国王の目論見を打ち砕いてやりました。
「やあ、こんにちは」
「「っ!? ハ、ハロルド殿下!」」
王宮に到着し、呑気にそんな挨拶をすると、衛兵達がメッチャ驚いた。
一年前まではここで暮らしてたし、何なら数時間前までここにいたっていうのに、失礼だよね。
「ええとー、国王陛下に呼ばれて来たんだけど」
「「ど、どうぞお通りください!」」
ということで、サンドラが甲冑を着て『バルムンク』まで携えているっていうのに、フリーパスで中に入ることができたよ。王宮の警備について、見直すことを具申したい。
「エイバル王は、どのように出てくるでしょうか」
「分からないけど、きっとあの男はシュヴァリエ家に罪をなすりつけてくるでしょうね。あの書状でも、僕は人質にとられていることになっていましたし」
やることが姑息すぎて笑うしかないけど、それだけエイバル王に打つ手がないってことだから、逆にそれだけ僕達は優位な立場にあるとも言える。
加えて聖王国とカペティエン王国の支持を取り付けている今、王国として引き下がる以外の選択肢は用意されていないんだ。
あとは、そのことを分からせてやるだけ。
「サンドラ、モニカ。君達は、僕が絶対に守ってみせる。だから君達は、僕を守ってね」
「ふふ! ありがとうございます! 愛する御方に守られ、必要とされて、私は天にも昇る心地です!」
「なるほど。ハロルド殿下は、側室をご所望ですか。ええ、私は一向に構いませんとも」
サンドラは瞳を血塗られた赤に染め、狂気すら湛えて狂喜乱舞する。
一方で、モニカはモニカで何を言ってるんだろうか。いつ僕がそんな話をしたんだよ。
まあいいや。
頼もしい二人を見ているだけで、僕は何でもできる気がするよ。
そして。
「ハロルド=ウェル=デハウバルズ。王命により、参上いたしました」
「っ!?」
謁見の間の扉を開け放ち、僕は高らかに名乗った。
まさかこんなに早く僕が来るなんて、思いもよらなかったんだろう。玉座に座るエイバル王が、目を丸くしているよ。
それに、宰相やオルソン大臣がエイバル王を囲んでいることからも、シュヴァリエ公爵に宛てた書状について、猛抗議していたってところかな。
このままだと本当に優秀な人材に見限られて、それこそ王の座すら危うくなると思うけど、気づかないんだろうね。
「それで、僕がシュヴァリエ閣下に人質にされているとは、一体どういうことでしょうか? 閣下は、このように快く送り出してくださいましたが」
「む、むう……」
答えられるはずがないよね。ただシュヴァリエ家を潰すためだけの、都合のいい方便なんだから。
もちろん、そんなことはさせないけど。
「だ、だが! そこにいるアレクサンドラは、剣を携えているではないか! これこそ余に対し、反逆の意思があるその証拠!」
「まさか。そもそも王宮に入ってここに来るまでの間、誰一人咎める者はおりませんでしたよ? つまりそれは、サンドラの帯剣を認めたことに他ならないのでは?」
「ぬ、ぬうっ! 先程から屁理屈を……!」
いやいや、屁理屈もなにも、全部事実なんですが。
追い込みたいのであれば、もっと入念に準備をすべきだろ。これじゃいくら何でも行き当たりばったりすぎる。
「それで……どうされますか? 大義名分もないまま、王国はシュヴァリエ家と一戦交えるのでしょうか」
「うぐぐ……っ」
「陛下! それだけは絶対におやめくださいませ!」
「そのようなことをすれば、その時こそ貴族達からの信用を失い、王国はばらばらになってしまいますぞ!」
やはり宰相とオルソン大臣は分かっている。
エイバル王が暴挙に出た時の、この王国の行く末が。
「付け加えておきますが、近衛師団は当てになさらないことです。近衛騎士団は王に仕えているのではなく、王国に仕えているのですから」
「ぬうう……っ!」
こんなこともあろうかと、僕はドレイク卿と話をし、シュヴァリエ家討伐に近衛師団は参加しないことを約束してもらった。
王国の精鋭部隊である近衛師団が動かないとなれば、王国軍そのものが抑制されてしまう。
それほど、王国軍においてブラッドリー=ドレイクという存在は大きい。
さて……どうする?
このまま『エンハザ』のシナリオどおり、シュヴァリエ家と戦うのか。それとも、チュートリアルシナリオの進行を諦めるのか。
シナリオに忠実に従ったら、その時こそ王国は終わる。
それは、この後の『エンハザ』のシナリオの全てを犠牲にするということだよ。
「国王陛下」
「……もう貴様等に用はない。今すぐ消えろ」
「失礼いたします」
吐き捨てるように告げたエイバル王の言葉を受け、僕とサンドラは皮肉を込めて恭しく一礼し、謁見の間を出……ようとして、立ち止まる。
「ああ、そうそう」
「っ!?」
「聖王国とカペティエン王国は、僕とシュヴァリエ家を支持してくださるそうです」
そんな言葉を残し、僕達は今度こそこの場を後にした。
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