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『エンゲージ・ハザード』の本編が、幕を開けました。

「……新入生の皆さんには、この王立学院で様々なことを学び、未来の王国を支える人材に育ってくれることを祈念して、祝辞といたします」


 生徒会長を務めるラファエルの挨拶を、僕は在校生として、生徒会の一員として耳を傾ける。

 隣には、妻であり同じく生徒会役員のサンドラもいた。


 今日は四月五日。

 『無能の悪童王子』であり、『エンゲージ・ハザード』の噛ませ犬である僕にとって、運命の日だ。


 案の定、『謁見の間に参集するように』との通達があり、入学式が終われば王宮に向かうことになっている。


「ハル様、私もご一緒しますから」

「うん。もちろん、そのつもりだよ」


 王宮からの通達を見せた瞬間、サンドラは僕に付き従うと言って聞かない。

 彼女にとっても、僕に婚約破棄をされる場なのだから、こうなることは分かっていたよ。


 ……いや、違うか。

 サンドラは、僕のために一緒に来てくれるのだから。


「以上で、入学式を終了いたします」


 長かった学院長や来賓達の挨拶も終わり、僕はサンドラの手を取って講堂を出る。

 その後ろには専属侍女のモニカが、何より、僕の制服の内ポケットにはミニチュアサイズの『漆黒盾キャスパリーグ』に変身したキャスもいるよ。


 これだけの『大切なもの』に囲まれた僕に、怖いものなんてない。


 すると。


「やあ、ハロルド」


 呼び止めたのは、ラファエルだった。


「今から王宮に行くんだろう? だったら一緒に行かないか?」

「そうですね……」


 ラファエルの提案に、僕は口元に手を当てて思案すると。


「分かりました。サンドラ達も同行しますが、それでもいいですか?」

「ああ、構わないよ」


 ということで、僕達はラファエルと一緒に馬車で王宮へと向かう。


「そういえば、カーディス兄上は?」

「さあ? 元々誘うつもりはなかったし、兄上も一人で向かっているんじゃないかな」


 ラファエルは苦笑し、肩を(すく)めた。

 まあ、元々ライバル関係にあったわけだし、マーガレットのこともあるから、ラファエルにとってはどうでもいいことか。


「それより……国王陛下の用件は、一体なんだろうな」

「あ、あはは……」


 なかなか答えづらい話題だなあ。

 エイバル王が『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』なんて言い出すことを、さすがにラファエルには言えない。


「僕達王子を全員召集したんだから、きっと重要な案件だとは思うんだけどね。それか、ウィルフレッドの一件もまだ整理が終わっていないし、そのことかもしれない」

「…………………………」


 ウィルフレッドが幽閉先のカディット塔で不審な死を遂げ、僕の暗殺未遂やクリスティアの洗脳についての動機や計画の一部始終について、闇に葬られることとなった。


 一方で、残されている問題もある。

 それは、第三王妃であるサマンサの処遇だ。


 第四王子のウィルフレッドという存在があったからこそ、サマンサは王宮内で地位と権力を得たわけだから、それを失った今、王宮に居座る理由は王の寵愛くらいしかない。

 それだって、王に飽きられたらすぐに追い出されてしまうわけだから、今頃は戦々恐々としていることだろう。


「まあ、一番毛嫌いしていたマーガレットが、今じゃすっかりあの様子だからね。サマンサがそのまま第三王妃に居座る可能性も否定しないけど」

「そ、そうですね」


 どこかニヤニヤした表情で見つめてくるラファエルに、僕は思わず顔を背けてとぼけてみせた。

 マーガレットが壊れてしまったのは僕が原因だから、何とも言えないなあ……。


「さあ、おしゃべりはここまでだ。王宮に着いたようだぞ」


 馬車が玄関に横づけされ、僕はサンドラとモニカをエスコートして降ろすと、みんなで謁見の間へと足を運ぶ。


「あれは……」


 既に先に来ていたカーディスの隣に、見慣れない僕と同い年くらいの男がいた。

 なるほど……彼が、ウィルフレッドの代わり(・・・)のオーウェンか。


「お前は誰だ? どうしてこの謁見の間にいる」

「チッ……知らねーよ。俺だって、好きでここにいるわけじゃねー」


 ラファエルの問いかけに、オーウェンは舌打ちをして顔を背け、吐き捨てるように答える。

 態度といい言葉遣いといい、確かに王侯貴族からは程遠いね。


 その時。


「全員揃っておるな」


 侍従や宰相、オルソン大臣などを引き連れて現れたのは、エイバル王だった。


 だけど、宰相達の表情を見る限り、かなり不満げな様子。

 これは、オーウェンが王の隠し子だったことに対するものなのか、それとも、この後に待っているあの宣言を聞かされたことによるのか。


 いずれにせよ、答えはもうすぐ分かる。


「……ハロルドよ。謁見の間の前に、アレクサンドラ嬢が控えておったが」

「はい。僕のことが心配だからと、ここまでついてきてくれました。本当に、僕にはもったいないくらいの婚約者です」


 正しくは、婚約者じゃなくて()だけどね。


「そうか……では本題に入るとしよう。まずオーウェンよ、(おもて)を上げよ」

「…………………………」


 さすがに国王の前では萎縮してしまうのか、オーウェンは神妙な(おも)持ちで顔を上げた。

 目も泳いでいるし、緊張している様子が(うかが)える。


「その者の名は、オーウェン=ウェル=デハウバルズ。余の落胤(らくいん)であり、お主等の弟となる者だ」

「「っ!?」」


 いきなりそんな事実を聞かされ、カーディスとラファエルが息を呑み、オーウェンを見る。

 一方で、オーウェンはどこかバツの悪い表情を浮かべた。おそらく、事前にその事実を聞かされているのだろう。


 僕? モニカの調査で最初から知っているから、平然と……はしないで、カーディス達と同じように驚いたふり(・・)をしているよ。


「このことから、オーウェンを正式に第四王子とし、王位継承権を与えるものとする」

「「…………………………」」


 納得がいかないものの、それに反論することもできず、カーディス達は押し黙る。

 見ると、宰相達も苦虫を噛み潰したような顔をしているので、不機嫌な理由はやはりこの件だったみたいだ。


「次に」

「っ!? 陛下、まだあるのですか!?」


 割り込んできたのは宰相だった。

 聞かされていたのは、オーウェンの出自に関することまでだったみたい。


 なら、この後はさらに驚くことになるだろうね。


「宰相よ、黙っておれ」

「し、しかし……」

「皆の者、心して聞け」


 宰相を黙らせ、エイバル王が続ける。


 そして。


「余の後継についてだが……世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする」


 とうとう『エンゲージ・ハザード』の本編が、幕を開けた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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