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僕は人質という扱いを受けているとのことでした。

「だけど、今度はサンドラの実家を潰すつもりかもしれないなんて、さすがに常軌を逸しているわね……」


 僕達は馬車で寄宿舎を出て、シュヴァリエ家のタウンハウスに向かっている。

 実は、王国軍によるシュヴァリエ家の武力制圧の可能性があることを、みんなに伝えたんだ。


 ここまで僕のことを想ってくれる『大切なもの』に遠慮することのほうが、みんなを裏切ることになると思ったから。


 そしたらどうだい。みんな、二つ返事で僕達に力を貸してくれることになったよ。

 クリスティアもリゼも、王都にいる諜報員にすぐに指示を出して、本国に要請してくれたし。本当に、感謝しかない。


「それで、ハル様はこれからどうなさるのですか?」

「うん。義父上……シュヴァリエ閣下と合流し、王国を迎え撃つことになる」

「戦、なのですね……」


 もちろん、そんなことにならないように手は打ってある。

 とはいえ、万が一のこともあるので、最悪の事態は想定しておかないと。


 エイバル王のことだから、こちらが一戦交える姿勢を見せた時点で、シュヴァリエ家が反乱を起こしたと大義名分を得る算段をつけているだろうし。


「心配いらない。僕が絶対に、そんなことはさせないから」


 みんなを安心させるためにも、僕はできる限り明るく優しい声で告げた。


「あ、着いたみたいだね」


 シュヴァリエ家の屋敷の玄関に横づけされた馬車を降り、僕達は中へと入る。


「ハロルド殿下、待っておりましたぞ」

「…………………………」

「す、すみません。遅くなりました」


 応接室で険しい表情のシュヴァリエ公爵とセドリックに迎えられ、僕は居たたまれなくなって恐縮する。

 い、いや、やっぱりサンドラと内緒で結婚したこと、その……怒ってるよね。


「まあまあ いらっしゃい! それと……うふふ、二人ともおめでとう!」

「ありがとうございます! お母様!」

「そ、その……ありがとうございます、義母上」


 ノーマ夫人に抱きしめられ、僕は思わず口元を緩める。

 これからは、本当に僕のお母さんになるんだよね……嬉しい。


「早速本題に入ろう。ハロルド殿下から聞かされていたものの、国王陛下は一体何を考えている」

「分かりません……ですが、少なくともシュヴァリエ家を排除したいと考えていることは、間違いありません」


 席に着き、状況説明の後、対策を練る。

 といっても、あらかじめ準備は整えてあるので、細かい部分のすり合わせ程度だけど。


「……いずれにせよ、建国以来この国を支え続けてきたシュヴァリエに牙を()くとは、いい度胸だ」

「そうですね。私も、この機会に武勲を上げるとしましょう。何せ……アレクサンドラの婚約を破棄させたのですから」


 シュヴァリエ公爵とセドリックが、その糸目を開いて獰猛(どうもう)な笑みを浮かべる。

 サンドラの家族だけあって、二人も物理に訴えるタイプだなあ。特にセドリック、内政が得意っていう設定はどこにいった。


「それと、ありがたいことに聖王国とカペティエン王国から、僕達を支援していただけることになっています。これで、最悪の事態(・・・・・)になったとしても、僕達が敗れるということはありません」

「おお、それは心強い」


 さあ、エイバル王。

 こちらの準備は既に整っているよ。


 『エンハザ』のシナリオどおり、シュヴァリエ家を滅ぼせると思ったら大間違いだ。

 やれるものなら、やってみるがいい。


 すると。


「お館様。王宮から、書状が届いております」

「っ!?」


 モニカが持ってきた書状を受け取り、シュヴァリエ公爵が封を開ける。


「……国王陛下から、三日以内に人質となっているハロルド殿下を連れ、王宮に出頭しろとのことだ。さもなくば、公爵位を剥奪するとな」


 ああ、なるほど。

 僕と一緒に出頭したシュヴァリエ公爵を捕らえ、当主がいなくなって混乱するシュヴァリエ家を一気に制圧するつもりなんだな。考えることが姑息なんだよ。


「お父様、どうなさるのですか?」

「決まっている。こんなもの、応じる必要はない」


 シュヴァリエ公爵は、険しい表情で書状を破り捨てた。

 このままでは、王国はシュヴァリエ領に王国軍を向かわせるだろう。


 それだけは、阻止しないと。


「ハル様?」

「なら、王宮に行ってきますよ。ただし、僕一人で(・・・・)

「「「「「っ!?」」」」」


 立ち上がってそう告げると、みんなが一斉に目を見開いた。


「だ、駄目だ! そんなことをすれば、ハロルド殿下は間違いなく捕らえられ……」

「心配いりません。エイバル王は、僕に危害を加えるような真似はしませんよ」


 そう……エイバル王が、僕に手出しをできるはずがないんだ。

 噛ませ犬である僕を排除すれば、『エンゲージ・ハザード』のシナリオが崩壊してしまうのだから。


 それに。


「キャス、一緒に来てくれるかい?」

「! もちろん! ボクはいつだって、ハルと一緒だよ!」


 僕には、こんなにも頼りになる相棒がいるしね。

 『エンハザ』のシナリオ上、サンドラやモニカは危害を加えられる可能性があるので連れて行けないけど、今回ばかりは仕方ない。


 だから、君にはここで待ってもらって……って。


「え、ええー……」

「さあ。ハル様、まいりましょう」


 全身に甲冑を身にまとい、『バルムンク』を携えたサンドラが、ニコリ、微笑んだ。

 その後ろには、さも当然と言わんばかりにモニカがいるよ。


「だ、だけど、君は僕と違って危険……」

「ふふ、ご冗談を。王国ごとき(・・・・・)が、私に害をなすことなどできましょうか」


 サファイアの瞳を真紅に変え、サンドラがクスクスと(わら)う。

 い、いや、この状態の彼女が最強であることは知っているけれども。


「ご安心ください。このモニカ=アシュトン、かすり傷一つ負うことなく、全て刈り取ってみせましょう」

「お願いだからやめてね!?」


 ああもう、どうしてこの二人は、こうも好戦的なんだろうか。

 本当に……そんなに僕のことを心配しなくても大丈夫なのに。嬉しいけど。メッチャ嬉しいけど。


「……駄目だって言っても、ついてくるよね」

「「もちろんです」」


 あ、あははー……じゃ、しょうがないよね。


「分かったよ。一緒に行こっか」

「はい!」

「かしこまりました」


 結局僕は、サンドラとモニカ、それにキャスを連れて、王宮へと向かった。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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