それぞれのダンジョン攻略① ※アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエ視点
■アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエ視点
「なるほど……ここは、かなり古いダンジョンのようですね」
所々朽ちている壁を眺め、私はポツリ、と呟く。
この世界には“ダンジョン”と呼ばれるものが数多く存在しています。
ダンジョンの奥には金銀財宝の他にも、非常に珍しい武器や防具、それに道具や薬など、発見すれば三代の富を築くことも可能。
そのため、一攫千金を夢見る『冒険者』と呼ばれる者達だけでなく、国家さえもダンジョンの探索に注力しています。
たとえ、生命の危険を冒してでも。
さすがにこのダンジョンは、王立学院の年末試験として用意されたものですので、生徒の安全には配慮されているので、その心配はいりませんが。
その証拠に、ほら、そこかしこに学院の教師が上手く姿と気配を隠して、私達を見守っています。
だから。
「フレデリカさん、このペースで進んでも大丈夫ですか?」
「え、ええ。この程度でしたら、問題ありません」
彼女……フレデリカ=オブ=マーシャルが、ウィルフレッドの指示で何かを仕掛けるのは難しいでしょうね。
とはいえ、彼女はどこか顔色が優れない様子。
この調子で、本当に目的を果たすことなどできるのでしょうか。
「フフ……早く魔獣が現れないかしら。見つけた瞬間、この私が焼き尽くしてあげるのに」
巻き髪を左手で払い、リゼが不敵な笑みを見せます。
彼女はハル様とあの屑……ウィルフレッドとの確執は知っていますが、その取り巻きである令嬢方の存在にまでは及んではいないようですね。
まあ、それも仕方ないでしょう。
そもそも彼女はカペティエン王国の第一王女ですし、他国の貴族令嬢のことまで把握するなど不可能です。
いずれにしましても、この大切な親友は、私とモニカが必ず守ります。
それに、リゼもまたハル様の『大切なもの』の一人ですから。
すると。
「……皆様。目の前の十字路の左に、魔獣が潜んでおります」
先頭を歩いていたモニカが私達を制止し、抑揚のない声で告げます。
ようやく魔獣がお出ましのようですね。
「リゼ、フレデリカさん。お気をつけください」
「フフ! どうして気をつける必要があるの? 私とサンドラ、それにモニカがいれば魔獣の一匹や二匹、取るに足らないわ!」
……彼女の性格は嫌いではないですが、戦闘に関して妙に強気になるところ、少し控えてほしいですね。このチームを率いている身として、普段のハル様の気苦労が窺えます。
それはそれで、ハル様と想いを共有できて幸せですが。
「お嬢様。許可をいただければ、私が仕留めてまいりますが」
「そうですね。お願い」
「お任せください」
モニカは恭しく一礼すると、一瞬で私達の前から姿を消す。
そして。
「ジャアア……ア……アア……ッ」
魔獣の息絶える鳴き声が、ダンジョンの通路内に微かに響いた。
「まいりましょう」
「え、ええ……」
「…………………………」
私達は十字路を左に曲がると、横たわる大蛇の魔獣の身体と、切断された九つの首が通路に転がっていました。
さすがはモニカ、見事な手並みですね。
「では、討伐の証である牙を……」
「既に入手しております」
「ふふ、ありがとう。では、先に進みましょう」
私達は大蛇の魔獣を踏みつけ、そのまま通路の奥へと向かいます。
ですが……フレデリカさんは、ますます顔色が悪くなりましたね。魔獣ごときに、臆したということでしょうか。
「フレデリカさん、大丈夫ですか?」
「ヒッ!? い、いいえ……」
……心配して声をかけたというのに、悲鳴を上げるなんて失礼ですね。
とはいえ、様子を見る限りでは、やはり戦闘を経験したことはもちろんのこと、あまりこういったことは得意ではないようです。
なら、そこまで警戒する必要も……っ!?
「……フレデリカさん、これはどういう意味でしょうか?」
突然、私の身体を茨の鞭で拘束したフレデリカさん……いえ、フレデリカ。
やはり、あの屑の指示を受けて仕掛けてきましたか。
「あ、あなた達がいけないのよ! 私のウィル様の邪魔ばかりするから!」
「邪魔、ですか。面白いことを言いますね」
「ヒッ!?」
本当に、この女は何がしたいのでしょう。
軽く殺気を向けただけで、青ざめて膝が笑っているではないですか。
まあいいです。
明確に私達に敵意を向けたのですから、遠慮なく叩きのめすといたしましょう……って。
「これは……」
「ど、どう? 私の【シェルバインド】は。さ、さすがのアレクサンドラ嬢でも、この拘束から逃れることは無理よ」
声を震わせて強がるフレデリカですが……なるほど。確かにこれは、少々面倒かもしれません。
おそらく彼女の能力なのでしょうが、普段の力の十分の一……いえ、二十分の一は封印されてしまったようです。
「な、何をしたんですのよ! すぐにこれを解きなさい!」
「そ、そんなこと、できるわけないじゃないですか! あなた達はここで、二度とウィル様に逆らえないように躾けるんですから!」
リゼが叫ぶと、フレデリカはヒステリックに宣う。
本当に、馬鹿な女。こんなことをしたところで、あの屑から真の寵愛を受けることはないというのに。
私の番であるハル様とは、何もかも違うというのに。
「そういえば、教師達がこの異変に気づかないのは不思議ですね」
「当然じゃない! このダンジョンに配置された教師は、既に排除済みです!」
「そうですか」
淡々と告げると、まるで勝ち誇ったかのように叫ぶフレデリカ。
この女の実家であるマーシャル公爵家程度ではそのような権限はないでしょうから、あの屑が国王の力を借りてそのようにしたか、あるいは……ああ、なるほど。後者のほうでしたか。
「フレデリカ嬢、よくやってくれた」
「! ウォーレン!」
肩に巨大な剣を担ぎ、醜悪な笑みを浮かべて現れたのは、屑二号のウォーレン=ギブソンでした。
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