僕達は、夫婦になりました。
「サンドラ……僕は、君が誰よりも好きです。だから……僕と結婚してください。今日、この場で、今すぐに」
僕はサンドラの手を取り、口づけを落として懇願する。
そう……これこそが、運命に抗うために見出した、たった一つの答え。
たとえ強制力が働いて僕が婚約破棄を宣言しても、サンドラと既に結婚をしているのであれば、そんなものは関係ない。
そもそも、夫婦なのに婚約中であること自体が、矛盾していることになるのだから。
「あ、そ、その……」
そんな僕の決意と告白に、戸惑うサンドラ。
当然だ。いくら最悪の未来を乗り越えるためとはいえ、こんなの性急すぎるから。
でも……この僕の気持ちは、絶対に嘘じゃない。
「僕は君と早く夫婦になりたい。……いや、君の言葉を借りるのであれば、『番になる』と言ったほうが正しいのかもしれないね」
彼女と結婚することを決意し、モニカに相談したら、サンドラの能力……【竜の寵愛】について教えてくれた。
初代シュヴァリエ公爵が、伝説の竜ファフニールより授かったとされる呪い。
竜の番と定めた相手を盲執的に愛し、その相手のために際限なく強くなるという、まさにヤンデレ特化の最強で最凶のスキルだ。
そして……【竜の寵愛】スキルを持つ者は、ただひたすらに、相手と番になり、添い遂げることを望む。
もちろん『エンハザ』にそんなスキルは存在しないし、モニカの話では歴代シュヴァリエ家でも初代とサンドラ、それにもう一人だけしか発現しなかったとのこと。
なら、『エンハザ』でハロルドに真っ先に婚約破棄され、命を落としたサンドラが登場しなくなった以上、そのスキルが存在しないのも当たり前だ。
ただしヤンデレ特化スキルは諸刃の剣であり、もし【竜の寵愛】を持つ者の愛を受け止めきれなかった場合、番に選ばれた者は、悲惨な末路を辿るらしい。
前世からずっとサンドラが最推しだった僕にとって、何も問題にならないんだけどね。
「ハ、ハル様は、ご存知なのですね……」
「うん。でも、【竜の寵愛】を持っていても、君を大好きな気持ちには変わりないけどね」
「あ……」
むしろ僕だけを好きになってくれるスキルなんて、最高じゃない?
たとえどんなイケメンが現れても、寝取られる心配ゼロだし。しかもサンドラ、メッチャ尽くしてくれるし。僕からすればメリットしかないんだけど。
ただし、すぐ暴走しそうになるから、常に傍にいて気をつける必要があるけどね。
「そ、それで、その……どう、かな……?」
いくらサンドラが【竜の寵愛】の効果もあって僕のことを好きだからといって、一世一代のプロポーズをしたんだから、緊張で口から心臓が飛び出しそうなんだよ。
しかもまだ返事もらってないし、ここで断られたら最悪の結末だって待っているんだし……って!?
「うわっ!?」
「そんなの……そんなの……お受けするに決まっているではありませんか! 私がどれほど、あなた様と添い遂げることを待ち望んだことか! どれほど、あなた様の寵愛を望んだことか!」
勢いよく胸に飛び込み、サンドラが思いの丈をぶつけた。
その一言一言が、僕の心に沁みわたる。
今でこそ僕は、前世の知識をフル活用してここまでの強さを手に入れたし、周囲の評価を変えて『無能の悪童王子』と呼ぶ者もほとんどいなくなった。
でも、そのきっかけは全てサンドラという存在があったからだし、最初に僕を認めてくれたのだって、君なんだ。
だから。
「あはは! 嬉しい! 嬉しいよ!」
僕はサンドラを抱え上げ、その場でくるくる回って喜びを表現する。
え? 僕がメッチャ泣いてるって? 当たり前だよ。
だって……前世で愛してやまなかった最推しの婚約者が、僕の妻になってくれるんだから。
「コホン。正式に夫婦になるには、ちゃんと式を挙げていただかなければなりません。そういうことですので、このモニカ=アシュトンと」
「ボク、災禍獣キャスパリーグが」
「「二人の立会人になります!」」
僕の大切な相棒と、かけがえのない専属侍女が立会人なんて、最高だ。
「うん! よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
僕とサンドラはモニカとキャスに深々とお辞儀をすると、一人と一匹の前に立つ。
「良き時も、悪き時も、富める時も貧しき時も……」
モニカが、いわゆる結婚式の時の神官の言葉をつらつらと読み上げる。
その隣では、キャスがモニカの真似をしているのか、一生懸命に口パクしているよ。可愛い。
「……ハロルド殿下、誓いますか?」
「誓います」
この世界の口上って、前世の宗教と同じなんだね。
まあ、『エンハザ』を作ったのがそういう前世の世界なんだから、当然といえば当然か。
「……お嬢様も、誓いますか?」
「もちろんです! 当然です! 当たり前です!」
おおう、サンドラがグイグイ前に出て誓ってくれているよ。
もはや段取りとかお構いなしだね。
「……コホン、もうお嬢様が暴走寸前ですので……ハロルド殿下、お嬢様、誓いのキスを」
「キース! キース!」
えーと……キスするのはいいんだけど、モニカもキャスも、なんでそんなに近いの?
これじゃ、サンドラより先に君達の唇が触れてしまいそう……って。
「むぐ!?」
「ふ……む……ん……ちゅ……っ」
思いっきり顔を押さえられ、サンドラから熱烈で濃厚なキスを受けてしまった。
まあ、だけど。
「っ!? ふ……ん……」
僕だって負けじと、キスを返したけどね。
「ぷあ……ハル様……」
「サンドラ……ずっと一緒にいようね」
「はい……はい……っ」
【竜の寵愛】が発動して真紅に輝く瞳から大粒の涙を零すサンドラに、僕はもう一度キスを交わした。
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