僕は黒幕に宣戦布告しました。
「断る」
僕はそう、はっきりと告げた。
「あは♪ さすがはハル君! 話が早い……って、ええええええええええええええええええええ!?」
まさか、僕が断るとは思ってもみなかったようで、ユリは大声で叫んだ。
「ど、どうして!? 主人公だよ!? 今まで馬鹿にしてきたアイツ等に、思いっきり『ざまぁ』できるんだよ!?」
「だけど、僕が主人公になったら、サンドラと婚約者でいられないんだろう?」
『エンハザ』の目的は、『世界一の婚約者を連れてくること』。
つまりそれは、僕に婚約者探しをしろっていうことなんだ。
今の婚約者を捨てて。
「僕の婚約者は、アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエただ一人。なら、こんな提案を僕が受け入れるはずがない」
「ハア……本当に理解してるの? 主人公じゃないのなら、ハル君の役割は噛ませ犬のまま。つまり、どちらにしても彼女との婚約破棄は避けられないんだ」
「どうしてそんなことが言える」
「当然じゃないか。そう決まっているんだから」
なるほど……ユリの言葉から察するに、ゲーム転生あるあるの『強制力』が働くという理解でいいみたいだな。
「どう? 同じ婚約破棄をするにしても、そのほうが君にとって幸せだよね?」
ユリは屈託のない笑顔で僕の顔を覗き込み、誘惑する。
だけど。
「僕の幸せを、オマエが決めるな。それが僕の……ハロルド=ウェル=デハウバルズの運命だって言うのなら、そんなもの、ぶち壊してやる」
「あはははははは! そんなの無理に決まってるじゃない!」
よほど僕の言ったことがおかしかったらしい。ユリは腹を抱えて床に転げ回る。
でも、前世の記憶を取り戻した時から、『運命を変える』ために戦ってきたんだ。そんなの無理? それこそ今さらだよ。
「そういうわけだから、悪いね」
「ハア……ウィルフレッドも馬鹿だけど、君はもっと大馬鹿だよ……せっかく私が、こんないい提案をしたっていうのにさ……」
ユリの奴は、あからさまに肩を落とす。
ただ、不思議なことに、目の前のこの男は言ってみれば僕の真の敵であるはずなのに、なぜか憎めないんだ。
……やっぱり、彼も僕の『大切なもの』だったから、なのかな。
「……後悔したって知らないよ?」
「構わないよ。そっちこそ、覚悟しておけよ? 僕は絶対に、その運命ってやつをぶち壊してやるから」
そう言って、僕は口の端を持ち上げた。
その瞬間。
「ハル様?」
「え……?」
隣にいるサンドラに声をかけられ、僕は我に返った。
ユリといたあの空間から、どうやら戻ってきたみたいだ……って。
「そ、そうだ! ユリは!?」
「ユリ……とは、誰ですか?」
「え……?」
不思議そうな顔を見せるサンドラに、僕は呆けた声を漏らした。
「い、いや、ユリっていったら、僕達の同級生のユリシーズ=ストーンって男子生徒で……」
「ハロルド殿下、そのような生徒はこの学院にはおりませんが……?」
「モ、モニカまで!?」
どうしてこの二人が、ユリのことを知らないんだ!?
「リゼなら知ってるよね!? 聖女様やカルラ殿、それにリリアナだって!」
「ユリ……知らないわね」
「ウィルフレッドとの決闘で、お疲れなのでしょうか……私が回復魔法をおかけいたしましょうか?」
「むむ、初めて聞く名ですね」
「分からないですけど、早くお肉が食べたいです!」
最後のリリアナはともかく、誰も知らないなんてどういうことだ!?
「……申し訳ありません」
「あ、い、いや、サンドラが謝るようなことじゃないから! それより、僕のほうこそ変なことを言ってごめん……」
しょぼん、と落ち込んで謝るサンドラに、僕も慌てて謝罪した。
とにかく、このことについては後で考えるとしよう。
まあ……これでユリが、全ての黒幕だってことは理解したよ。
ちょっと気持ちの整理が追いついていないけど、僕のすべきことはただ一つ。
決められた運命をぶち壊して、不幸な結末を迎えるしかない僕と僕の『大切なもの』の未来を守り抜くことだ。
それに……ユリは知らない。
――僕だって、この世界の全てを知っていることを。
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