黒幕と再会しました。
「やあ」
「……現れると思っていたよ」
謁見の間を出た途端、エイバル王の怒鳴り声や隣にいたはずのサンドラが消えたから、きっとユリがこの前のように僕を別の空間に連れ出したんだとすぐに理解した。
案の定、ユリは目の前で苦笑いを浮かべているよ。
「どうだった? 僕は物語のチュートリアル……って言っても分からないか。とにかく、確かに婚約破棄はしたけど、サンドラと別れるっていう運命は覆してみせたよ」
「私も、まさかあんなことをするなんて思いもよらなかった。さすがにこれは、予想外すぎるよ」
「あははっ」
「あは♪」
僕とユリは肩を竦め、思わず笑った。
「たとえ些細なことかもしれないけど、一度ボタンをかけ違えば、その後は修復するのは難しいよ、たとえそれが、運命であっても」
「そうかもしれない。でも、この物語は一筋縄じゃいかないよ。ちゃんと決められたラストを迎えるように、修正するはずだから」
そう言うと、ユリは口の端を吊り上げる。
なるほど……辻褄合わせをするために、これからも何かを仕掛けてくるってことだな。
となると。
「ひょっとして、王国がシュヴァリエ家の排除に乗り出すってことか?」
「さあ、どうだろ?」
僕は問いかけるも、ユリはおどけてはぐらかす。
だけど、『違う』とはっきり答えない時点で、『そうだ』と言っているようなものだけどね。
やはり『エンハザ』のチュートリアルシナリオである、僕とサンドラの婚約破棄からのシュヴァリエ家の反乱、滅亡まで持っていくつもりだな。
考えられるのは、シュヴァリエ家に冤罪をなすりつけ、王国が討伐に乗り出すというところかな。
これも予想の範疇だし、既に手は打ってあるけど。
「ハア……お前も大変だね。こんなくだらないことに、必死にならなきゃいけないんだから」
僕は溜息を吐き、そんな言葉を投げかける。
ユリがその正体を現してから、ずっと覚えていた違和感を確認するために。
「おっと、その手には乗らないよ。そうやって同情するふりをして、私から情報を得ようとしていることくらい、お見通しだから」
「チッ、引っかからなかったか」
なんて舌打ちして悔しがってみるものの、僕の目的はそこじゃない。
でも、ずっとニコニコしていて何を考えているか分からないから、結局のところ目的は果たせなかったけどね。
「ということで、そろそろ僕を解放してくれないかな。向こうに妻を待たせているんでね」
「ああ、そうだったね」
少し残念そうに、ユリが答える。
「ハア……どうせまた、こうやって僕を呼び出せば会えるんだから、そんな顔するなよ」
「そうだけどさあ……私だって、色々とやることがあるから、そう簡単に会えたりしないんだからね」
その『色々とやること』ってやつをやめればいいのにと思うけど、さすがにそれは口に出して言わない。
ユリだって、それなりに目的や想いってものがあると思うから。
結局のところ、僕とユリでは求めているものが違う以上、交わることはないんだ。
……少し、寂しいけどね。
「じゃあ、またな」
「! う、うん! またね!」
そんなに嬉しそうな顔をされると、こっちが調子狂っちゃうよ……って。
「ハル様……?」
「え? い、いえ、それじゃ、行きましょうか」
「はい」
不思議そうに見つめるサンドラに、僕は気を取り直して王宮の玄関へと向かう。
いや、前回も思ったけど、元の世界に戻る時はこう……いきなりはやめてくれないかなあ……。
◇
「わっははは! いかがですかな?」
王宮を出て近衛師団の幕舎にやって来た僕達に、師団長のドレイク卿が自慢げに告げる。
実は、ウィルフレッドが僕の暗殺及びクリスティアを洗脳しようとした罪で幽閉された時点で、ドレイク卿は師団長に復帰したんだ。
そのおかげで散り散りになっていた近衛兵も全員復帰し、元どおり千人を超える近衛兵が僕達の前で剣を捧げているよ。ちょっとやり過ぎ。
「あ、ありがとうございます。それで、ひょっとしたら既に聞き及んでいるかもしれませんが、僕は正式に次期国王争いから脱落しました」
「そうですな。ですがワシは、ハロルド殿下に剣を捧げたのであって、他の王子達に従うつもりはありませんわい。何より……」
「『近衛師団が仕えしは、デハウバルズ王国のみ』、ですよね」
「む……わっははははは! 殿下に先に言われてしまいましたわい!」
ドレイク卿は豪快に笑い、僕の背中をバシバシと叩く。痛い、痛いから。
「それで、今日ここに来られたのは……」
「もちろん、例の件で動きがありそうですから」
「ほう……? ようやくですか」
僕の言葉に、ドレイク卿が不敵な笑みを浮かべた。
「なら、我等近衛師団の取るべきは一つですな」
「ええ。お願いできますか?」
「わっははははは! お任せくだされ!」
本当に、彼が味方だと頼もしいね。
何せデハウバルズ王国軍は、ブラッドリー=ドレイクが掌握しているのだから。
拳で思いきり胸当てを叩くドレイク卿に、僕は笑顔で頷いた。
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