主人公の代わりが用意されました。
「あら……サンドラ、そんな指輪していたかしら?」
次の日の昼休み。
食堂で一緒に食事をするリゼが、目敏く見つけたよ。
「はい……ハル様からいただいた、何よりも大切な指輪です」
紅く輝くルビーの指輪をうっとりと見つめ、サンドラが答えた。
最初は彼女の瞳の色と同じ、サファイアの指輪にしようかと考えたんだけど、【竜の寵愛】によって変化した真紅の瞳もサンドラだから、あえてルビーにしてみた。喜んでくれたみたいでよかったよ。
「ふうん、ハルがねえ……?」
「な、なんだよ……」
ニヤニヤと笑いながら見つめるリゼに、僕は少し照れてしまい悪態を吐く。
「いいえ、別に。婚約者同士、相変わらず仲がよろしいですわね」
「「あ……」」
本当は夫婦になったんだけど、それは僕とサンドラ、それにモニカとキャスだけの秘密だからね。
ちょっと違和感を覚えるけど、四月五日を迎えればそれも解消されるから、それまではこんなことだって楽しむことにしよう。
「うふふ、私達もご一緒していいですか?」
「聖女様、カルラ殿。もちろんですよ」
料理を乗せたトレイを手にやって来た二人を、僕は席へと案内する。
「そういえば、リリアナとロイドはどうしたんですの?」
「あー……」
残念ながらあの二人、この前の小テストの結果が悪かったため、昼休み返上で補習をさせられているよ。
可哀想にも思うけど、この前『ちゃんと復習しておくように』って言ったのに、サボった結果だから僕は何も言うまい。
「その点、リゼは偉いね。ここにいるってことは、ちゃんと小テストで合格点を取ったってことなんだから」
「オーッホッホッホ! 当然よ! このリゼット=ジョセフィーヌ=ド=カペティエンにかかれば、あのようなテストなんて余裕ですわ!」
「ああうん、よかったね」
しまった。余計なことを言わなければよかったよ。
おかげでメッチャ調子に乗ってるんだけど。
「ところで話は変わりますが、本日、Aクラスに新しい生徒が入ってきました」
「新しい生徒?」
クリスティアの言葉に、僕は思わず聞き返す。
こんな時期に誰かが入ってくるなんて、珍しいな。
王国の貴族であれば、強制的に四月から入学しているだろうし、他国からの留学生の話も聞いていない。
どう考えても、普通じゃないね。
「それで、その生徒の名前は?」
「“オーウェン”という名前なのですが、姓はないようです」
「え? それって……」
「はい。平民です」
「ええー……」
どうしてこの時期に、あえて平民を入学させたんだ?
あと一週間で新入生が入学するんだから、その時に一緒に入学させて、一から学ばせたほうがいいはずなのに。
「ハロルド殿下、お調べいたしますか?」
これまで静かに聞いていたモニカが尋ねる。
「そうだね。お願いしていいかな」
「お任せください」
モニカなら、すぐにオーウェンという生徒のことを調べ上げてくれるだろう。
なら、あとはその報告を待つだけだ。
「じゃ、食べようか」
僕は少しおどけてそう告げると、みんなで昼食を楽しんだ。
◇
「それで、どうだった?」
「はい……少々厄介なことのようです」
オーウェンという生徒に関する調査をお願いしてから三日後、モニカが神妙な面持ちで結果を報告してくれた。
まず、オーウェンは王都の貧民街で母親と二人で暮らしているらしい。
母親のほうはかつて貴族令嬢だったらしいが、不貞行為を行った相手の子を身籠ってしまい、実家を勘当されたとのこと。
その時のお腹の子が、オーウェンというわけだ。
オーウェンは女手一つで育てられ、貧民街で逞しく生きてきた。
とはいっても、環境が環境であるため、やはり素行はよろしくないみたい。
恐喝や暴行といったことも日常茶飯事だったらしく、貧民街でもそれなりに名前が売れているとのこと。
「そんな奴がどうして、この王立学院に入れたんだ?」
「あくまでも王立学院の資料から入手した情報のみでありますので、確証は持てませんが、どうやら母親と不貞行為を行った相手というのが……」
ここで珍しく、モニカが言葉を濁す。
あまり僕に話したくないような情報みたいだ。
「構わないから、教えてくれないかな」
「……オーウェンの父は、エイバル王です」
……なんとなく、そんな気がしたよ。
ユリは、僕が噛ませ犬になることは運命だと言っていた。
幽閉されていたウィルフレッドが謎の死を遂げた今、その代わりとなる主人公が用意されるのは当然だからね。
「モニカ、ありがとう」
「いえ……ハロルド殿下、それで、いかがなさいますか?」
「もちろん、放っておくよ」
「え……?」
僕の答えに、あまり驚いたりしないモニカが珍しく目を丸くする。
「だって、そういうことなら、来週には嫌でも顔を合わせるだろうしね」
四月五日になれば、エイバル王は全ての王子を謁見の間に召集する。
その時に、オーウェンがどんな奴なのか知ればいい。
――どうせ、噛ませ犬である僕の敵でしかないのだから。
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