国王はただ理不尽でめちゃくちゃでした。
「余の後継についてだが……世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする」
とうとう『エンゲージ・ハザード』の本編が、幕を開けた。
「っ!? さ、さすがにそのようなくだらない方法で王を選ぶなど、どうかしておりますぞ!」
「そうです! そもそも、『世界一の婚約者』の基準は何なのですか!」
当然のごとく、宰相やオルソン大臣をはじめ、居並ぶ重臣が一斉に声を上げる。
こんな方法で自分達の主君が決まるなんて、たまったものじゃないよね。
でも。
「『世界一の婚約者』か……」
「へえ……」
カーディスとラファエルは、『エンハザ』のチュートリアルと同じように、興味を示した。
『本気か!?』ってツッコミを入れたいところだけど、これまでの王位継承争いから解放されることを思えば、二人にとっては余計なしがらみもなくなって気が楽になるのかもしれない。
「陛下、よろしいでしょうか」
「……なんだ?」
「僕がウィルフレッドとの決闘に勝利し、褒美としてお約束いただいた件……『間違っても、『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』ような真似だけは、絶対におやめいただきたい』、これを反故にされるというのですか?」
「「「「「っ!?」」」」」
僕のその一言で、謁見の間にいる全員が目を見開いた。
そう……僕はこの時のための布石として、あの時にあんなことを約束させたんだ。
それも、全ての王侯貴族とたくさんの民衆達がいる、あの場で。
「この約束は、あの場にいた全ての者が聞いております。今さらなかったことになど、できないと思いますが」
「ぬう……っ」
エイバル王は顔をしかめて呻いているけど、ひょっとして忘れてたのかな?
だとすると、このことをユリの奴もエイバル王から聞かされていないだろうし、『エンハザ』開始早々からシナリオ崩壊してるんだけど。ウケル。
「国王陛下! ハロルド殿下のおっしゃるとおりです! もし王自ら約束を違えることとなれば、それこそ示しがつきません!」
「そうですぞ! 信用を失えば、国の崩壊に繋がります!」
ここぞとばかりに、宰相達が一斉にまくし立てる。
途中、オルソン大臣から笑顔で目配せされたので、まさに渡りに船だったみたいだ。
「ええい! 黙れ! これはもう決めたことだ! 今さら覆すつもりはないわ!」
「陛下!」
もう聞く耳を持たないとばかりに、エイバル王は腕組みをして顔を背けた。
まるで駄々っ子みたいだけど、頑として聞き入れるつもりはないらしい。
……まあ、こうなることも予想していたけどね。
「とにかく王子達は、自身の思う『世界一の婚約者』を見つけ、余の前に連れてくるのだ!」
「そうすると、僕はサンドラ……アレクサンドラ嬢をお連れすればよろしいのですね?」
エイバル王をさらに煽るように、僕はそう告げて口の端を持ち上げる。
何だか『僕が考えたキャラが最強なんだい!』みたいな感じで、ちょっと子供じみている気はするものの、僕にとってサンドラこそが世界一の女性なんだから、こうなるに決まってるよね。
「……ならん」
「は……?」
「アレクサンドラは、余の宣言の前よりハロルドの婚約者であったため、『世界一の婚約者』とはならん! 認めてほしくば、別の者を連れてくるがよい!」
「そんな! 滅茶苦茶です!」
さすがにこれは聞き入れられない。
自分が宣言する前から婚約者だから無効なんて、どんなルールだよ。
「フン、別に難しい話ではあるまい。アレクサンドラと婚約破棄し、別の者を婚約者に連れてくるだけで、お主は次の王となる機会を得られるのだぞ?」
僕が声を荒げたことで精神的に優位に立ったと勘違いしているのか、冷静さを取り戻したエイバル王は嘲笑を浮かべ、そんなことを宣った。
「……今のお言葉から察するに、陛下はアレクサンドラ嬢が『世界一の婚約者』であることを恐れて、あえてお認めにならないということでしょうか?」
「っ! 貴様! 余に向かって何たる口の利き方を!」
ハア……多分、『エンハザ』のシナリオどおりに僕がサンドラと婚約破棄しなければ、都合が悪いからだろうなあ。
誰にとって都合が悪いのか、それは分からないけど。
ただ、これがユリの語った『運命』っていうことなら、こんなお粗末な『運命』はないよね。不都合で、不合理で、矛盾だらけじゃないか。
なあ、ユリ……この様子を、どこかで見聞きしているんだろう?
オマエは本当に、こんな『エンハザ』のストーリーで満足できるのか? 僕は全然満足できないよ。
たとえ僕が噛ませ犬の『無能の悪童王子』のままだったとしても、こんなものが前世の僕の愛した『エンゲージ・ハザード』だなんて、絶対に受け入れられない。
「……そんなに陛下は、僕とアレクサンドラ嬢が別れることをお望みですか?」
「くどい!」
「そうですか……なら、お望みどおりにして差し上げますよ」
僕は立ち上がり、謁見の間の扉へと歩を進める。
そして。
開け放たれた扉の前に佇むサンドラが、優雅にカーテシーをした。
――その瞳を、真紅に変えて。
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