル王側に回ったんだよね。裏切者め。
そりゃあ僕を推そうとしていたオルソン大臣からすれば、まだ王になる可能性が残されている以上、そんな選択をする気持ちも分からなくもないけど。
「ほら、そんな顔をなさらないでください。準備といっても、私達の衣装合わせだったり、大まかな段取りを指示するだけですから。それに……披露宴で私達の間に付け入る隙はないのだと見せつければ、良からぬことを考える虫も追い払えますから」
最初こそにこやかな表情を浮かべていたはずなのに、気づけば瞳の色が赤くなっていたよ。
ちょっと最近、【竜の寵愛】が軽々しく発動しすぎていませんかね?
「そうですね。ハロルド殿下のお世話はこのモニカだけの特権ですので、他の有象無象など全て排除する必要があります」
「……私にとっては、あなたこそが最大のお邪魔虫なのですが」
満を持して割り込んできたモニカを、サンドラがジト目で睨む。
まあ、モニカは僕達を揶揄うことに全力投球しているからね。迷惑甚だしい。
でも。
「あははっ」
そんな二人のやり取りを見て、僕は思わず笑ってしまった。
モニカの揶揄いも、サンドラが拗ねるのも、僕にとっては全部ご褒美だよ。
こんなくだらない毎日が、ずっと続けばいいのに。
「むう……ハル様、笑わないでください」
「そのとおりです。これではまるで、私が揶揄われたようで心外です」
「ごめんごめん」
僕は苦笑し、二人に軽く謝る……って。
「三人共、今は授業中ですよ?」
「「「す、すみません……」」」
ミランダ先生に叱られ、僕達は恐縮した。
おかげでクラスのみんな……特にリリアナとロイドに、メッチャ笑われてるんだけど。後で覚えてろ。
「ま、真面目に授業を受けよっか」
「そ、そうですね」
「やれやれ……私は真剣に授業を受けていたというのに、お二人のせいで私まで叱られてしまいました」
「「そういうこと言う!?」」
僕とサンドラは、夫婦らしく同時にモニカにツッコミを入れてしまったよ。
「いい加減にしなさい!」
「「「すみません!」」」
さらに強く叱られてしまい、僕達は大声で謝罪した。
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