僕の『大切なもの』が、洗脳されました。
「ララノア。一応は俺の兄になるのだから、いきなり攻撃を仕掛けてはまずい。ハロルドは、不慮の事故で死ぬのだから。君達もそう思うだろう?」
「「はい……」」
瞳に光を無くしたクリスティアとカルラを引き連れ、涼しい表情のウィルフレッドが姿を現した。
なるほど……これはララノアの固有スキル、【妖精達の悪戯】で二人が洗脳されたんだな。
「オマエ、本当に何も隠さなくなったな。どうせオマエのことだから、既に各所に配置されていた教師は排除済なんだろうけど、それでも、他の生徒と遭遇するかもしれないってことは想定しないのか?」
「心配いらない。俺の仲間達が他の生徒達が近づかないようにしてくれている」
「仲間達? ハーレム要員の間違いじゃないのか?」
そんな皮肉をぶつけてやると、ウィルフレッドが露骨に顔をしかめた。
どうやら本人も自覚があるようで何よりだよ。というか、言われるのが嫌ならもう少し控えろよ。この色ボケ野郎。
「何ですかコイツ! これがウィル様の兄だなんて信じられない!」
「仕方ない……兄といっても母親も違うし、第一王子のカーディスの元腰巾着だったんだからな」
何だろう、自分の母親が優秀だとでも言いたいんだろうか。
まあ、男爵令嬢という身分でありながら、その美貌をフルに活用したとはいえ、第三王妃まで上り詰めたんだから、悪知恵はあるのかもしれないけど。
「だけど、オマエ自身は大したことないけどね。実際、一年前の決闘で僕に敗れているんだから」
「っ! それだって、アンタが卑怯な真似をしたんでしょう! ウィル様が言ってたもの!」
「そうなのか?」
「…………………………」
プッ。ララノアはフォローしたつもりなんだろうけど、それってウィルフレッドにとっては恥の上塗りでしかないぞ。
確かに王宮は『ハロルドが不正を行った』との噂を流したけど、全ての貴族と王都の民衆は僕達の決闘を目の当たりにしていて、これが不正ではなかったことは明白だ。
何より、実際に戦った相手に『不正だ』と宣ったら、それこそ恥ずか死ぬんじゃないか? 自分で穴を掘って入ることをお勧めするよ。
「まあいいや。それで、僕を事故に見せかけて始末するんだろう? 早くしろよ」
僕は『漆黒盾キャスパリーグ』を構え、臨戦態勢を取る。
それに合わせ、ユリは両手をウィルフレッドに向けてかざし、ララノアも腕を振り回した……って。
――ガキンッッッ!
「……先手はカルラ殿か」
「ハロルド殿下、お覚悟を」
虚ろな瞳のカルラが、感情を一切なくした表情で攻撃を仕掛けた。
その様子を眺め、ウィルフレッドとララノアがニヤニヤと不快に笑っているよ。
僕の『大切なもの』に闘わせたら、僕が手出しできないって考えているのかな。姑息なウィルフレッドの考えそうなことだ。
こんなのが『エンゲージ・ハザード』の主人公なんだから、笑うしかないね。
……ただ、効果は抜群だ。
「ハル君!」
「ハルさん! 私も!」
「駄目だ! 二人まで加わったら、それこそカルラ殿を傷つけてしまう!」
「「で、でも!」」
二人は悔しそうに唇を噛むけど、『大切なもの』同士が争うなんて、絶対に受け入れられない。
なあに、心配しないでよ。そもそも僕は、防御だけなら今じゃ『エンハザ』ナンバーワンだ。カルラが疲れて剣をひと振りもできなくなるまで、ずっと防ぎ続けてみせるよ。
「それより、二人はウィルフレッドを警戒してくれ! きっとアイツ等は、君達に狙いを定めてくる!」
「う、うん!」
「分かりました!」
こう言っちゃなんだけど、この世界には主人公が二人。
ポテンシャルだけなら、リリアナとウィルフレッドは互角のはず。なら、ユリがサポートすればむしろこちらが優勢だ。
「っ! 私を無視しないでよ!」
「あはは! 何を言ってるの! カルラ殿と聖女様を洗脳しているから、手出しできないくせに!」
そう……『エンハザ』において【妖精達の悪戯】というスキルは、残念ながら通常のバフやデバフのスキルと違い、使用者であるララノアが解除しなければ他のスキルを使用できない。
しかも、ララノア=エリンというヒロインは、『エンハザ』の中でも物理関連の能力値が低い。肉弾戦ならリリアナの足元にも及ばないよ。
「ララノア、心配いらない。この俺が、彼女達をハロルドから救い出してみせる」
言うに事欠いて、まるで僕が二人を支配しているみたいじゃないか。
ま、まあ、確かにリリアナに関しては、肉で支配していることは否定しないけど。
「うわあ……ユリさん聞いた?」
「うん。アレ、完全に自分に酔ってるよね」
「「キモチワルイ」」
ユリとリリアナが、ウィルフレッドの発言にドン引きしているよ。
二人のその一言が癇に障ったようで、ウィルフレッドの奴、メッチャ青筋立ててるし。
「……やはり『無能の悪童王子』と交わると、その心まですさんでしまうようだ」
「ウィル様! あんな連中、まとめてやっつけてください!」
やれやれとかぶりを振るウィルフレッドに、ララノアが拳を振り上げ檄を飛ばす。
そんな二人の様子を見て呆れながらも、僕はカルラの攻撃に押され、少しずつ後退していた。
その時。
「っ!?」
「……うふふ、油断大敵ですよ? ハロルド殿下、皆さん」
ニタア、と口の端を吊り上げるクリスティアが、僕に……僕、ユリ、リリアナに効果不明のスキルを放った。
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