私の役目 ※ユリシーズ=ハーザクヌート=ストーン視点
■ユリシーズ=ハーザクヌート=ストーン視点
「あーあ、ハル君のバカ」
ハル君がいなくなり、独りぼっちのこの世界で、私は悪態を吐く。
向こうの世界で初めてできたたった一人の大好きな人は、相変わらず婚約者……じゃなかった。奥さんのことばかりで、焼きもちを焼くに決まってるじゃないか。
それにしても。
「本当に、運命を変えるとは思わなかったな……」
あの世界は、神によって創られ、その運命も、未来だってあらかじめ決められている。
だから、それを変えることは神の摂理に逆らうことで、人の身の分際でそんなことは不可能だと、ずっとそう思っていた。
だというのにさあ。
「君は、いとも簡単に彼女の……アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエの運命を変えてしまった」
本来なら彼女はハル君に婚約破棄され、彼女の持つ祝福である【竜の寵愛】はその力を失い、デハウバルズ王国と主人公の手によってあの世界から抹消されるはずだった。
でも、ハル君は婚約破棄を『結婚』というさらに強制力の強い女神の契約によって打ち消し、エイバル王によるシュヴァリエ家を滅ぼすという企みも、その大義名分を失わせ、さらにあの女神の支援すら得ることで手出しできなくしてしまったよ。
こうなれば、たとえ神でも運命を元に戻すことはできない。
「ここまでの全てがハル君の思いどおり……ってことはさすがにないだろうけど、それでも君は、たったこれだけのこととはいえ、神を超えてみせたんだ」
これによって物語はさらにいびつに歪み、結末がどうなるのか私にも分からなくなってしまった。
神は物語を何とか元に戻そうと、きっと私に次の運命を見せてくるだろうね。
「私は、いつまでこの役目を続けなければいけないのかな……」
天井を仰ぎ、私はポツリ、と呟く。
神が定めた運命に従い、ノルズの民をその運命に導くことこそが、私の……『ハーザクヌート』の称号を与えられた者の宿命。
「なんて、弱音を吐いている場合じゃないよね」
私は肩を竦めて苦笑し、パチン、と指を鳴らした。
「っ!?」
謁見の間にいきなり現れた私を見て、エイバル王は目を思いきり見開く。
でも、それは一瞬で鬼の形相に切り替わると。
「おのれ……おのれ、おのれ、おのれえええええええッッッ!」
「あは♪ 何を怒ってるのさ。ひょっとして、自分が無能だから?」
「黙れ! 貴様に何が分かる!」
「分かっているのは、エイバル君はこんな簡単なことも満足にできない『無能な王』だってことだよ」
喚き散らすエイバル王に、僕は恐ろしく低い声で冷たく言い放った。
主人公だったウィルフレッドを満足に育てることもできず、ようやく代わりを見つけて物語が始まったというのに、いきなり全てを台無しにしたんだ。むしろ何もしない私に感謝してほしい。
「分かっていると思うけど、今回のことで物語が破綻したら、君が神になるって話はないからね。それどころか、神の怒りで全てが無に帰すかも」
「っ!? う、うむ……」
ハア……この馬鹿、ようやく事の重大さに気づいたみたいだよ。
といっても、今頃顔を青ざめさせても遅いんだけど。
「そういうことだから、次はちゃんとしなよ。ええと……本編だと、王国南部の『魔塔に潜む壊れた愛玩人形』だったっけ」
あまり物語に大きくは影響しないエピソードだけど、それでも、主人公にとっては強くなるための大切な布石だし、何より、彼の忠実なメイドヒロインが手に入るからね。
今後のことを考えれば、絶対に物語を忠実に進めておかないと。
「し、心配はいらん。あの者には王国の名を伏せて影から支援しておるし、忍び込ませている諜報員の話では、既に完成段階にあるとのことだ」
「そう、ならよかったよ」
あーあ、神のことをチラつかせただけで、こんなにもしおらしくなっちゃったね。
だったら、最初からそんな態度でいればいいのに。
「じゃ、私は結果だけを楽しみにしているよ」
毎回毎回付き合っていられないし、それに、このエピソードならハル君が絡んだりしないだろうから。
何度も頷くエイバル王を一瞥すると、私はある場所へ転移した。
そこには。
「やあ。オーウェン君のこと、よろしくね」
「お任せください」
跪くメイド服を着た女性……マリオン=シアラーは、そっと私の靴に忠誠の口づけを落とした。
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