それぞれのダンジョン攻略② ※アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエ視点
■アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエ視点
「フレデリカ嬢、よくやってくれた」
「! ウォーレン!」
肩に巨大な剣を担ぎ、醜悪な笑みを浮かべて現れたのは、屑二号のウォーレン=ギブソンでした。
つまり、この男が教師達を排除したということですね。
まあ、そもそも学年が違うこの屑二号なら、実技試験の間も自由に動くことが可能だったのでしょう。
「ふふ」
「っ! な、何がおかしいのですか!」
「いえ。こんな屑が一人増えたところで、どうしてそんなに安心しきった顔をしているのかと思いまして」
クスクスと嗤う私に対し、フレデリカは醜悪に顔を歪める。
分かりますよ。自分が優位な状況に立っているにもかかわらず、あなたは不安なのですよね?
これだけ準備を整えても、なおもあなたは勝利を確信できない。
ええ、ええ、そうでしょう。
あなたが抱いているその不安、間違いありません。
だって。
――あなたは、これから地獄を見るのですから。
「「っ!?」」
私の身体を拘束していた(つもりの)茨の鞭を無造作に引きちぎり、私は一歩、また一歩と二人に近づく。
ああ、いけません。思わず口の端が吊り上がってしまうではないですか。
今からこのダンジョンを、あの者達の血で塗りつぶした光景を思い浮かべて。
「ヒ、ヒイイイイイイイイ! バ……バケモノ……ッ」
「な、なんだその目は!?」
「この目? 気にする必要はありません。あなた方は今日、ここでその生涯を終えるのですから」
私は『バルムンク』を鞘から抜き、切っ先を二人……いえ、まずは屑二号へと合わせます。
「さあ、かかっていらしてはいかがですか? それとも……こんな小娘一人に、恐怖しているとでも? 滑稽ですね」
ああ、駄目です、笑いが込み上げてしまい、抑えることができません。
ハル様に仇なすこの者達を屠ることができるなんて、なんて幸せなのでしょうか。
そう……ハル様の敵など、この世から全て消えてしまえばいい。
そのためなら、私はいくらでもこの手を屑どもの血で汚しましょう。
「チッ! 舐めるなああああああああああああああああッッッ!」
「おやおや、ようやくですか。待ちくたびれましたよ」
大仰な剣を肩に担ぎ、叫びながら突撃してくる、愚かな男。
ですが……ふむ、たった一撃で終わらせてはつまらないですね。
やはり、羽虫は一枚ずつ羽根をもいでいくのが醍醐味ですから。
「っ!? ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」
「ああ、うるさい男ですね。たかが腕一本切り落とされたくらいで、大袈裟に叫ばないでください」
ほんの少し『バルムンク』を動かしただけでこの騒ぎです。
この男、本当に騎士団長の息子なのでしょうか。実力も、品性も、いずれもありませんね。
「っ!? アガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」
「これでよくなりました。やはり、左右の釣り合いは取れたほうがいいですから」
残る腕も切り落とし、屑二号は床を転げ回ります。
そんなことをすれば出血がより多くなり、死が早まってしまいますよ?
「さあ、次は足です」
「ままま、待ってくれ! このままでは俺は死んでしまう!」
「ええ、知ってますよ? だって、私がオマエを殺すのですから」
「ヒ、ヒイッ!?」
私が一歩近づくたびに、屑二号が芋虫のように這いつくばって後退する。
ふふ! まさに屑にお似合いの姿ではありませんか!
ああ! この屑の姿を、愛しのハル様にお見せできないのが残念です!
きっとあの御方は、この私を褒めてくださったでしょうに……って。
「……モニカ?」
「もうここまででよろしいでしょう。ハロルド殿下のお言葉をお伝えいたします。『僕のことが大切なら、決してウィルフレッドの手の者を殺さないでほしい』とのことです」
「あ……」
モニカの言葉を聞いた瞬間、私の全身から力が奪われ、『バルムンク』を床に落としてしまいました。
つまり……つまり私のしたことは、あの御方の想いに背いた……という……こ、と……。
「あああああああああああああああああ!? ど、どうすればいいのでしょうか!? このままでは、ハル様に見限られてしまいます! そんなのは嫌! 嫌ですッッッ!」
自分の犯した過ちに、私は頭を掻きむしる。
ハル様に捨てられたら、もう生きる価値はありません!
もう……もう……っ。
「ご安心ください。ご覧のように、この屑は死んではおりません。なら、ハロルド殿下はきっとお嬢様を褒めてくださいますでしょう」
「ほ、本当……?」
「はい。このモニカが、ハロルド殿下に事実をご説明いたしますので、何も心配ございません」
「あ……あああ……」
心の底から安堵し、私はその場でへたり込んでしまいました。
よかった……私はまだ、あの御方のお傍にいることができる……。
「さて、こうなってしまっては実技試験どころではありません。ハロルド殿下のご計画どおり、合流するといたしましょう」
「ハル様の計画……?」
「はい。合流地点へ向かうまでの間に、ご説明いたします」
そう言うと、モニカは転がる屑二号を肩に担ぎ上げました。
「フレデリカ様」
「ヒッ!?」
「僭越ながら、そのお背中に魔獣を呼び寄せる液体を付着させていただきました。このまま私どもについてきていただけるのであれば問題ありませんが、ここでお別れになられるのであれば、その時はお一人で魔獣とお相手くださいませ」
「っ!? つつ、ついて行きます! ですから、どうか見捨てないで!」
ふふ、必死ですね。
本当はこの女も始末したかったですが、これで我慢するといたしましょう。
「……私、絶対にサンドラには余計な手出しはしないでおきますわ……」
リゼがそのようなことを呟いておられますが……ふふ、あなたにそのようなことをするはずがありませんよ。
――ハル様の、『大切なもの』であるうちは。
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