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聖女が僕を裏切るはずがありませんでした。

「……うふふ、油断大敵ですよ? ハロルド殿下、皆さん」


 ニタア、と口の端を吊り上げるクリスティアが、僕に……僕、ユリ、リリアナに効果不明(・・・・)のスキルを放った。

 このスキルは……まさか!


「聖女様!」

「さあウィルフレッド殿下、これで勝負は決まりました。あとは、ただ蹂躙(じゅうりん)するだけです」


 胸に手を当て、優雅にお辞儀をするクリスティア。

 その間にも、カルラは攻撃の手を休めることはなく、僕は捌き切れなくなっていた。


「ああ、クリスティア……やはり君は、あの男の(そば)にいるよりも、この俺の隣にいてこそ輝ける」


 ウィルフレッドは恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべ、クリスティアに歩み寄る……んだけど。


「うふふ、ありがとうございます。ですが、今は戦いの最中。私などにお構いになるより、まずは皆さんの排除を」

「コホン……そ、そうだったな」


 笑顔で明確に拒絶されたウィルフレッドは、咳払いをしてごまかすと、『英雄大剣カレトヴルッフ』を(さや)から抜いてリリアナ達……ではなく、僕へと向き直った。


「やはり、カルラとともに貴様を先に始末したほうが早いからな。我が兄ハロルドよ、大人しく剣の錆となるがいい」

「馬鹿じゃない? そもそも僕を事故に見せかけるって設定はどこに行ったんだよ」

「心配いらない。問題なく事故として処理をするさ。ただし……仲間の(・・・)凶刃(・・)によって倒れるという事故でなッッッ!」


 ウィルフレッドが剣の切っ先を向け、こちらに突撃してきた。

 一瞬ユリのほうを見ていたから、おそらくコイツの言う『仲間の凶刃』というのは、ユリを犯人に仕立て上げるって意味だろうな。


 何せ、ユリの実家であるストーン辺境伯家は、かつてブリント島を支配したノルドの民の末裔だから。

 積年の恨みによる犯行だとすれば、誰も疑いもしないだろうね。コイツの考えそうなことだよ。


 だけど。


「っ!?」

「そんなに上手くいくわけがないじゃないか」


 僕はウィルフレッドの剣を受け止めるどころか、そのまま盾で思いきり弾き飛ばした。

 『エンハザ』物理攻撃力最弱の、この僕が。


「な、なぜだ! 一年前のあの時よりも、俺はさらに強くなった! いくらハロルドも同じように成長していたとはいえ、この俺を弾き飛ばせるだけの膂力(りょりょく)はないはずだ!」

「まあね。いつもの(・・・・)僕なら、こんなことはできないよ。でも……これは、僕だけの力じゃない」


 そう言うと、僕は振り返ってクリスティアを見つめた。

 気づけばカルラも、既に攻撃をやめている。


「いやあ……聖女様の能力は、素晴らしいですね。こんな僕でさえ、ここまで能力が底上げされるんですから」

「うふふ、ありがとうございます」


 クリスティアは僕を見つめ、ニコリ、と微笑んだ、

 先程までの光を失った瞳に、輝きを取り戻して。


「ど、どういうことだ! クリスティアは、ハロルド達の能力を封じたのではないのか!」

「まさか。私がハロルド殿下やお二人に与えたのは、【軍神の加護】。今、皆さんは通常の三倍の膂力(りょりょく)がありますよ?」


 困惑した表情で声を荒げるウィルフレッドに、クリスティアはわざととぼけて説明する。


「そ、そう言うことを言っているんじゃない! 君はララノアの能力で、この俺に従っていたのでは……っ!」

「まあ! まさか聖女の私に、そのような卑劣な真似をなさったというのですか! ……これは、この実技試験が終わり次第、バルティアン聖王国として絶対に見過ごすことはできません」

「っ!? あ、い、いや……」


 驚きの表情を見せたかと思うと、クリスティアは底冷えするような声で告げた。

 事の重大さに気づいたウィルフレッドは、思わずしどろもどろになる。


 なお、ウィルフレッドのチーム編成を知った時点で、ララノアが【妖精達の悪戯】によってクリスティア達を洗脳しようとすることは目に見えていた。

 だから僕は、クリスティアにあらかじめ耳打ちしておいたんだ。


 ウィルフレッド達のチームに合流する前に、【アイギスの盾】を発動しておくようにって。


 彼女の固有スキルである【アイギスの盾】には、物理攻撃及び魔法攻撃によるダメージの軽減の他に、全ての状態異常を無効化する効果がある。

 しかもこのスキル、ララノアの【妖精達の悪戯】と違い、一度発動させれば戦闘終了まで効果は永続。他のスキルとの併用も可能だから、ちょっと反則じみているんだよね。


 そういうことなので、クリスティアとカルラは、最初から正気のままだったってことだ。


「それで……この不始末をどうなさるおつもりで? この私を操ろうとしたばかりか、実の兄であり第三王子のハロルド殿下を亡き者にしようとされたのです。あなた(・・・)ごとき(・・・)の命で、償えるとは思わないことですね」

「う……」


 有無を言わせないクリスティアの声に、ウィルフレッドは(うめ)いた。


「ま、待ちなさいよ! あなたを洗脳しようとしたのは私で、ウィル様は関係……」

「なるほど。つまりシェルウッド王国は、聖王国を敵に回す……そういうことでよろしいのですね?」

「あ……う、うう……」


 世界中に信徒がいるバルティアン聖王国だ。光の森しか領土を持たない小国のシェルウッド王国が、太刀打ちできるはずがない。

 故郷が滅亡の危機に(さら)されて、ようやく自分の愚かな行為に気づいたようだ。


 でも、彼女だってウィルフレッドの被害者なのだから、許される……なんてことはしないよ。

 僕の『大切なもの』を洗脳するなんて卑劣な真似をしたこの女を、僕は絶対に許さない。


「いずれにせよ、ウィルフレッドは僕の命を狙い、そこにいるララノア=エリンを使って聖女であるクリスティア様を洗脳しようとした。このまま、ただで済まされると思うな」

「…………………………」

「ど、どうしよう、ウィル様……っ」


 無言でうつむくウィルフレッドに、ララノアが(すが)りつく。

 そんな二人に、僕達は冷ややかな視線を送っていた。


 すると。


「……問題ない」

「ウィ、ウィル様……?」

「問題ない。ここにいる全ての者を始末すれば、誰もその事実を知る者はいない」


 ウィルフレッドが顔を上げ、口の端を吊り上げた。

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