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僕の完全勝利でした。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」


 雄叫びを上げ、ウィルフレッドが突撃する。

 勢いがあり、知らない者であれば思わずたじろいでしまいそうになるけど、僕からすれば隙だらけだ。


「っ!?」

「真面目にやれよ。これじゃ、『防いでください』と言っているようなものだろ」


 ウィルフレッドの攻撃をあっさり受け止め、僕は冷たく言い放った。

 なお、先程クリスティアが付与してくれた【軍神の加護】の効果が残ったままみたいで、攻撃を受け止めた衝撃が全然なかった。これ、ちょっと反則かも。


「う、うるさい!」


 『英雄大剣カレトヴルッフ』を放り捨て、ウィルフレッドは『魔皇星銃サモントリガー』を抜き、【アビスアサルト】を連射する。


「いや、前回の闘いでも全部僕に防がれたじゃないか。今さらそんな攻撃、当たるわけないだろ」


 これも盾で難なく防ぎ、僕は呆れた声を漏らした。

 少なくとも僕の実力を知っているなら、もっと戦略を練って仕掛けてくるべきだろ。


「黙れ黙れ! なら、これでッッッ!」

「遠距離特化の武器で、近接戦闘を仕掛けてどうするんだよ」

「これでどうだ!」

「甘い。その武器なら、属性による特殊攻撃を狙うべきだ。ただ振り回すだけじゃ無意味だろ」


 一つ防がれては次の武器に変え、ウィルフレッドがひたすら攻撃を放つ。

 だけど、武器の特性を全然活かせていないし、せっかくのUR武器が台無しだ。


 僕達の闘いを見守っているみんなだけでなく、ララノアやフレデリカ、マリオンまで呆れた表情を浮かべているよ。

 これじゃ、一年前の決闘の時のほうが遥かにまし(・・)だった。


「ウィルフレッド。オマエはこの一年間、何をしていたんだ?」

「っ! 何だと!」

「攻撃の一つ一つに成長の跡が見られず、それどころか武器の一つも理解していなくて満足に扱うことができない。いくら何でも訓練をサボり過ぎだよ」


 この『エンゲージ・ハザード』というゲームは、所詮は恋愛スマホRPG。求められるのはヒロインの好感度とキャラ自身の純粋な強さ(・・)

 恋愛に関してはハーレムを作れたみたいだけど、ちゃんとヒロイン達のケアができていないし、強さだっておざなりだ。僕がプレイヤーだったら、一からやり直しているよ。


「どうせオマエのことだ。国王陛下や“ウリッセ”という男からの支援に胡坐(あぐら)をかいていたんだろうな」

「貴様に何が分かる! 俺のこの一年間を……次の王になるために、どれだけ犠牲にしたと……!」

「じゃあやり方(・・・)を間違えたんだな。オマエがすべきだったのは、薄っぺらい人間関係を作ることじゃなく、本当に『大切なもの』を見つけることだったんだよ」


 エイバル王の寵愛を受け、“ウリッセ”という怪しげな男からUR武器などの支援を得て、さらには多くの貴族を味方につけた。

 そのことで勘違いしたコイツは、本当の仲間(・・)を得ることができなかったんだ。


 何度も言うけど、『エンハザ』は恋愛スマホRPG。

 『世界一の婚約者を連れてくる』という最終目標はあるけれど、結局はヒロイン達との絆を繋ぐゲームなんだ。


 その絆の意味を取り違え、権力者の庇護を得てハーレムを作ることだと勘違いしたこの男に、勝利なんて永遠にない。


「クソッ! クソッ! クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」

「……(あわ)れな奴」


 何度も執拗に繰り出すウィルフレッドの攻撃を受け止め、僕はポツリ、と呟く。

 僕は、せめてこの間違えた(・・・・)主人公の攻撃を受け止め続けてやるよ。


 それが、前世で『エンゲージ・ハザード』を愛してやまなかった男としての、せめてもの恩返し(・・・)だ。


「ハア……ハア……ッ! ま、まだ……」


 あれから一時間が経過し、ウィルフレッドは既に疲労困憊(こんぱい)となっている。

 途中、何度もアイテムを使ってSPを補充していたけど、それも全て底が尽きたみたいだ。


 このゲームは、どれだけ優れたアクティブスキルや武器を持っていようが、SPが尽きれば意味を成さない。


 僕? 僕は、SPだけは九九九でカンストしているハロルドだよ?

 二十四時間キャスに供給し続けても、それでもお釣りがくるから。


「う……うおおおお……っ」


 ――カツン。


 ウィルフレッドによって力なく振り下ろされた剣が、『漆黒盾キャスパリーグ』に当たる。

 その威力は、棒切れで叩いたものと大差ない。


「どうした、もう終わりか?」

「……この、バケモノ……め……っ」


 失礼な奴だな。僕はただ、オマエの攻撃を全部受け止めただけじゃないか。

 オマエが何もできなかったのは、ただ実力不足なだけだ。


「も、もうやめて! ウィル様の負けでいいから!」

「お願いします! 私達が悪かったです! このとおりですから!」


 見かねたララノアとフレデリカが必死に訴えるけど、何を勘違いしているんだろうか。

 この決闘は僕とウィルフレッドの二人で始めたものであって、どちらが勝者なのかは僕達が決める。エイバル王によって強引にセッティングされた、前回の時とは違うんだよ。


 僕は冷ややかな視線を二人に送り、再びウィルフレッドへと向き直る。

 そうだ。コイツが二度と僕達に手出しをしないようにするまで、その心をへし折り続けてやるとも。


「ほら、どうした。僕はこのとおり元気だよ」

「っ! く、くそ……お……お……っ」


 (ひざまず)くウィルフレッドに蹴りを入れ、とうとう泣き出してしまった。

 それだけ、『無能の悪童王子』と(さげす)んできた僕にあしらわれることが、屈辱的なんだろう。


 でも、僕は容赦しない。

 ここで不用意に手を抜けば、それだけ僕の『大切なもの』に危険が及ぶかもしれないのだから。


 そう……今回のように。


「ウィルフレッド、どうした」

「う……うぐ……っ」


 僕の攻撃なんて、所詮は物理最弱のハロルドなんだから、キャスの【スナッチ】以外はコイツには効いていないはず。

 だから、コイツからすれば手加減され、(なぶ)られているとしか思っていないかもしれないね。


 そして。


「お……俺の、負け……です……っ」


 決闘が始まってから、三時間。

 とうとうウィルフレッドは、嗚咽(おえつ)を漏らして敗北を認めた。

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