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真の噛ませ犬は誰だったのか ※ウィルフレッド=ウェル=デハウバルズ視点

最終章に向けての幕間です!

■ウィルフレッド=ウェル=デハウバルズ視点


「クソ……どうして俺が、こんな目に遭わなければならない……っ」


 首都カディットの中央にある、王族のためだけに用意された監獄、“カディット塔”。

 俺は今、この塔の最上階にある、窓一つない部屋に幽閉されている。


 ハロルドとの二度目の決闘で敗れ、衛兵に引き渡された俺は、王国より裁きを受けた。

 もちろん、ハロルドの暗殺を(くわだ)て、聖女を洗脳しようとした罪で。


 さすがに父であるエイバル王も俺を(かば)うことはできず、宰相や外務大臣のオルソンをはじめとした有力貴族達からの厳罰を望む声もあり、こうして俺はここに生涯幽閉されることが決定したわけだ。


 他にも、聞いたところによるとララノアは、シェルウッド王国に強制的に帰国させられたらしい。

 聖女を洗脳しようとした主犯として、正式に裁きを受け、国外永久追放に処せられる予定だとか。


 こう言っては何だが、あの女が主犯扱いとなったことで、この俺はかろうじて処刑されずに済んだのだから、運がよかったと言うよりほかない。


 次にフレデリカだが、あの女も共犯ではあるものの、情状酌量により平民に落とされて王都を追放される程度で済まされたとのこと。

 ただし、実家のマーシャル公爵家は伯爵位に降格、領地の三分の一を没収されたらしい。


 一応、生き延びたフレデリカだが、このまま無事に済まされることはないだろう。

 ……正しくは、被害を受けたマーシャル家が、無事に済ませるはずがない。


 ウォーレンについてはもっと悲惨だ。

 何せ、ハロルドの婚約者の手によって両手両足を切断され、もはや自力で生きていくことができないにもかかわらず、そのまま王都の貧民街に放り出されたのだから。


 こうなれば、ただ棄てられたまま野垂れ死ぬか、野良犬に食い殺されるか、あるいは物好き(・・・)の手によって(もてあそ)ばれるか……考えただけで、目を背けたくなる。


 そして、俺の専属侍女だったマリオンは。


「ウィルフレッド殿下、食事のお時間です」


 このカディット塔において、俺の世話を命じられた。

 今回のハロルド暗殺に関与していないことは認められたものの、これまで俺に付き従っていた経緯から、全面的に罰を受けないというわけにはゆかず、俺が与えた騎士としての身分も剥奪。


 最下級の身分の侍女として、ここに強制的に配属させられている。


「……マリオン、俺を恨むか?」

「まさか。このような結果を招いたのは、全てはこの私の見る目(・・・)のなさ(・・・)によるものですので」

「チッ……」


 マリオンの盛大な皮肉に、俺は思わず舌打ちをした。

 元々、この女はハロルドの専属侍女だった時、『無能の悪童王子』と(さげす)んだことによって見限られ、俺にあてがわれたのだ。


 最初の頃は『(けが)れた王子』と呼ばれた俺を(うと)んでいたが、エイバル王の支援を得てカーディスの右腕として派閥入りを果たし、王宮内で確固たる地位を築いた途端に、この女は()びを売ってすり寄ってきた。


 『そこまでして実家の再興を果たしたいのか』と尋ねたら、マリオンは臆面もなく頷いたことを覚えている。

 この時、俺とマリオンは似た者同士だと思った。


 目的を果たすために手段を選ばないところは、まさしく俺だと。


 それからマリオンは誠心誠意尽くし、その身体の全てすらも俺に捧げた。

 好き放題(もてあそ)んでやれば、気づけばすっかり俺の(とりこ)になっていた……はず……だったのに。


 この女はハロルドとの二度目の決闘で、俺を裏切ったのだ。

 俺は、マリオンを絶対に許さない。


「知っているか? この前ウリッセの使い(・・)が現れ、近々俺をここから出す算段をつけるとのことだ」

「…………………………」


 そう言うと、俺は口の端を吊り上げる。

 そうだ。貴様は裏切ったが、俺はまだ死んで(・・・)いない(・・・)


 俺が復権したあかつきには、貴様を真っ先に切り捨ててやる。

 それこそ、今の最下級の侍女としての地位すら幸せであったと言わしめるほどに。


 ちなみに、マリオンもウリッセの存在を知っている。

 あの男は、この女がいようがいまいが、お構いなしに姿を現していたからな。


 あの『戦斧スカイドライヴ』も、マリオンがウリッセから与えられたもの。

 ただし、全てはこの俺が用意したことになっているが。


「そういうことだ。その時を、楽しみにしているがいい」


 俺はマリオンから受け取った食事に口をつける。

 王宮の時と比べて質素極まりないが、これもあと少しだけの辛抱だ。すぐに元の豪華な食事に戻る……っ!?


「が……ぐ……っ」

「ウフフ……どうですか? 最後の晩餐(・・・・・)のお味は」

「ぎ……ぎざ、ま……」


 俺は苦しさで喉を()きむしり、のたうち回る。

 まさか、この女がこのような真似、を……っ!?


「いつまでも現実が見えていないウィルフレッド殿下に、あの御方……ウリッセ様からの伝言です。『君こそまさに、『無能の(・・・)悪童王子(・・・・)』だったね』、と」

「が……ふ……」


 焼けるように熱い腹の中から、俺は大量のどす黒い血を吐き出す。

 ハ……ハ、ハ……結局俺こそが、本当の噛ませ犬(・・・・)、だったか……っ。


 悔しさで涙が(あふ)れ、俺は。


 ――主人公になれなかった、噛ませ犬としての生涯を終えた。

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